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スケアリーイズム - 完全犯罪のレシピ
第二話「操られる殺人者」
🔪ツグミの変化
ツグミは鏡を見ていた。
ガラスに映る自分の顔を、まじまじと眺める。
「……これが俺の顔だったか?」
肌はやや青白く、切れ長の目には生気がない。
ぼさぼさの黒髪は無造作に垂れ、まるで世の中に関心がない人間のようだった。
細身の体つきもあいまって、影が薄い。
しかし、今は違う。
「殺したんだよな……俺の”手”が。」
ツグミは、昨日の出来事を反芻する。
自分の意志ではなく、勝手に手が動いた。
京麩――いや、スケアリーの声が聞こえた瞬間、まるで操り人形のように”料理”をしてしまった。
まるで「俺はこうするべきなんだ」と確信しているかのように。
喉が渇いた。
水を飲もうとしたが、手が震えてコップを落とす。
「ツグミ、そんな顔しなくていいよ。」
鏡の向こうにスケアリーがいた。
🔪スケアリーの実況「ツグミという料理」
「いやぁ、ツグミくん。君の”味”は、思ってたより濃厚だったよ。」
「初摘みの若葉のような純粋さ……そこに一滴、殺意のエキスを垂らすと、一気に発酵が進む!」
「君の瞳の濁り方、たまらないねぇ。青魚がしっかり熟成されたときの、あの濃厚な旨味……」
スケアリーは口元を拭いながら、恍惚とした表情を浮かべる。
「さぁ、次はもっと味を深めようか。」
「……俺は、お前に”操られてる”んじゃないのか?」
ツグミは震えながら言った。
スケアリーはにっこり笑う。
「違うよ。”お前の中の真実”が目覚めただけさ。」
「俺は……俺は……!」
ツグミは髪をぐしゃぐしゃにかきむしる。
鏡に映る自分の目が、確かに変わっていた。
“もっと殺したくなっている”。
スケアリーはその様子を見て、さらに嬉しそうに笑った。
「うんうん、その顔! 最高だねぇ!」
「まるで、焼き立てのパンのように芳醇な”覚醒の香り”が漂っているよ……。」
「焦がしすぎないようにしないとね。じっくり、じっくり……火入れをしていこう。」
ツグミは鏡の中の自分に問いかける。
「俺は……”食材”なのか?」
スケアリーは、優しく首を振る。
「違う違う。”シェフ”になろうよ、ツグミ。」
「恐怖というフルコースを作る、最高の料理人になろう。」
🔪名状しがたき概念の歪曲
「お前ってさ、まるで”恐怖の巨匠”みたいだよな。」
その言葉を聞いた瞬間だった。
パァン!
空気が弾けた。
スケアリーの手が、テーブルを叩き割っていた。
「は?」
表情が、一瞬で変わる。
それまでのにこやかで不気味な笑顔は完全に消え、静寂が訪れた。
「……ユリウス、お前、今、なんて言った?」
声が低い。
底冷えするような、不快感の塊を舌に絡ませたような響きだった。
「”恐怖の巨匠”って言っただけだが……」
「違うだろうがァ!!」
スケアリーの足が、床を蹴る。
次の瞬間には、ユリウスの前にいた。
「俺は”巨匠”じゃねえ。”神”でもねえ。”化け物”でもねえ。」
指がユリウスの喉元にかかる。
「俺は、”スケアリー”だよ。」
爪が肌に食い込む感触。
ユリウスは、はじめて息が詰まる感覚を味わった。
「お前、もう一回俺のこと、別の何かに例えてみろ。」
にぃ、と笑うスケアリー。
「次は、お前の声帯を”スープの出汁”にしてやるよ?」
沈黙。
ユリウスは、ゆっくりと息を吸い込んだ。
(ああ、こいつは”恐怖そのもの”なんだ。)
観察者であるはずの自分が、今は”観察される側”にいた。
「……悪かった。」
スケアリーは、ユリウスの喉元から指を離し、肩をすくめた。
「ったく。俺の名前を呼べない奴は、大体ロクなことしないんだよ。」
そして、またいつもの調子で笑う。
「ま、いいや。次の料理に集中しよう。」
完全に空気が切り替わった。
しかし、ユリウスの首筋には、赤い爪痕がくっきりと残っていた。
🔪次なるターゲット
スケアリーは、ユリウスの隣に座って紅茶を飲んでいた。
「ねえ、ユリウス。ツグミくん、”次の一皿”は何がいいと思う?」
ユリウスは眉をひそめた。
「……次の”被害者”のことか?」
スケアリーは、ティーカップをくるくると回しながら、楽しげに笑う。
「被害者? そんな言い方、やめようよ。」
「”新しい料理の材料”って言ってほしいなぁ。」
ユリウスは、無意識に拳を握った。
(……こいつはやはり、異常すぎる。)
だが、彼は観察者だ。
この男の手法を、最後まで見届ける義務がある。
「……ツグミが狙う相手は?」
スケアリーは、ちらりとツグミを見た。
「ツグミくん、自分で決めてみようか?」
ツグミは少し考えてから、ポツリと言った。
「……”俺が自由に選んでいい”のか?」
「もちろん。”お前の味”を、さらに研ぎ澄ませるんだよ。」
ツグミは、ゆっくりと考えた。
そして、ポツリと一言。
「……アイツを殺したい。」
スケアリーは舌なめずりをした。
「いいねぇ。その食材……”熟成”させたら、極上の味になりそうだ。」
次回 → 「完全犯罪の実践」