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#和風ファンタジー
#異能
#和風ファンタジー
「キミカちゃん。大きな声出しちゃってごめんなさいね」
両手を合わせ、心底申し訳なさそうな表情で姫宮さんがうちに話しかけてくる。
「私、きっと頭のどこかが壊れてるのね。昔からちょっとしたことで訳がわからなくなっちゃって。でも、キミカちゃんはかわいい女の子のままだし、切り刻んだりしなくて本当に良かった」
「…………」
座り込んだまま、ボンヤリとうちは屈託のない笑顔を向けてくる姫宮さんを見上げていた。
――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ……。
たっぷりとコンクリートを流し込まれた穴の底から、この場所――禍殺ノ殿全体を揺るがすような絶叫が響き渡った。
それはあまりにも肉感を伴い、質量を感じさせ、たとえこの場に霊感を持たない者がいたとしてもはっきりと聞こえただろう。そう思わせるだけの存在感がそれにはあった。
助けてくれ、とその男の声は絶叫していた。
後生だから殺しておしまいにしてくれ、リキマル。
父親に神仏の慈悲を与えてくれ、と。
……え、ちょっと待って。確かリキマルって。
明治時代の苗字必称義務令に伴って変えたけど、大昔、リョウはそんな名前だったって――。
と、その時、ぷっと噴き出す声が聞こえた。
ギクリとして振り返ると――、たまりかねた様に姫宮さんが笑いだすところだった。身体を曲げ目尻に涙をためて、片手でバンバン机を叩きながら。
それに釣られるようにして――、白衣集団全体に笑いが広がってゆく。
全員、ケラケラと馬鹿笑いしていた。怪異の泣き言が面白くてたまらない、と言うように。
あかん。あかんて。
そんな冷たい笑い方は絶対にいつか、途方もなく巨大で手に負えないワザワイを呼び寄せる。
怖い。
怖い。
怖い。
うちは震えの止まらなくなった自分の膝を抱きしめる以外、なす術がなかった。
「大丈夫だ、キミカちゃん。これは悪い夢だから」
静かに歌うような声が聞こえた。
「だから、耳を塞いで目を閉じなさい。次に目を開いた時、嫌なことは全て消え失せて――、キミカちゃんは自分の家にいる。約束する」
ゼナ博士だった。
ゼナ博士は白衣集団のなかで一人だけ、笑っていなかった。
悲壮、と言うんやろか?
悲しくて辛いのに――、いや、だからこそ凛としている。
ゼナ博士はそんな表情をしていた。
膝を折り、うちの身体にそっと覆いかぶさりながら片手で首筋に触れてくる。義手であるため体温は感じられなかったが、うちの顔や髪を撫でるその手つきは優しかった。
「今日、ここで見たモノはキミカちゃんには関係ない。少なくとも今のキミカちゃんにはね。……姫宮にはああ言ったが、できればキミカちゃんにとっては生涯、縁遠い話であるよう心の底から願うよ」
じゃあお休み。そんなゼナ博士の言葉が囁かれるのと同時、睡魔が巨大な津波のように襲いかかって来た。
それに飲み込まれながら、うちは悟る。
あぁ、これは催眠術だ。うちの精神を守るため、ゼナ博士が即席で処置を施してくれたんだろう。
だけど、ゼナ博士は?
こんな場所に身を置き続けて大丈夫なん?
それは姫宮さんや白衣集団の人達も同じだ。
誰一人、こんな地獄が染み出したような場所に取り込まれて欲しくなかった。
だから、うちは心の中で唱え事を始めた。
眠りに飲み込まれる前に。うちにできることはそれだけだった。
オン アロマヤ テング スマンキ ソワカ。
オン ヒラヒラ ケン ヒラケンノウ ソワカ。