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#勧善懲悪
#勧善懲悪
昼すぎ、テオファイルが古いアルバム箱を抱えて工房へ来た。
「昔の写真を見返すなら、ついでにこれもだ」
ふたを開けると、中学時代の町内会だより、文化祭の切り抜き、雨上がり公園で描かれた子どもたちの絵が何枚も出てくる。
その中に、一枚だけ、エリアの絵があった。
灰色の校舎の壁いっぱいに描かれた、青い空の絵。
卒業前の校内展示で、沈んでいた廊下が急に広く見えたことを、サペは覚えていた。
「あの日、あんた、ここで立ち止まってた」
エリアが言う。
サペは絵を見たまま、小さくうなずいた。
「家がごたついてて、工房も静かで、先が見えなかった」
ぽつりと、言葉が落ちる。
「でもあの壁だけ、外みたいだった」
エリアは何も挟まず聞いた。
「だから……卒業式の日、言いたかった」
サペは指で写真の端をなぞる。
「君の絵に何度も助けられた、って」
工房の空気が少し静まる。
「それだけ?」
エリアが聞く。
サペは困ったように眉を寄せた。
「それが一番だった」
それから、少し置いて付け足す。
「ほかに何もなかったわけじゃない。でも、先に渡したかったのは礼だ」
エリアは笑いそうになって、やめた。
好きだとか嫌いだとかより先に、助かったと伝えようとしていた。その順番が、あまりにもサペらしかった。
「変なやつ」
「知ってる」
テオファイルが咳払いする。
「おまえさん、その日、封筒を二回書き直してたぞ」
サペがぎょっとする。
「見てたのか」
「机の上で丸見えだった」
エリアが肩を震わせる。
「二回?」
「字が汚かった」
「三回目で急に達筆になった?」
「なってない」
やっと少し笑いがこぼれた。
けれど、その笑いの奥には、まだ確かめなければならない人が一人いる。
ンドレス。
あの日、少し離れた場所からこちらを見ていた顔が、写真の中でずっと固まったままだった。