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コメント
1件
うわあ……カイル、やっと目覚めたんですね。でも「また生き残ったか」の自嘲がもう切なくて。看護師さんの慌てっぷりからも、長く眠ってたんだなって伝わってきました。そしてリシアの変わりように胸がざわつく……戦う騎士じゃなくなってる感じ、何があったんだろう。それでも「ガルドを送り届けたい」って言うカイルの台詞が一番響きました。戦友をちゃんと見送りたいって気持ち、重くて尊いです。
時はさかのぼる。
薄く目を開く。
ぼやけていた視界が、少しずつ輪郭を取り戻していく。
白い天井。
木造の梁。
薬草の香り。
「……ここは」
カイルはゆっくりと瞬きをした。
見覚えがある。
王国の中央治療院。
それも重傷者だけが運び込まれる特別病棟だった。
以前、一番隊隊長と共に運ばれたことがある。
あの時、隣のベッドで笑っていた男は……。
「……」
視線を横へ向けようとして、身体に鈍い痛みが走る。
「っ……!」
ゆっくりと顔を下げる。
胸。
腕。
腹部。
脚。
至る所に包帯が巻かれ、細い管が何本も身体へ繋がっていた。
透明な液体が一定の速度で流れ続けている。
「また……生き残ったか」
自嘲するように呟いた。
その時だった。
ガチャ。
扉が開く。
「失礼します」
若い看護師が部屋へ入ってくる。
そして。
ベッドに起き上がっているカイルと目が合った。
「……えっ」
数秒。
看護師は固まった。
「カ、カイル様!?」
手に持っていた書類を落としそうになる。
「お、お目覚めになられたのですね!」
慌てて駆け寄る。
カイルは苦笑した。
「驚かせてしまったか」
「す、すみません!」
看護師は何度も頭を下げる。
「ずっと……ずっと意識が戻られなかったものですから……」
「……ずっと?」
その言葉にカイルは眉をひそめた。
看護師も自分の失言に気付いたらしい。
「あっ……」
慌てて話題を変える。
「す、少々お待ちください!」
「お水をお持ちします!」
「それと上の方もお呼びしますので!」
「……あぁ」
カイルは小さく頷く。
看護師は走るように病室を飛び出していった。
静寂。
再び部屋には自分だけになる。
「……今まで?」
ぽつりと呟く。
(私は……どれほど眠っていた)
看護師の反応。
あの驚き。
普通ではない。
カイルは静かに目を閉じた。
(グラディウスは)
(王国は)
(白銀騎士団は)
考えれば考えるほど、不安だけが募る。
それから三十分ほど経った頃だった。
コツ……コツ……。
廊下から二人分の足音が聞こえてくる。
カイルは目を開いた。
(来たか)
(二人……)
足音は病室の前で止まる。
扉越しに女性の声が聞こえた。
「ここからは私が対応します」
「ですが、お水を……」
「それは私がお渡しします」
「分かりました」
看護師の足音が遠ざかっていく。
残る足音は一つ。
ガチャ。
扉がゆっくり開いた。
「団長」
その声に、カイルは目を見開いた。
「……リシア」
確かに彼女だった。
だが。
どこか違う。
戦場では常に身につけていた銀の鎧はない。
腰に下げていた細身のレイピアも見当たらない。
代わりに身を包むのは、白を基調とした美しいドレス。
頭には小さなティアラ。
戦う騎士ではなく、一国の貴族を思わせる姿だった。
「団長、お目覚めになられましたか」
柔らかく微笑む。
カイルは思わず尋ねる。
「……リシアで間違いないのだな」
彼女は静かに頭を下げた。
「はい」
「リシア・エルフェルトです」
その仕草は昔と変わらない。
だが、戦場に立つ者の雰囲気はもうなかった。
カイルは胸の奥がざわつくのを感じた。
「教えてくれ」
思わず身を起こす。
「私が眠っている間に何があった」
「白銀騎士団はどうなった」
「王国は!」
「今どうなっている!」
勢いよく叫んだ瞬間。
「ぐっ……!」
全身を激痛が貫く。
傷口が悲鳴を上げた。
リシアは慌てて支える。
「無理をなさらないでください」
「まだ目覚めたばかりです」
「これからリハビリも兼ねて治療を続ける予定です」
「今は身体を休めてください」
「今まで起こったことは……私が、ゆっくりお話しします」
しかし。
カイルは首を横に振った。
「いや」
震える腕を握り締める。
「どうしても……」
リシアが首を傾げる。
「?」
カイルは静かに天井を見上げた。
そして、小さく呟く。
「ガルドを……」
瞳が少し潤む。
「きちんと送り届けたい」
「戦友として」
「隊長として」
「……あいつとの約束を、果たさなければならない」
病室に静寂が落ちる。
リシアは何も言わなかった。
ただ静かに目を伏せる。
そして、小さく頷いた。
「……分かりました、団長」
「まずは、ガルド隊長のもとへ参りましょう」
その一言だけで、カイルはようやく目を閉じた。
戦いは終わった。
だが、本当の別れは、まだ終わっていなかった。