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第一話:『チェックインは、空腹で。』

【プロローグ:日常からの脱出】

金曜、20時。 オフィスビルから漏れる明かりが、アスファルトを冷たく照らしている。 「……やっと終わった」 連日の残業で、胃のあたりが妙に空っぽだ。そんな私の前に、聞き慣れたエンジン音と共に、漆黒のSUVが滑り込んできた。

運転席の窓が下がり、端正な横顔が現れる。 「遅いぞ。腹、減ってるか?」 高坂(こうさか)先輩だ。社内一の仕事人間で、その完璧なルックスから「氷の貴公子」なんて呼ばれているけれど、私だけは知っている。この人の本性が、とんでもない「食いしん坊」であることを。

【シーン:助手席の秘密】

言われるまま助手席に乗り込むと、ふわっと車内に革の香りと、かすかにコーヒーの匂いが漂う。 「先輩、本当に行くんですか? 日本一周なんて」 「当たり前だ。有休はこのために溜めてきた」

先輩が手渡してきたのは、一冊の分厚いノート。表紙には『日本全土・完食計画』と力強い筆致で書かれている。 パラパラと捲ると、そこには全国各地の実在する名店が、付箋と書き込みでびっしり埋まっていた。

「一食目、何だと思います?」 「函館のイカか? それとも仙台の牛タンか?」 先輩は不敵に笑い、アクセルを踏み込んだ。 「いや。まずは……**青森の『のっけ丼』**だ。明日の朝飯に間に合わせるぞ。一気に北上する」

【道中:サービスエリアの誘惑】

深夜の東北自動車道。 最初の目的地へ向かう途中、立ち寄ったのは蓮田(はすだ)サービスエリア。 「先輩、まだ夜食の時間じゃ……」 「馬鹿を言うな。旅は家を出た瞬間から始まっているんだ」

先輩が買ってきたのは、アツアツの**「深谷ねぎの串焼き」と、ずっしり重い「牛すじ煮込み」**。 「ほら、食え。これから長丁場だ、スタミナをつけろ」 差し出された串を頬張ると、ネギの甘みと肉の脂が口いっぱいに広がる。

「……美味しい」 「だろ? お前が美味そうに食うから、つい買いすぎちまった」 そう言って私の口元をナプキンで無造作に拭う先輩の指先が、ほんの少しだけ熱い。

【エピローグ:夜を越えて】

車は深夜の闇を切り裂き、さらに北へと走る。 隣でハンドルを握る先輩の横顔は、仕事の時よりずっと柔らかい。

「いいか、この旅のルールは一つだけだ」 先輩がこちらを見ずに、静かに告げる。 「『もう食べられない』は禁止。俺の隣で、常に腹を空かせておけ」

窓の外、遠くの空が少しずつ白み始めていた。 これから始まる、めくるめく美食と、二人きりの長い旅。 私の胃袋と心は、早くもパンパンに膨らみ始めていた。

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