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第七章 月下の鏡

夜の山道を抜け、綺羅は小さな湖のほとりに立った。湖面は月光を映して銀色に輝き、波一つ立たない。静寂は美しいが、どこか不気味な気配も漂う。


「……美しいけれど、何かがおかしい」

少女は短剣を腰に差し、湖面を注意深く観察した。月明かりに反射する水面の奥、わずかに揺れる影。自然の風だけではない、意図的に揺れているように見える。


その時、湖面が微かに震え、影が立ち上がった。水の中から人型の怪異が現れ、肌は透き通る青白さ、瞳は銀色に光る。水の衣をまとい、まるで月光そのものが形になったようだ。


「……人型の神か」

綺羅は小さく息を吐く。戦闘用の短剣を握り、理性を最大限に働かせる。


「綺羅、久しぶりだな」

低く響く声に振り向くと、湖面の向こうに皓が立っていた。月光に照らされ、黒髪が淡く輝く。風の神と違い、皓は微笑みを浮かべ、少女の視線を捕らえて離さない。


「皓……どうしてここに?」

綺羅は心臓の高鳴りに気づくが、すぐに理性を取り戻した。


「湖の怪異を調べに来たのだろう? 私は手助けに来ただけ」

皓は肩の力を抜き、柔らかく微笑む。


湖面の人型怪異は、周囲の水を渦巻かせ、攻撃の意志を示す。綺羅は短剣を構え、怪異の動きを観察した。水の流れ、光の反射、影の形――全てが微細なヒントとなる。


「……意図的に水面を歪ませ、迷わせている」

少女は声に出してつぶやく。理性で怪異の行動パターンを読み取り、次の一手を決める。


皓は横で静かに観察している。まるで、彼女の頭脳戦を楽しんでいるかのように。綺羅は一瞬、彼の瞳に挑戦的な光が宿ったことに気づくが、すぐに意識を事件に戻す。


「怪異は水面に映る自分の影を分裂させて、錯覚を生み出している」

綺羅は短剣を軽く振り、月光に反射する水の粒子を利用して攻撃する位置を正確に狙った。水が飛び散るたび、影は乱れ、怪異の動きは次第に鈍くなる。


「そうだ、その調子だ」

皓の声は静かだが、微かに色気を帯びる。綺羅は思わず胸の奥がざわつくが、すぐに理性を取り戻す。「今は恋心を考える余裕はない」――そう自分に言い聞かせる。


最後の瞬間、怪異は大きく水を跳ね上げ、綺羅を巻き込みそうになる。咄嗟に後ろへ飛んだが、足を滑らせて湖面に片膝をつく形になった。そのとき、皓がさっと手を伸ばし、彼女の腕をつかんだ。


「危ない!」

思わず息を呑む。二人の距離は一気に縮まり、顔の高さも同じになった。綺羅は胸の奥で心臓が跳ねるのを感じる。けれど、彼女は瞬時に理性を働かせ、冷静を装った。


「ありがとう……」

わずかに小さな声でつぶやく。皓は柔らかく微笑み、手を離す。


「さて、最後の仕上げだ」

二人は協力して怪異を誘導し、湖面に光を集める。水の怪異は光に吸い寄せられるように消えていき、湖面は再び静かに銀色を取り戻した。


事件が終わり、湖面を眺める綺羅。月光に照らされた水面は美しいが、心のざわめきは収まらない。


(……あの距離、なぜか胸がドキドキした気もする。でも、事件が終わったから、きっと疲れのせいだ)

綺羅は自分の心の動きに気づかず、無意識に短剣を握りしめる。恋心が芽生えたのかもしれない――けれど、まだ彼女にはその自覚はない。


皓は湖の向こうで微笑み、影のように静かに立っていた。

「また会うだろう、綺羅」

その声だけが風に乗り、少女の心に微かな残響を残す。


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