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《洞窟__入り口付近》
「なるほど……また、あの姿に――」
洞窟の外では、相変わらずの豪雨。
雷の代わりに、どこかで魔法が炸裂する音が響いていた。
「でも、よかった。
あのときのリュウト君……ちょっと会話できる雰囲気じゃなかったからね」
「……はい。アオイさんの判断は正解でした。
もう、あの姿で……仲間を傷つけたくないんです」
……なにそのセリフ。
カッコよすぎか。完全に主人公かよ!
「で、ところでさ、これからどうするの?」
「それなら、大丈夫です。
きっと、キールがなんとかしてくれますから」
「キール……?」
ん?どこかで聞いたような? でも思い出せない。
首をかしげる俺に、リュウト君が――
「はいっ!あの人、本当にすごいんですよ!
騎士団最強で!それでいて礼儀正しくて!冷静沈着で!あと剣技が――!」
って、めっちゃテンション上がってる!
目ぇキラッキラしてるやん!
……いやいや、君さっきまで死にかけてたのよ?
無邪気すぎんだろ、マジで。
「キールはすごいんですよ! アオイさん! そうだ、どうせ時間ありますし、今のうちにキールの話しませんか!?」
「え!? あ、う、うん! わ、わかった!」
……わかったって言っちゃったけど。
わかってない俺、今完全に“話題泥棒”されてるよ!?
ていうか!
そもそも!
この状況の説明からしてくれよぉおおおお!!??
「キールは昔――」
そこからリュウト君は、めちゃくちゃ楽しそうに語り始めた。
手振り、目線、テンション、全部フルスロットル。
キールという名の人物に、どれだけ人生を捧げてきたのかってくらい饒舌で、
なんかもう……俺にとっては、完全に初耳なんですけど?
……で、気づいたんだけどさ。
もしかしたら、リュウトはわざと話を逸らしてくれてたのかもしれない。
俺が不安にならないように、怖がらないように、
この意味不明すぎる状況から目を逸らせるように――
――――そして、数十分後。
「……で、そのときルコサさんが、ノルクレッドって魔物の下に潜り込んで、罠魔法を――あ、来たみたいです」
「へっ?」
突然話を切ったリュウトが、洞窟の外へ視線を向ける。
相変わらずの豪雨と、定期的に炸裂する光の弾。
そこに、何かを“感じた”らしい。
……いやいやいや、なにそれ!?
気を感じるタイプ!?
ドラ○ンボールの修行済んでんの!?
俺には見えないし感じないし、こっちは完全に状況迷子なんですけど!
「?」
「……まじか。なんで、あいつが……」
「え? え??」
明らかに何かを感じ取ったっぽいんだけど、
どうしてあんたにだけ見えるの!?何その感知能力!?
俺も慌てて同じ方向を見た――けど。
豪雨のカーテンの中、ぼやけた二つの人影が……!?
目を凝らしてみてた瞬間__
「って、うわ!? は、はやっ!?」
一瞬で、その二人は目の前に現れていた。
いやいやいや!なんなの!?今のワープ!?
俺、影しか見えてなかったよ!?
アニメとかで「アオイ視点草」とか言われるやつじゃんこれ!!やめてぇぇ!!
「……キール。来てくれると思ってたよ」
「リュウト!? 無事、だったか?」
え!? え、え、え???
今なんかサラッと名前呼んだ!?てか、なんか知り合い感強すぎない!?
「紹介するよ、グリード代表騎士――キールだ」
「やっぱり……! あのときの人!」
そうだ、この声!
この空気感!
間違いない、あのとき――
「また会いましたね、アオイさん」
そう! この人!
あのとき、あの洞窟で俺を助けてくれた――
あの騎士だ!!
「え? え??」
リュウトが、俺とキールを交互に見てる。
どうやら俺がキールを知ってるのが意外だったらしい。
「……あのとき洞窟の中で助けていただいて、本当にありがとうございました!
おかげで二人とも、生きてこれました!」
そう、あのとき。
俺たち、あの絶望の中で――
……まぁ、またピンチになってるんですけどね!!!
「そうか……良かった、本当に」
キールは、ほんのり泣きそうな顔になってた。
え、何……そんな心配してくれてたの……良い人すぎるでしょ……
「それで、キールはともかく――なんでお前がここにいるんだ、エス」
「…………アオイ、迎えに来たぞ」
「え? あ、はいっ!?」
……え? ちょっと待って今の流れ……
リュウトの名指し、思いっきりスルーしたよね!?
「おい! 無視かよ!!」
「ちっ……なんだ、また斬られたいのか?」
「っ!!」
やめてやめてやめて!?
完全に物騒な会話始まったんだけど!?
それ、普通に殺人予告だよね!?ねえ!?
「……お前たち、いがみ合ってる場合じゃない。
山亀から脱出するぞ」
「え? 山が――うわっ」
気づいたらキールにお姫様だっこされていた。
うひゃあ!?はっず!!!
あ、でも、うわ……なにこれ……めっちゃ安定してる……寝れる。
「ちょ、ちょっと!? キール、それは俺の役!!」
……え?なにその台詞。
“俺の役”ってなんだよ!?婚約者かよ!!
ちなみに今の俺、走ったらスピード常人以下だから、
背負うでも抱くでも馬車でもドローンでも、どうぞご自由にって感じです。
「この中で盾を持ってる私が一番安全だ。
それに、お前は何かあったときに攻撃にまわれるだろう」
……あぁ、正論だ。
まごうことなき正論だ。
でもリュウトの顔、今すごく複雑になってるから、誰か慰めてあげて。
「お、俺は……レイピアが……!」
「ヒロユキは、武器召喚できてたぞ」
「!? ヒロユキもここにいるのか!」
「……あぁ。お前のことも、少し話してたよ」
「そっか……!」
リュウトがめちゃくちゃ嬉しそうな顔してる。
そうかそうか……我が弟はこの世界でも、ちゃんと強い友達に囲まれて元気にやってるのね……
兄は感動しているぞ。良かったな。
「……早く行くぞ」
エスが空気読まずにそのまま背中を向けて歩き出した。
いや、テンション差よ!?
「そうだな。積もる話は、討伐が終わってからだ」
「討伐……?」
「我々は今、大型魔物を討伐中だ」
「え? あ、はい」
ほうほう、なるほどね?
つまりこの山に何かとんでもないモンスターがいて、みんなで戦ってるから俺は非戦闘員として保護対象……と。
ふむふむ、納得――
「その魔物の名前は『山亀』。
標高3000メートル――この山そのものだ」
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?
おまっ、それって!
富士山とほぼ同じやつじゃん!!?
ええええええ!?
いやいやいやいや、“でかい”とかの次元じゃないんですけど!!?
頭おかしいのかこの世界!!
「ほら、行くぞリュウト。下でみんな待っている」
「おう、任せろ!」
リュウトは手をかざし、すっと呪文を唱える。
「【武器召喚】」
眩い光が集まり――そこに現れたのは、太くて長くて、装飾の施された見事なランス。
かっけえええ!!
「……久しぶりだな、相棒」
相棒って言っちゃってるよこの人ーーー!!
ってツッコんでたら、その瞬間。
キールの後ろ――俺の視界の先から、バリアを抜けた光の弾が飛んできた!
「っ、あぶなっ――」
キールは俺を抱えてるから、俺からは見える。
でも本人からしたら完全に死角だ!
これ、やば――
「【武器召喚】」
「え!? うぉあっ!」
キールの持つ盾が光を放ち――
そのまま裏拳みたいな動きで、俺を抱えたまま弾いた!?
な、なにこの人達……
カッコよすぎて怖いんですけど!?
「さあ、行くぞ」
「……お、おう」
もう言葉が出ない。
俺はそのまま、お姫様だっこされながら豪雨の中を運ばれていった。
「お、お手柔らかにお願いします……」