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逢魔の嫁入り

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逢魔の嫁入り

1 - 第1話 花嫁

♥

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2026年03月01日

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【ねぇ、姉ちゃんは僕が好き?】

【そうだね、好きだよ。】

【それなら、しょーらいは”けっこん”してくれる?】

【そうね。君がまだ私を覚えてくれていたら、かな。】

【わかった!やくそく!】


懐かしい夢を見た。

小さい頃、近所にいたはずだったお姉ちゃんの夢。

幼なじみ達と一緒に面倒をみてくれた人だ。

それがある日を境に誰もその人の存在を忘れてしまった。

幼なじみ、父親も母親も、そして彼女の家族でさえ例外ではなかった。

幼な心に戸惑ったが、この夢を見るまで自分すら忘れていた。


季節は夏。セミの声が徐々にヒグラシに変わってくる頃。

幼なじみの卓也が思い付いたように言った。

「なぁ、葵、今日の祭り行こうぜ!」

「祭りなんて別に。」

「いいじゃん!久しぶりにみんなで行こうぜ!いいだろ?昔はよく行ってたしさ!」

「•••わかった。」

「じゃあ決まり!18時に神社前に集合な!浴衣にしようかなぁ、甚平の方が動きやすいかな。葵はどうする?」

卓也は楽しそうに聞いてくる。昔一緒に行った時には彼女がいたのだ。

「なぁ、卓也。」

「ん?どうした?」

「•••璃子さんって。」

「まぁた始まった。だからいないって!お前と付き合い長いんだから、わかるだろ?」

「そっか。ごめん。」

「•••それでも、その質問も久しぶりに聞いたな!」

やはり覚えているわけないか、改めて痛感する。

「じゃあ、また後で!」

「後でな。」

卓也と別れて帰宅する。


両親は働いているため、帰宅しても誰もいない。

昔は寂しかった気はするが、みんなと遊んでいたから気が紛れていたのだろう。

居間に行くと畳まれた甚平が置かれていた。

「•••これでいいか。」

そうして母親宛に手紙を書く。

その後時間が来るまでに課題を済ませた。


18時前には神社前に着いた。

そこには卓也の他に馴染みの顔があった。

「葵、甚平かぁ。」

「ごめん、遅くなって。」

「これで浴衣が少数派になったな。まぁ、みんな揃ったし、行くか!」

学校でも顔を会わせているが、それでも楽しくわいわいと話しながら移動する。

大鳥居を潜ると本殿に向かって長い参道が続く。その参道沿いに屋台が並んでおり、ソースのいい香りがしている。

「俺焼きそば!」

「じゃあたこ焼きかな。」

「箸まきだろ。」

各々好きな物を買い、食べながら歩く。

親のいない友達と過ごすこの時間が、今では心安らぐ時間となっていた。

屋台飯を堪能した後はお参りのため本殿の人の列に並ぶ。3列に並ぶようにされているが、それでも人は多い。

「はぐれるなよー。」

卓也がニヤニヤしながら話しかけてくる。

「卓也こそ、また迷子になって泣いても知らないからな。」

「もー!忘れろよ!」

一度だけ卓也が迷子になったことがある。友達がいなくなる衝撃は強く、自分自信も強い不安を抱きながら探し回った。

「確かあそこで•••。」

当時の卓也を見つけた御神木の方をみる。

そこには見覚えのある女の子が立ってこちらを見ている。

俺と目が合うと彼女は本殿の奥に走って行った。

「•••璃子、さん•••。」

「葵?どうした?」

「璃子さん!」

「おい!」

卓也の制止も聞かず、ひたすら走って後を追う。

「待って!待ってよ!」

無我夢中だった。

気付けば周りの音が消えていた。

人の声も気配もしなくなっていた。

それでも追いかけた。


「はぁ、はぁ•••一体、どこに•••。」

かなり奥まで来てしまったが、そこに璃子さんの姿はなかった。

「やっぱり•••気のせい、なのかな•••。」

周囲を見渡して諦めがつく。

幻想だった。

やはり彼女は元々いなかったのだ。

自分の記憶が捏造した存在で、俺の頭がおかしくなったのだ。

「•••戻ろう。」

そうして本殿近くの参道にいる卓也達の所へ向かう。


おかしい、なにかがおかしい。


「•••音が、しない。静かだ。」

そうして来た道を戻るが、そこには誰の姿もなかった。

「なんで•••卓也、卓也!」

出店はそのまま、ソースのいい香りもしている。

しかし人だけがいない。

走って卓也達の名前を呼びながら大鳥居まで戻ってみる。

それでも誰の姿も見当たらない。

「•••なにが起きてるんだ?」

「ほんに珍しい。」

「!」

急に背後から人の声がした。

心臓が跳ね上がる。

「7つを過ぎた人の子が迷い込むなんて、ほんに珍しい。やはり嫁入り前だからかなぁ。」

恐る恐る振り替えると、そこには狐と思われる獣の耳と九尾がついている人が立っていた。

「ほれ、これを着けて。」

「うわっ!」

その人はお構いなしに俺にお面を着けた。

「ダメだよ、顔と名前を盗られてしまうからね。」

「やめっ」

「ほうほう、元気のいい子だ!」

さっきから彼のペースに巻き込まれている。

「僕はオヤシロ。この神社を守る神様みたいなものだよ。君は? 」

「•••葵。」

「そうかそうか。じゃあ、藍、だね。」

「は?」

「さっきも言った通り、人の子が迷い込むなんて珍しいんだ。だから顔と名前を盗られてしまうと元の世には帰られないんだよ。」

「俺はもう15だ!子ども扱いなんか!」

「15かぁ、よきよき。まだまだ若いね。」

こいつ人の話を聞いちゃいない。

「時に藍、どうしてここに?」

「•••人を追ってきて、いなかったから、戻って来たらここに。」

「そうか。じゃあ次に帰れるのは嫁入り当日になるね。」

「嫁入り?」

「そう、1週間後の逢魔が刻、ここで神様と人間の娘が祝言をあげる。その時に境目がまた曖昧になるんだ。そしたら元の世に返してあげようね。」

「神様と人間って、どういう事だ。」

「そのままの意味だよ。そして祝言をあげたら、その神様と人間でこの地を守り続けるんだ。」

「ここに璃子って人間はいないのか?」

その名前を聞いてオヤシロの耳がピンッとなった。

「その子が花嫁になる人間だよ。」

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