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一樹がじっと答えを待っているので、楓はなんと答えようか悩む。

そんな楓に一樹はもう一度質問をした。


「AV女優の仕事は、お兄さんに強要されたのか?」

「い、いえ……違います」

「嘘をついても駄目だ。ちゃんと答えて」

「…………」

「こっちも決して趣味でやっているわけじゃないんだ。あんなジャンルって思うかもしれないけど俺達はちゃんと商売としてやってる。君も現場に行ったからわかると思うけど、一つの動画を作るには大勢の人間が関わってる。つまり作品一つ一つにその人の生活がかかってるんだ。だから余計なマイナス要素は取り除きたいんだよ」


一樹の真剣な言葉に楓の心は揺らいでいたがまだ口を開けなかった。そこで一樹が奥の手を出す。


「あの仕事を辞めたら金が入らないから困るんだよな? でもその心配はするな。2本目の出演料はきちんと払うし、もし君が女優を辞めるなら代わりの仕事を紹介するよ」


その言葉に楓は目を見開く。


「代わりの仕事って……?」

「仕事は2種類ある」

「……でもそれだと貰えるお金が減るのでは?」

「なるべく好待遇で雇うよ。でも君は一体なぜそんなに金が必要なんだ?」

「…………」

「君自身の借金はないんだろう?」


一樹の質問に楓はコクリと頷く。


「君の一本目の動画は大ヒットした。この分なら先日撮った二本目もヒット間違いなしだ。しかしどちらの動画でも君は演技をしていない。つまりあれは素のままの君だ。そうだよな?」

「ど、どうしてそれを?」

「あの日は撮影現場にいたからね」

「全然気づきませんでした……」

「まあチラッと顔を出しただけだから」

「…………」

「どうする? このまま君がやりたくないあの仕事を続けるか? それとも身体を売らなくてもいい好条件の仕事に変わるか? どっちにする?」


楓がすぐに返事をしないので一樹はさらに続けた。


「返事がないって事は、今まで通りAV女優を続けたいんだな?」


するとすぐに楓が反応した。


「もう嫌ですっ! あんな事は二度と……」


楓の瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。よっぽど嫌だったのだろう。


「よし、じゃあ君のAV女優としての活動は今の時点で終了だ。二本の動画については今後世に出回らないように差し押さえる。いいね?」

「え? いいんですか?」


楓はまさかそこまでしてもらえるとは思っていなかったので驚く。

一樹が頷いたのを見た途端、楓はホッとして身体中の力が抜けた。


「その代わりに金の使い道について詳しく説明してもらおうか。確かプロダクションとの面接では学費って言ってたよな? それは自分の学費か?」

「違います。兄の学費です」

「お兄さんの? 君のお兄さんは確か30を超えた社会人だったよな?」

「何でそれを?」

「悪いけど調べさせてもらった」


楓は新人AV女優の身辺調査までするのかと驚く。

しかし複雑な裏社会の人間が経営する会社だ。普通の人間にはわからない何かがあるのかもしれないとも思った。


「君のお兄さんはまた大学にでも行くのか?」

「兄は……本当は医者になりたかったんです」

「医者? って事は医学部? 君のお兄さんは確か32でエリート商社マンだったよな? それなのに今の地位を捨てて医者を目指すのか?」

「そう言ってました」


一樹は少し不審に思いながらもう一度楓に聞いた。


「まあその話が本当だとして、何で学費を妹が払うんだ? 妹をAV業界に売ってまで?」

「兄は子供の頃から医者になる事を夢見て一生懸命勉強していました。でも交通事故で両親がいなくなりその夢を諦めたんです。兄は元々優秀だったので大学を出た後は有名企業に就職しましたが、それでも医者になる夢は捨てきれなかったみたいで…。だからお金が必要なんです」

「なるほど。でもそれは答えになってないな。なぜ兄の学費を君が払うんだ?」


そこで楓は小さく息を吐くと、一樹に説明を始めた。


「交通事故の時、両親は私を助けようとして代わりに犠牲になりました。つまり両親が死んだのは私のせいなんです。だから私はその罪を償わなくちゃいけないんです。私のせいで兄は夢を諦めたんですから…」


楓は悲痛な表情を浮かべていた。


(夢を実現出来なかったのは全て妹のせいだと言っているのか……とんだクソ野郎だな)


同じ妹を持つ兄として一樹は言いようのしれない怒りを覚える。おそらく誰もいなかったらテーブルを蹴り上げていただろう。しかしなんとかその怒りを隠し平静を装うとこう言った。


「いいか? 親が子供を守ろうとするのは当然の事だ。事故の時、たまたま君が危ない目にあったかもしれないが、もしそれがお兄さんだったとしてもご両親はきっと同じ事をしただろう。だからご両親が亡くなったのは決して君のせいなんかじゃない。ただの不運だ」


それを聞いた楓の瞳にはみるみる涙が溢れてきた。そしてその涙はすぐに頬を伝い始める。

ポロポロとこぼれ落ちる涙を楓が必死に手のひらで拭っていると、一樹は傍のカラーボックスの上にあった箱ティッシュを手に取り楓の前にそっと置いた。

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コメント

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ユーザー

一樹さんと良、兄のポジションチェンジ〜💦と言いたいですよね、全く😱

ユーザー

嘘つきは泥棒の始まりやねんでぇ。あ、せや。兄貴の出演AVに女も付けよか。どんな女か知らんけど。あ、もしかして。ちがうか~。(以下、勝手に妄想ゾーン。)

ユーザー

兄は麻布にマンションに住んで同棲中とは、完全に楓ちゃんをこけにしてるよね。まさかそのマンションの為に楓ちゃんをあの仕事させた訳?兄さんとことん良を地獄の果て迄追いやって下さいましな🧟🧟🧟兄さんやはり楓ちゃんお引っ越しさせたわねー。自分の目の届く所に置いときたいのかな?まさか同じマンションとか?社宅って言ってたしなぁ🤭🤭🤭

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