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第2話、承知いたしました。 舞台は深夜の高速を駆け抜け、ついにたどり着いた北の地、青森。 先輩の「食」への執念が牙を剥きます。
車窓から見えてきたのは、早朝の光を浴びる八甲田山。 「……着いたぞ。起きろ、食う時間だ」 先輩の声で目を覚ますと、そこは青森市内の『青森魚菜センター』。別名、古川市場。 車を降りると、潮の香りと威勢のいい掛け声が、寝ぼけた頭を強制的に「戦い」のモードへと切り替えた。
市場に入ると、先輩は慣れた手つきで「のっけ丼」の食事券を10枚綴りで購入し、一冊を私に突き出した。 「いいか。ここはセルフ式の戦場だ。白飯に、自分の好きな具材を、チケットの限り載せていく。……センスが出るぞ」
「負けませんよ」 私は意気揚々と丼を手に歩き出した。 まずは大ぶりの**「大間のマグロ」。チケット2枚。 次に、キラキラと輝く「醤油漬けのイクラ」。 さらに、ぷりっぷりの「ホタテ」**。青森に来たなら、これは外せない。
ふと隣を見ると、先輩の丼はすでにカオスなことになっていた。 中トロ、赤身、ウニ、そしてなぜか特大の玉子焼き。 「先輩、盛りすぎじゃないですか?」 「バカ言え。ウニとマグロの隙間に、このホタテのヒモを滑り込ませるのが美学なんだ」 真剣な眼差しで丼と対話する先輩。仕事中のプレゼンより確実に熱が入っている。
市場の隅にある休憩スペース。 二人で並んで、自分だけの「最強ののっけ丼」と対面する。
「いただきます」 箸を入れ、一口。……脳を突き抜けるような鮮度。 マグロの脂が舌の上で溶け、イクラが弾けて磯の香りが鼻を抜ける。 「美味しい……! 先輩、これ、今まで食べた海鮮丼で一番です」 「……だろうな」
先輩を見ると、もう半分以上平らげている。 「俺、実は昨日から、ここの『しじみ汁』のことしか考えてなかったんだ」 そう言って熱い汁を啜る先輩の顔が、少しだけ赤らんで、本当に幸せそうに緩む。 職場で「氷の貴公子」なんて呼んでいる同僚に見せてやりたい。
完食。お腹はすでに8分目を超えている。 しかし、先輩は満足げに唇を拭くと、すかさずスマホの地図を開いた。
「よし、次は**『酸ヶ湯(すかゆ)温泉』で胃を休めてから、十和田の『バラ焼き』**だ」 「えっ、休める間もなく次ですか!?」 「当たり前だ。青森は広いぞ。移動時間はすべて消化の時間だと思え」
先輩は私の空になった丼を片付けながら、不意に私の頭をぽん、と叩いた。 「……よく食ったな。その調子だ」
不意打ちの褒め言葉に、胃のあたりが少しだけ熱くなる。 食べすぎのせいか、それとも。
SUVのエンジンが再び唸りを上げる。 次は、さらに南へ。私たちの満腹旅は、まだ始まったばかり。