【ねぇ、姉ちゃんは僕が好き?】
【そうだね、好きだよ。】
【それなら、しょーらいは”けっこん”してくれる?】
【そうね。君がまだ私を覚えてくれていたら、かな。】
【わかった!やくそく!】
懐かしい夢を見た。
小さい頃、近所にいたはずだったお姉ちゃんの夢。
幼なじみ達と一緒に面倒をみてくれた人だ。
それがある日を境に誰もその人の存在を忘れてしまった。
幼なじみ、父親も母親も、そして彼女の家族でさえ例外ではなかった。
幼な心に戸惑ったが、この夢を見るまで自分すら忘れていた。
季節は夏。セミの声が徐々にヒグラシに変わってくる頃。
幼なじみの卓也が思い付いたように言った。
「なぁ、葵、今日の祭り行こうぜ!」
「祭りなんて別に。」
「いいじゃん!久しぶりにみんなで行こうぜ!いいだろ?昔はよく行ってたしさ!」
「•••わかった。」
「じゃあ決まり!18時に神社前に集合な!浴衣にしようかなぁ、甚平の方が動きやすいかな。葵はどうする?」
卓也は楽しそうに聞いてくる。昔一緒に行った時には彼女がいたのだ。
「なぁ、卓也。」
「ん?どうした?」
「•••璃子さんって。」
「まぁた始まった。だからいないって!お前と付き合い長いんだから、わかるだろ?」
「そっか。ごめん。」
「•••それでも、その質問も久しぶりに聞いたな!」
やはり覚えているわけないか、改めて痛感する。
「じゃあ、また後で!」
「後でな。」
卓也と別れて帰宅する。
両親は働いているため、帰宅しても誰もいない。
昔は寂しかった気はするが、みんなと遊んでいたから気が紛れていたのだろう。
居間に行くと畳まれた甚平が置かれていた。
「•••これでいいか。」
そうして母親宛に手紙を書く。
その後時間が来るまでに課題を済ませた。
18時前には神社前に着いた。
そこには卓也の他に馴染みの顔があった。
「葵、甚平かぁ。」
「ごめん、遅くなって。」
「これで浴衣が少数派になったな。まぁ、みんな揃ったし、行くか!」
学校でも顔を会わせているが、それでも楽しくわいわいと話しながら移動する。
大鳥居を潜ると本殿に向かって長い参道が続く。その参道沿いに屋台が並んでおり、ソースのいい香りがしている。
「俺焼きそば!」
「じゃあたこ焼きかな。」
「箸まきだろ。」
各々好きな物を買い、食べながら歩く。
親のいない友達と過ごすこの時間が、今では心安らぐ時間となっていた。
屋台飯を堪能した後はお参りのため本殿の人の列に並ぶ。3列に並ぶようにされているが、それでも人は多い。
「はぐれるなよー。」
卓也がニヤニヤしながら話しかけてくる。
「卓也こそ、また迷子になって泣いても知らないからな。」
「もー!忘れろよ!」
一度だけ卓也が迷子になったことがある。友達がいなくなる衝撃は強く、自分自信も強い不安を抱きながら探し回った。
「確かあそこで•••。」
当時の卓也を見つけた御神木の方をみる。
そこには見覚えのある女の子が立ってこちらを見ている。
俺と目が合うと彼女は本殿の奥に走って行った。
「•••璃子、さん•••。」
「葵?どうした?」
「璃子さん!」
「おい!」
卓也の制止も聞かず、ひたすら走って後を追う。
「待って!待ってよ!」
無我夢中だった。
気付けば周りの音が消えていた。
人の声も気配もしなくなっていた。
それでも追いかけた。
「はぁ、はぁ•••一体、どこに•••。」
かなり奥まで来てしまったが、そこに璃子さんの姿はなかった。
「やっぱり•••気のせい、なのかな•••。」
周囲を見渡して諦めがつく。
幻想だった。
やはり彼女は元々いなかったのだ。
自分の記憶が捏造した存在で、俺の頭がおかしくなったのだ。
「•••戻ろう。」
そうして本殿近くの参道にいる卓也達の所へ向かう。
おかしい、なにかがおかしい。
「•••音が、しない。静かだ。」
そうして来た道を戻るが、そこには誰の姿もなかった。
「なんで•••卓也、卓也!」
出店はそのまま、ソースのいい香りもしている。
しかし人だけがいない。
走って卓也達の名前を呼びながら大鳥居まで戻ってみる。
それでも誰の姿も見当たらない。
「•••なにが起きてるんだ?」
「ほんに珍しい。」
「!」
急に背後から人の声がした。
心臓が跳ね上がる。
「7つを過ぎた人の子が迷い込むなんて、ほんに珍しい。やはり嫁入り前だからかなぁ。」
恐る恐る振り替えると、そこには狐と思われる獣の耳と九尾がついている人が立っていた。
「ほれ、これを着けて。」
「うわっ!」
その人はお構いなしに俺にお面を着けた。
「ダメだよ、顔と名前を盗られてしまうからね。」
「やめっ」
「ほうほう、元気のいい子だ!」
さっきから彼のペースに巻き込まれている。
「僕はオヤシロ。この神社を守る神様みたいなものだよ。君は? 」
「•••葵。」
「そうかそうか。じゃあ、藍、だね。」
「は?」
「さっきも言った通り、人の子が迷い込むなんて珍しいんだ。だから顔と名前を盗られてしまうと元の世には帰られないんだよ。」
「俺はもう15だ!子ども扱いなんか!」
「15かぁ、よきよき。まだまだ若いね。」
こいつ人の話を聞いちゃいない。
「時に藍、どうしてここに?」
「•••人を追ってきて、いなかったから、戻って来たらここに。」
「そうか。じゃあ次に帰れるのは嫁入り当日になるね。」
「嫁入り?」
「そう、1週間後の逢魔が刻、ここで神様と人間の娘が祝言をあげる。その時に境目がまた曖昧になるんだ。そしたら元の世に返してあげようね。」
「神様と人間って、どういう事だ。」
「そのままの意味だよ。そして祝言をあげたら、その神様と人間でこの地を守り続けるんだ。」
「ここに璃子って人間はいないのか?」
その名前を聞いてオヤシロの耳がピンッとなった。
「その子が花嫁になる人間だよ。」






