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#バトル
レンタロウ一行は、比較的攻略しやすそうな洞窟タイプのダンジョンに来ていた。
小高い山をハイキング気分で抜けると、ダンジョンはある。
案内板がいたるところにあり、迷うことなくたどり着いた。
「はい、集合! みんないるね?」
ダンジョン入口付近で会議を開く。
「これからダンジョンに入るわけだが――」
「なあ、連たん。どうやって戦うん?」
「この世界って、剣とか槍とか武器と呼べるものがないからな……」
「ここ数百年、戦争っぽいものなんて、なかったっすからね」
フライパンのようなものを振り回すランベルト。
モンスターを調理しようとしているのだろうか。
代用できそうなものといえば、バールのようなもの、案山子、来る途中でクスねたダンジョンの案内板くらいか。
「武器がないってのは不安だよな」
「連太郎、そこはこの私、エルネスタにお任せですわ。女の武器を使いますわよ。服を脱ぎますわよ!」
むしろ脱いでくれ。目が痛い……。
黄色い修道服を着用したエルネスタ。
緑色のガーターベルトをチラつかせる姿は、木に実ったレモンに見える。
「それでだ。怪物との戦闘は極力さけたい。異論はあると思うけど、怪物は殺したくない。各自パンチとかキックで乗り切ってほしい」
ダンジョン探索の主な目的は、お宝さがしと、メンバーの能力を把握することだ。
血の気の多い種族がいないからか、皆がコクリとうなずいた。
「自分の命は最優先だ。最悪の場合は怪物くんをぶちのめしてもいい。あとね、“味方がピンチでも放置プレイ”でいいから。可能だったら助ける感じで」
少々困惑している様子だったが、全員は黙って首を縦に振った。
レンタロウとヒカエメは、バールのようなものを装備する。
各自適当な準備が済み、ダンジョンへ突入した――。
★
氷に覆われた洞窟は、歩くのにはまったく支障がないほど明るい。
ところどころゴツゴツとした岩肌が露出しているのが見える。
平均身長くらいの俺が少しかがんで歩けるほどの高さ。
手をいっぱいに広げて壁面に手が届くくらいの幅だ。
「各自、前にいる人の肩に手を乗せて歩いてね。肩から手が離れたら一度振り返ってメンバーの案否確認を頼む。そんじゃ行こうか!」
狭い洞窟を5分ほど歩いたころ。
「ねえ、店長。この洞窟ってゴリラでもいるんすか?」
列の真ん中を歩くランベルトがつぶやいた。
「そういや、入ってからずっとゴリゴリした音が聞こえるよな……」
レンタロウが立ち止まると、後に続く隊列がぴたりと歩みを止めた。
最後尾を歩くヒカエメが立ち止まると、聞こえていた音もやんだ。
ヒカエメのかぶる尖った帽子の先が、トンネンルの天井をゴリゴリとえぐり、かき氷を作っていたらしい。
ここまでの道のりで怪物は出現せず、また、帽子につもった氷の重みでヒカエメがぶっ倒れたこと以外、おもしろイベントもなく難なく通過できた。
長い洞窟をぬけると開けた場所に出る。
一面が氷に覆われ、雪女でも出てきそうな雰囲気だ。
曲がっていた腰をおもいきり伸ばしてみる。
しかし、冷気を帯びた風が吹くたびに、レンタロウの体を一気に縮こませる。
さすがに堪えたのか、メリッサが異世界から飛んできた呪いのかかってそうなセーターを着こんだ。
縮んでお子様サイズになったセーターを無理やり着たメリッサの姿は、下半身が丸裸なので少し萌える。
校長先生が朝礼で長話をするときに上る朝礼台。
隅っこのほうには、サッカーゴール、いろいろな高さの鉄棒、ジャングルジムなどがあることから、ここが校庭だと見て取れる。
「メリッサちゃん、ちょっと待った。トラップがあるかもしれないぞ」
イチゴスライム味のかき氷を一気食いしながら、足を踏み出そうとするメリッサを止めたレンタロウ。
そこかしこに『落とし穴注意』などの立て札がある。
以前探索した人が残してくれたのだろうか。
ご丁寧にも、穴のある位置を矢印で示してくれている。
おめおめ引っ掛かるバカはいないだろう。
「これこそがトラップ! バカ正直に穴の位置を教えるわけないって」
『落とし穴はココ↓』と書いてある立て札の前に立つレンタロウは、
「な、大丈夫だろ?」
レンタロウは、その場で飛んでみせる。
足元の氷が割れ、レンタロウは、仰向けのまま深そうな穴の底へと消えていく。
「店長ぉ!」
半笑いのランベルトが、レンタロウに小石を投げている。
「連たん、死んだんか?」
微妙な表情をしていたであろう僕の顔を見たメリッサが、口角の上がった口元から八重歯を覗かせた。
「店長の死を、俺たちはムダにしないっす……」
テーブルをひっくり返したような姿勢で落ちていくレンタロウに向かって、ランベルトが敬礼をした。
「連太郎の晩ご飯は、私が頂戴しますわ。私に糧をくださったあなたに感謝ですわ。シクラメン」
ニヒリと笑うエルネスタが、良くわからん祈りをささげ、レンタロウを弔う。
エルネスタの祈りと共に、メンバー全員で穴を覗き込む。
メンバー各自、神妙な面持ちかと思ったら、そうでもなかった。
レンタロウは死なないという、安心感が漂っているからだろうか。
「連たんは置いてくぞ」
潰れた空気嫁に空気を注入しながら、メリッサが立ち去ろうとしている。
「ちょっと待ってみませんか? 奇跡が起きるかもsれません」
ヒカエメが控えめに言葉を発した。
「だあーっす!」と言いながら、レンタロウがペンギンに乗って戻ってくる。
やや興奮状態で、レンタロウは言葉を紡ぐ。
「ふりだしに戻るトラップだった。みんな、気をつけろ。ん? 意外とツルツルしてるんだね、ペンギンって……」
茶色のモコっとした毛に覆われた2メートルほどのペンギンにド突かれながら、レンタロウが冷静に言ってくる。
「どうしたんすか、そのペンギン?」
全員が疑問に思っていたであろうことを、ランベルトが代表して訊いてくる。
「穴の底にてね。つい連れてきてちゃった……」
「大丈夫なのかしら? 毛の色からして赤ちゃんのようですが、お母さんペンギンが探しているのではなくて?」
エルネスタの心配が的中したようだ。
地面の氷が割れ、体長4メートルほどの巨大ペンギンが顔を出した。
ポッテリとした可愛らしいフォルム。
交通系ICカードに限度額をこえてチャージしたら、あのペンギンは、こんな感じの体型になるのだろうか……。
幽体が離脱しかけたレンタロウを、メンバーの声が引き留めた。
「校庭ペンギンのお母さんですよ!」
エプロン姿の巨大ペンギンを、興奮気味に見上げるヒカエメ。
「目が血走ってるじゃねっすか。なんでペンギンが口紅してんすか!」
「そこじゃないだろ! バールのようなものを持ってるのが不思議だろ!」
「そんなことより、かなりご立腹の様子ですわよ? 連太郎、なんとかしてくださいな!」
エルネスタが、レンタロウの胸倉を掴んでくる。
カツアゲに遭っている気分だ……。
「僕に振るか! まあ仕方ない。効果は不明だけどあれを使うか――。出でよ、スケアクロウ!」
母親らしきペンギンの目の前に案山子を突き刺した。
母ペンギンは羽をばたつかせ、人を小バカにしたような面相の案山子に向かって何か言っている。
少しは時間が稼げそうだ。
「連たん、子ペンタンを早く母ペンタンに返したほうが良いぞ」
メリッサの物言いは、なんだかレンタロウもペンギンファミリーの一員になったような錯覚に陥る。
「いやいや。すげえ怒ってるし、ヘタに前へ出ると危なそうじゃん」
子ペンギンを差し出したレンタロウが、母ペンギンに張り飛ばされた。
「ね? 危ないっしょ。母ペンギンの怒りを鎮めるいい方法はないかね……」
母ペンギンの一撃で案山子が大きく吹き飛ばされた。
「店長、冷静に言ってる場合じゃないっすよ。案山子がピンチっす」
「私にお任せを。一本足の物体に癒しの力を……。以下省略」
遠くに飛ばされた案山子のところまで走ったエルネスタが、祈りをささげる。
エルネスタの祈りで案山子の命の灯が再燃する。
いやいや、僕の回復をしてあげて!
「一か所にいると危ない。散開!」
そうはさせまいと、ペンギンが反復横跳びで立ちはだかる。
母ペンギンのばたつかせる大きな羽を避けたとき。
レンタロウの上着のポケットから、交通系ICカードがこぼれ落ちた。
氷の上を滑っていく“ペンギンの絵”が描かれたICカードを目で追う母ペンギン。
もしかして……。
ダメ元で、レンタロウは、交通系ICカードを母ペンギンにかざしてみる。
ピッと音がすると、母ペンギンの血走った赤い目が黒へと変わった。
すっかり穏やかな雰囲気になった母ペンギンから、レンタロウと同じ交通系ICカードが各メンバーに手渡された。
レンタロウには、アルミ製のバールのようなものが授与された。
「店長、なんすかこのカード?」
「向こうの世界で電車に乗れる魔法のカードだ」
いま考えると、母ペンギンは「通行料を払え!」と言っていたのかもしれない。