テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
紫倉 紫
121
#じれじれ
当麻月菜
332
#離婚前提の結婚
当麻月菜
401
#恋愛
ばたっちゅ
4,007
レンブラントとダミアンは長い付き合いで、鬼の権現と言われているレンブラントに対しても、物怖じせず接することができる。
……できるが、やぱり殺気をバンバンに出されたら怖くないわけがない。
「え、えっと……ところで、ベルさんは?」
レンブラントと目を合わせないよう細心の注意を払いながら、ダミアンはきょろきょろと辺りを見渡した。
「ああ、今は──」
レンブラントが答えようとした瞬間、隣の部屋からけらけらと笑い転げる声が聞こえてきた。
「ん?んんー??ベルさんは、隣の部屋にいるの?」
野太い男の声に混ざって鈴を転がす声を聞き取ったミアンは顔を、そちらに向ける。
「……ああ。モーゼスが暇つぶしになればとカードゲームを教えたもんで、今はそれに夢中になってる」
「へぇー……カードゲームかぁ」
レンブラントの説明を聞いたダミアンは、何とも言えない顔をした。
メテオール国では、カードゲームは政府公認の賭け事である。だからそれをするのは違法ではないが、もっぱら男性が楽しむものだった。
貴族令嬢に至っては、はしたない遊びだと嫌悪する者も少なくない。
ベルは【エドゥ】の名を持つれっきとした辺境伯爵のご令嬢である。
だが、つい先ほどベルが剣を扱えることを知ったせいで、ダミアンは派手に驚くことはしない。”あ、そうなんだ”という程度に頷き、視線をレンブラントに戻した。
その表情は、ついさっきまでのふざけたものとは真逆だ。
「ところでさ、ベルさんが剣を扱えるのはわかった。でもなぁ、そうなるとちょっと疑問を持っちゃうんだよね、僕」
「だろうな」
レンブラントも真剣な表情を浮かべると、ダミアンに続きを促した。
「レンからの報告書を読んだけれどさぁ、ベルさんの腕の怪我は継母から虐待を受けていたからなんだよね?」
「ああ、そうらしいな」
「でも、剣を扱えるなら……あんなひどい傷を負うのかなぁ」
「同感だ。そこは矛盾している」
腕を組んで首を傾げるダミアンに、レンブラントは深く頷いた。
ベルがどんな生活を送っていたのかは詳しくはわからない。けれど剣を扱えるなら、殴られたり打たれたりする際に避けることができるはずだ。
もちろんベルを傷付けた相手が、遥かに強いという可能性もある。
けれど簡易的な医療行為ができるレンブラントはわかる。ベルを痛めつけた相手は、間違いなく素人である。つまりベルは虐待を甘んじて受け入れていたということになる。
それは、なぜ?
自ら痛めつけられることで何かを得ようとしたのだろうか?
それとも何か弱みを握られて、避けることができなかったのか?
そんな疑問が次々と溢れてくる。
「ミステリアスな女は魅力的だけど、ちょっと不思議すぎるよねぇ」
考えに耽っていたレンブラントは、ダミアンの馬鹿な発言に乾いた笑いを漏らす。
「まったくだ。何を考えているのかさっぱりわからん」
ベルはミステリアスを飛び越えて、雲をつかむような存在なのだ。そして知ろうとすれば猛毒を吐き、絶対に自分の領域に踏み込ませない。
ただあまり強く問い詰めることができないのは、レンブラントもレイカールトン侯爵のことを話したくはないからで。
互いに秘密を抱えていては、距離を縮めることができないのはわかっている。そして知りたいと願う相手に対して黙っているのは心苦しい。どんな手を使ってでも好感度を上げたいと願う相手ならなおさら。
でも、まだベルにレイカールトン侯爵のことを話すことができないのだ。こちらにはこちらの事情がある。
「ま、何にせよ王都まで到着すれば良いってことか。うん、そうだ。そうすれば万事問題解決だ」
しんとした空気が耐えられなかったのか、ダミアンは意識して明るい声を出す。次いで、懐から小銭を取り出し、いそいそと立ち上がった。
でもダミアンがドアノブに手を掛けた瞬間、唸るようにレンブラントは待ったをかけた。
「おい、待て。どこに行く気だ?」
「へへっ。ちょっとベルさんと親睦を深めたいなぁって思って」
カードゲームをやりに行きたいダミアンに向かって、レンブラントは真顔で忠告する。
「やるのは構わんが、気を抜くなよ。アレはマースより強い」
瞬間、ダミアンはげっと呻いた。
マースはレンブラントの部下で、今回の任務に同行している一人である。異常に無口であり、ポーカーフェイス。表情の読めない彼は、カードゲームでは無敗の王者という二つ名を持っていた。
そんなマースより、ベルは強いということは……。
ダミアンは、すぐさま媚びるような笑みをレンブラントに向けた。
「大親友のレーン君っ、悪いけど後でお金貸してね」
「冗談じゃないっ。誰が貸すかっ」
被せるように言い放ったレンブラントの言葉は、残念ながら扉を開閉する音でかき消されてしまった。
コメント
1件
みぅ🤍🥀です。23話、じっくり読ませてもらったよ。 ベルさんの「剣は扱えるのに、なぜ虐待を甘んじて受けてたのか」っていう矛盾、すごく気になる…。レンブラントとダミアンが真剣に考察してるシーン、二人の距離感がいいよね。ダミアンがカードゲームに誘いに行こうとして、レンが「マースより強い」って忠告するところ、ちょっと笑っちゃった(笑) お互いに踏み込めない秘密を抱えてる感じ、もどかしいけどそれがまたこの作品の魅力だと思う。次が楽しみだよ🌙