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※書き直し。
「……じゃあ、どうしたらいいんだよ」
遥の声は、かすれていた。喉が焼けるように痛い。
「守るって言われても……俺、もう何を信じていいか分かんない。
誰が何を言っても、次の日には全部壊れる。
優しくされたら、そのあとが怖いんだよ」
日下部は黙っていた。
その沈黙が、怒鳴り声よりも痛かった。
彼の拳はまだ震えていて、血の跡が机に滲んでいた。
「俺が優しくしたら、おまえ壊れそうで。
でも、優しくしなかったら、もっと壊れてく気がして……」
息を吐く。
「もうどうしたらいいのか分かんねぇよ」
その言葉が落ちた瞬間、遥は視線を逸らした。
黒板の隅、誰もいない教室の奥。
──その静けさが、何よりも怖い。
「……怜央菜に言われたんだ。
“誰にも頼るな。誰かに縋ったら、また全部持っていかれる”って」
日下部が顔を上げた。
「怜央菜が?」
「うん。あいつ、昔からそうだった。
“強くなれ”って。泣いたら怒られて、倒れたら蹴られて。
あいつの言う“強くなれ”って、要するに“従え”って意味なんだよ。
それに逆らったら、生きていけなかった」
その一言に、日下部の表情が苦く歪む。
「……それでも、守ろうとするのか?怜央菜の言葉を」
「守らなきゃ。
そうしないと、俺が生きてきた意味がなくなる」
「でもそれで、自分を壊してどうすんだよ」
怒鳴り声ではなかった。
けれど、その言葉には痛いほどの切実さがあった。
遥の肩が小さく震える。
そのとき──廊下の奥から、金属を蹴るような音が響いた。
二人同時に顔を上げる。
「……誰かいる?」
窓の外、校門の影のあたり。
そこに、人影があった。
光を反射する金色のイヤーカフ。
──颯馬だった。
その目は笑っていなかった。
氷のように冷たく、ゆらめく怒りの底を隠していた。
遥の喉が一瞬で凍りつく。
「……颯、馬……?」
日下部が何か言おうとしたが、その前に颯馬が歩み寄る。
歩幅はゆっくり、だが確実に。
校門の隙間を抜け、靴音だけが夜気を裂いた。
遥は無意識に一歩、後ずさる。
首元の、まだ癒えない跡が冷たく疼いた。
颯馬の唇が、わずかに歪む。
「楽しそうだね、二人で」
その声音に、日下部の眉がわずかに動く。
遥は息を止めた。
──あの笑い方は、嵐の前にしか出ない。