逃げていた。現実から、過去から、現在から全部。
諦めていたんだ、きっと。
そしてその諦めがどこか気持ち良くて、居心地良くて。
弱いといえばそうなのかもしれない。だけど、俺はそうでなきゃ生きられなかったから。
俺は、どこまで腐っても、いい意味でも悪い意味でも俺だから。
だから、きっと、俺は…。
♦︎♦︎♦︎
ピピピ、ピピピ。
耳元で鳴り響く機械音が、意識の間を縫って俺に届く。ぱちっと目を開けると、窓から差し込む橙色の光が飛び込んできた。
「……あーはいはい…分かった分かった」
ゆっくりと体を起こし、ゆっくりと目覚まし時計の音を止めようと腕を伸ばす。
とん。何かに当たった感触。
ぼんやりとした視界をハッキリとさせ、感触がした方向に目を向けると…。
「起きるのおっそ」
呆れた様な表情をしながら、寝そべっている女の人がいた。
…って。
「うわああああ!?誰ええ!?」
「やあ」
「いや、やあ、じゃなくて!」
女の人は平然とした様子で、立ち上がった。
その背を呆然と見詰める俺。
「ふうん、菓子だけは沢山あるんだな」
「え、ちょ」
「あ、これ美味しそう」
「あーーッッ!それだけはッ!」
それは俺専用のポテチ!
女の人の手から、サッとポテチを奪い取る。
あ、あぶねえ…俺のポテチ…。
「って、今はそれどころじゃねえ!」
「急に叫ぶなよ、びっくりするだろ」
「いやいや、というか貴女誰なんですか!?」
「は?誰って…」
女の人はふっとニヒルな笑みを浮かべると、こう言い放った。
「魔法少女」
「……」
よし、この人は完全な不法侵入だ。
それならそうと、早く警察に連絡しとかないとね!
「あー待て待て。本当なんだって」
「こっちに来ないでください!警察呼びますよ!」
「まあまあ、それは一回置いといて」
置いてられるか!?
「ほら、なんかいいと思わないか?」
「…は?」
「この状況だよ。目が覚めたら、隣に謎の美女が居ました…なんかどっかのラノベにありそうな」
「……いや、それは関係ないんで」
犯罪は犯罪だしね!さっさと警察呼ぼう!
「はい、駄目」
恐ろしい微笑みを浮かべながら、俺の手首を掴む不審者。
て、意外と力強い!?この人本当に女の人か!?
「いだ、いだだだだ!」
「警察は後で、な?」
「いやいや!いだ、いだだだ!はな、放して!」
「放してほしい?」
放して欲しいって何だよ!?
もはや涙目、というか本格的に涙出てきた。え、これ手首折れてない?なんかめっちゃ真っ青になってきてね?
「放してほしい!ほしいです!」
「じゃあ警察呼ばない?」
「は!?」
「だから、呼ばない?」
何だ何だ!?これ、呼ぶって言ったら、次こそ骨折れるパターンか!?
「わ、分かりました!呼びません!呼びませんから!」
「よし、いい子」
「ふぅうう…マジ痛かった…」
「そんなにか?抑えた方なんだが」
「ええ…」
俺の右手が……本当に骨折れてない?本当に?
「そんなに確認する?」
「しますよ、そりゃあ」
俺の右手…あの力の強さだったら、本当にあり得そうで怖えんだよな。
まあ、特に痛いとかはないから、異常はないんだろうけど…。
というか…それよりも…。この人どうしよう…。
不審者だよな、絶対。不法侵入…。
てか、めっちゃ美人じゃね?スタイル凄いし、髪の毛はキラキラしてるし……胸は…おうふ…まあまあデカいぞ…。
染めてるのかな、髪の毛。薄桃色なんて、日本人じゃ絶対有り得ない髪色だし。日本以外でもそうそう居ないんじゃないか?薄桃色なんて。
「気になるか、私のこと」
「いや、気になるっていうか…あ、そういえば!」
「ん?」
「さっき、変なことを言ってましたよね?」
変なこと?と首を傾げる女の人。
いやいや、言ってたでしょう、貴女。バチくそ変なこと。魔法少女がうんたらかんたらって。
「ああ、魔法少女のこと?」
そう!それ!
「あれは本当、魔法少女は嘘じゃあない」
「やっぱり警察呼ぼうかな」
「だから待って、まだ話すことはある」
真剣な表情をしながら、不審者はそう言う。
いや、魔法少女と名乗っている人に、そんな真剣な表情をされてもアレなんですけど。
「貴方に怪物が取り憑いていてな」
「……は?」
「色々と厄介なんだよ、それ」
「いやいや」
不審者は不審者、か…。
よし、やっぱりここは警察…って嘘ですよ、ははは。いや、嘘だからそんな冷たい目しないでってば…。
というか、本当にさっきからこの人は何を言ってるんだ?
「まあ、突然言われても分からないだろうから、説明してあげよう」
「は、はい…」
魔法少女(自称)さんから、怪物とやらの説明を受けるのか…あれ、俺ってそういえば何をしようとしていたんだ?
あれ?おかしいな?色々と俺ヤバくね?
…よし、ここは一旦現実逃避だ。どうせ時間はあるんだし、暇つぶし程度に聞いておこう。
「まず、《魔法使い》という者がこの世にはいる。崩して言うと、特別な超能力を持つ者たちのことだな。それが少女の場合、《魔法少女》と呼び、《魔法少年》もいる。大人になると男女関係なく、《魔法士》となる。《魔法使い》はそれら全部を言い包めた名称だ」
「は、はあ…」
魔法少女(自称)から、既に胡散臭かったけど、こりゃあもう黒確定だな…。
《魔法使い》?何だそれ?ハリ○タの世界じゃないんだからさ…。ま、暇つぶしにはいいけど…。
「それと、《怪物》。コイツは…正直意味不明だ」
不明なのかい。そこは設定考えてなかったのね。
「どうやって生まれたのか、どうして人を害する様な事ばかりするのか、何故異常な力を有しているのか…科学者達が研究を進めてはいるが、中々進展する兆しは見えない。ただ」
「ただ?」
「《怪物》に対する対策は見つかっている」
「対策って、さっきの?」
「そう…《魔法使い》だ」
「そっかあ……うん…」
うん、なんというか。
……何というか。
「胡散臭ええええええ!」
いやいや、これ真に受ける人とかいるの?いないって、しかも俺そいうお年頃じゃないし。
魔法使い?魔法少女?怪物?本当、なにそれ?
俺を舐めてるの?としか言いようがないよね。中学生にも飽きられるぞ、その嘘。
「本当、帰ってよ。警察呼ばないであげるからさ」
「無理だ」
「なあんでよ…」
「お前に寄生している《怪物》が、いつ動きを見せるか分からないからな。だから、暫くはここに居候させてもらうぞ」
「勘弁してよ…」
うう…胃が痛くなってきた…。
と、ちらっと映るのは俺のスマホ…そうだこれで…。
「なぁにをしているのかなあ?」
「あいだだだだだだだだ、ギブギブギブ!」
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