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「……え?」
スマホでネットニュースを見ていた溝口宗輔は、操作する指の動きを止めた。
【動画配信者ニシジュン死亡】
慌てて詳細を見ると、死因は不慮の事故と書かれていた。
——西谷が、死んだ?
西谷に何があったのか?
詳細を知ろうとした溝口は蒲生に電話をかけたが、蒲生は電話に出なかった。
西谷個人の電話番号はわかるが、実家の電話番号まではわからない。
——仕方ない。とりあえず西谷の実家にでも、行ってみるか。
黒い衣装を着て玄関に向かうと、母親が二人の男と話していた。
——客か?
溝口に気づいた母親が、困惑した顔で言う。
「宗輔……こちらの刑事さんが、お話を聞きたいって」
「刑事?」
溝口は瞠目して、二人の刑事を見る。
刑事達は会釈をしてから、溝口に手帳を見せた。
「出かける予定のところ、申し訳ありません。お時間をとらせませんので、少しお話しを聞かせていただけますか?」
溝口は無言で頷いた。
「実は先日、宗輔さんの担任だった清水正高さんが、亡くなりました」
「え?」
「ご存知なかったですか?」
「はい」
「そうですか……」
刑事は少し目を伏せて、考えこむような仕草を見せた。
「では、西谷順さん。彼が亡くなられたのはご存知ですか?」
「え?あ、はい。ネットニュースで見て、今から西谷の実家に行こうかと思ってたのですが……」
と溝口は言いかけたが、そのまま言葉を噤んだ。
「西谷さんとは親しくしていたのですか?」
「いや、親しくしていたのも高校の時で……最近は会ってなかったというか……」
歯切れが悪くなる溝口は
「あっ!どちらかというと蒲生の方が、親しいと思いますよ」
自分は関わりが少ないのだと、刑事に伝えようとした。
刑事二人は互いの顔を見合わせた後、
「先日、蒲生さんから交流がないとお聞きしましたが……実際は違ったということですね?」
と溝口を射抜くように見て言った。
「さ、さぁ?同じ動画配信者だから、連絡を取っているかなと思っただけで……」
焦り気味に言う溝口に、刑事は言った。
「じゃあ宗輔さんは、蒲生さんが大学を休んでいることは、ご存知ない?」
「え?そうなんですか」
溝口は驚いた。
——蒲生が電話に出ないのは、何かあったからなのか?
考えこむ溝口に、刑事は鋭い目をして言った。
「我々がお聞きしたかった事はですねぇ……二人とも亡くなる前に、梶原樹さんの名前を出していたんですよ」
「え?……」
「梶原樹さんのこと、ご存知ですよね?」
「……」
「ちょっと待ってください!」
横で黙って聞いていた溝口の母が、割り込んで声を張り上げた。
「梶原って子と宗輔は、もう関係はありません!」
「母さん……」
「お帰りください!」
母親は強い口調で刑事を追い返して、溝口に言う。
「まったく、昔のことはもう済んだのに。気にしなくていいわよ」
「え?……ああ」
溝口は低い声で答えた。
——西谷の実家には、行かないでおこう。
刑事は何を探っているのか、全くわからない。
もしかして何かを探っているのではなく、ただの聞き取りだったかもしれない。
だが溝口は過去を調べられて、自分にあらぬ疑いをかけられるのは避けたかった。
溝口はすぐさま芽里にLINEをした。
『梶原は今も意識不明なのか?』
既読表示が直ぐについた。
『どうしたの?樹は今も入院しているわよ』
芽里の返答に、溝口は直ぐに返す。
『意識が戻ってるのか』
『それは聞いてない。樹の家、パン屋さんが今も休みだから、まだじゃないかな』
——まだ意識不明か。
それなら、どうして清水と西谷は……梶原の名前を出したんだ?
溝口が考えこむ間、芽里からのメッセージが次々と送られていた。
『今日、会える?』
『私、夕方なら大丈夫』
スタンプも送られてきたが、溝口はため息をついた。
——梶原が悔しがって、泣く顔が見たかっただけなんだけど。
この女、面倒だし、もういらねーな。
溝口は『また連絡する』とだけLINEした。
自室に戻った溝口は、一枚の写真を取り出した。
高校の時のクラス集合写真——左右の端に立つのは溝口と樹。
溝口は写真に映る樹の顔に、ボールペンを刺した。
——本当にコイツはムカつく。
俺は物心ついた時には、習い事や塾に通わされていた。
親は跡継ぎの俺に、”優秀であること”を求めた。
それに答えようと、俺は必死だった。
小学5年になって、親が成績が良かったからとゲーム器を買ってもらった。
俺のコネもあって、ゲーム大会のイベントに参加することが出来た。
誰にも負けないと、絶対に勝てると思った。
だが、優勝したのは、一般参加をしていた梶原樹だった。
嬉しそうに、満面の笑みを見せる梶原。
俺は負けた事が悔しくて、奴の顔を忘れないと思った。
高校の入学式で、俺は梶原樹と再会した。
嫌な顔などしたことが無く、いつも笑っている梶原。
大した塾にも通ってないパン屋の息子が、俺よりも良い成績を出す。
並外れた計算力で、数学の数式は全て暗算で答える梶原樹。
俺より優秀でいるなんて、絶対に許せない。
だから俺は、梶原を貶めた。
梶原の人生を潰してやりたかった。
アイツが学校を辞めた時、ざまぁみろと思った。
だが、梶原は潰れてなかった。
大学に進学して、女と付き合っていると知った。
梶原が楽しそうにしているなんて、ありえねーだろ?
だから俺はアイツを、二度と立ち上がれないように、叩き潰してやることにした。
そして俺は、梶原を確かに潰したはずなのに……
何故、今、俺が追い詰められているみたいになるんだ?
くそっ!俺がアイツに負けるはずないんだ!
溝口はまた樹の顔に、ボールペンを刺した。
そして黒く塗り潰してから、家を飛び出して行った。
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るるくらげ
いと
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