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(俺の中にも…………熱い感情なんてあったんだな……)
純は恵菜を庇いながら、ふと思う。
人前で、こんなに感情を露わにした事は、今までなかったかもしれない。
軽薄な部分や大袈裟なリアクションのお陰で、過去の恋人たちに振られ続け、恋愛に臆病になっている自分を悟られないように、蓋をして生きてきた純。
多くの女と関係を持ちながら『本気の恋愛がしたい』と思うものの、これから先も、本音をオブラートに包んだ人生を歩んでいくのだろう、と、彼は思っていた。
だが、昨年のクリスマスに出会った、純の人生を変えたと言っても過言ではない、相沢恵菜という女。
彼女に一目惚れし、会っているうちに辛い過去を知り、恵菜を守りたいと思う気持ちが、今の彼を突き動かしている。
(短かった結婚生活で苦しみ、悲しみ、傷付いた恵菜を、俺が…………)
純は、良子から視線を外すと俯き、逡巡した後、勢い良く顔を上げた。
──恵菜だけは、絶対に誰にも渡さない。
純の固い決意を込めて。
「あなた方が、恵菜から笑顔を奪った分…………私が彼女を笑顔にさせます」
純は恵菜の小さな手を、キュッと握りしめる。
「あなた方が、恵菜を苦しめ、傷付けた分…………私が彼女の心を癒します」
横にいる恵菜が、涼しげな目元を微かに見開き、上目遣いで彼を見やった。
「あなた方が、恵菜を不幸にさせた分…………私が彼女を、たくさん幸せにします。なので、もう恵菜とは…………一生会わないで頂きたい」
純の誓いに、早瀬親子と理穂は言葉を失い、気まずそうに顔を伏せている。
「この先、また恵菜に危害を加えようとするのならば、こちらも、然るべき対応をさせて頂きます。私の言っている意味、分かりますよね?」
良子と理穂は、彼の言葉に反論できないのか、黙ったままだが、勇人は俯いたまま、両手に拳を作り、小刻みに震わせていた。
「…………んだよ…………何でだよっ……! 恵菜…………おっ……お前っ!!」
最後の悪あがきなのか、勇人が逆上して拳を突き出し、恵菜を目掛けて突き進む。
「はっ……早瀬! お願い! もうやめてっ!!」
恵菜は殴られるのを覚悟で、両手で顔を覆った矢先、純が勇人の手首を強く掴んで阻止した。
息子が元妻に手を上げようとする様子を見た良子が、目を見張らせたまま両手で口元を隠し、理穂は、攻撃的な不倫相手を見て愕然としている。
恵菜が、恐る恐る手を下ろし、純を見上げると、彼は般若を思わせる表情で、勇人と対峙していた。