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そうして外国製の高級車で聡一朗さんが連れて行ってくれたのは、都内の高級店が並ぶ界隈だった。
小娘の私など訪れたこともない場所だ。
「こんにちは、先生~」
店内に入ると女性が迎えてくれた。
あれ、この人見たことがあるような……。
「先生、この度はご結婚おめでとうございます」
「ありがとう。妻の美良だよ」
紹介されて、おずおずと私は頭を下げる。
結婚のことを打ち明けるということは、聡一朗さんはこの人を信頼しているんだろう。
「美良、安田さんは俺の専属スタイリストをしてくれているんだ。テレビで見たことがないかい」
言われてあっとなる。
バラエティ番組で最近よく見る人だ。
明るくてちょっと辛口なところが人気のスタイリストさんだ。
二人は、とある番組でスタイリングしてもらったのをきっかけに知り合ったそうだ。
安田さんが聡一朗さんに惚れこみ、無料でいいから専属になりたいと言ってくれた。
聡一朗さんもメディアに出る機会が多くなっていた頃だったから、快く頼むことにしたのだという。
「俺もファッションには疎いからね、彼女には救われているよ」
大学に行く時は自分でコーディネートしてるって言っていたけれど、聡一朗さんは十分センスあると思うんだけれどなぁ。
でもそれ以上にメディアに出ている時はもっと素敵に見えるから、やっぱりスタイリストさんの影響は大きいのだろう。
安田さんは、テレビで見る時のままの明るい笑顔で言った。
「だって先生はもうプロのモデルみたいにスタイルもいいし雰囲気もあって素敵なんですもん。なんていうんでしょう、あふれでる知性と品格って言うんですか? 業界では先生のようなオーラがある人にはなかなかお目見えしないから、私もスタイリングが楽しくて」
と、うきうきが止まらないといった様子で私ににっこり笑いかけると、
「今日は先生の奥様をスタイリングさせていただけると聞いて、うれしくてたまらないんですよ」
私?
「急な依頼だったのに助かったよ。忙しいところ悪かったね」
「いいえ! 本当にかわいらしい奥様で、腕が鳴ります」
「あ、あの私」
戸惑っている私を落ち着かせるように、聡一朗さんはやわらかい口調で言った。
「俺と同じで君もあまりファッションには興味がないそうだからね、彼女に協力をあおごうと思ったんだ。いい機会だから、ドレスだけでなく普段の服もそろえるといい。好きなだけ買ってクローゼットを一杯にしてくれ」
「そ、そんな私」
「じゃあまずはドレスから頼むよ」
「はい!」
そうして、あっという間に選んでもらったのは、淡いイエローのワンピース。
上品な色合いで、胸元の甘すぎないドレープが素敵だった。
童顔な私が着ても、子どもっぽく見えない。
「ネックレスはパールを合わせると上品になるし、ペンダントトップにするとすっきりとしているようにも見えるので、シーンに合わせて使えると思いますよ。ヘアスタイルはアップでもいいし、ハーフアップにして弱めに巻いても素敵です。いかがですか、先生?」
聡一朗さんの口元には笑みが浮かんでいた。
「うんいいね、すごく似合っている」
にわかに、頬が熱くなった。
聡一朗さんが微笑んでこんなことを言ってくれるなんて。
でも、ここのお店、どの服もすごく高額だけれど。
「では、アクセサリーも含めて一式で貰おうか。ああ、あと靴もよいものを」
「他に欲しい物はないかい?」と訊かれ、私はかぶりを振る。
「いえ、もうこれだけで」
すると安田さんが、
「ここのお店の服、奥様の雰囲気にすごく合っていると思うんですよね。もう少しそろえてもいいですか?」
「ああ、頼むよ」
それから安田さんは、ワンピースやスカートを何点か持って来てくれた。
それだけにとどまらず他にもお店を回って、普段使いのスカートやブラウス、カットソー、靴やバックまでそろえてくれた。
そして着せ替え人形みたいに身に付けてもらって、聡一朗さんがうなずくと、即お会計。