テラーノベル
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放課後の相談室。カーテン越しの夕陽が、床に長い影を落としていた。
蓮司は机に寄りかかり、ポケットからチョコを取り出してかじる。
ドアの向こうでノックの音。
入ってきたのは、気の抜けた顔をした男子だった。
「……人と話すの、しんどい」
椅子に座るなり、彼はぽつりと漏らした。
「気を使いすぎるっていうか、何を話せばいいか分かんなくなる。
黙ってると空気悪くなるし、話すとなんかズレてる気がする。
“もっと自然にすればいいじゃん”って言われても、それができない」
蓮司はチョコの包み紙を丸め、机の上で転がした。
「自然ってのは、たいてい“相手に合わせてる方”が言う言葉だぞ」
男子は少しだけ目を上げる。
「……どういう意味?」
「本当に気を使える人間は、“自然”とか言わねぇよ。
だって、どんな距離感でいても相手を不安にさせねぇから。
“もっと自然に”って言葉は、
『俺に合わせろ』って裏返しみたいなもんだ」
「……そういうもんか」
「そういうもんだ」
蓮司は軽く笑って、椅子を後ろに傾けた。
「お前が気を使ってるってことは、ちゃんと人と関わろうとしてる証拠だ。
それを“しんどい”って思えるのも、悪くねぇ。
だって、それだけ他人のこと考えてるってことだろ」
男子は小さく笑って、手元を見た。
「……でも、なんか報われないな」
「報われる前に、疲れるんだよ、人間って」
蓮司は天井を見上げるように言った。
「誰かといるのがしんどい時は、無理して群れなくていい。
ちゃんとひとりになって、
“自分のペース”を思い出せばいい」
風がカーテンを揺らし、
オレンジ色の光が二人の間に揺れていた。
蓮司はゆっくり立ち上がり、
机の上の丸めた包み紙をゴミ箱に投げ入れた。
「話せない時期があってもいい。
沈黙を怖がるな。
言葉がなくても、伝わる人はいる」
無理に馴染もうとしなくていい。
ちゃんと沈黙を守れる奴が、本当に優しい人だ。
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