「おい」
先ほどまで、丁寧な口調で話していた純が、恵菜に再び手を上げようとした勇人に、ドスの効いた声で吐き捨てた。
「お前…………マジで…………いい加減にしろよ」
普段の砕けた話し方で、腹の底に響きそうな純の低い声に、勇人の顔色が、みるみる変わっていく。
「恵菜は俺だけの女だ。彼女を傷付けるヤツは……誰であろうと…………俺が許さないっ!」
純は、グイっとヤツの顔に近付けると、一つひとつの言葉を、威圧しながらゆっくりと繋いでいった。
さらに強く手首を握り、彼は眉間に皺を刻ませ、凍てつく視線で勇人を萎縮させる。
「次、お前がまた何かやらかしたら、タダで済むと思うな。今、俺が言った事……よく覚えておけっ」
殺気のようなオーラを纏わせ、勇人に最終警告を突き付けた純。
「っ!!」
勇人が恐怖に顔を歪め、純の手を強く振り切ると、後退りしながら、そそくさと逃げていく。
「勇人! 待ちなさい!!」
「勇人センパイ! 私はどうなるのよ!!」
勇人の母、良子が、純と恵菜に軽く頭を下げた後、息子を追い掛け、理穂は二人に目もくれず、公園から走り去っていった。
***
嵐のような修羅場が過ぎ去り、ファクトリーパーク近くの公園は、漆黒と静寂な空気に包まれている。
「恵菜? 大丈夫か?」
「はっ…………はい。お陰様で……」
純は、小さな身体をそっと抱き寄せて、腕の中に包み込んだ。
地を這うような低い声で、元夫を威嚇した人と同一人物とは思えないほどの穏やかな口調で、恵菜を気遣う。
「今日の事…………俺に教えてくれれば良かったのに……」
「純さんに教えようかどうか、迷ったんです。でも、これは私の問題だし、自分で解決したかったけど………純さんに助けられました。すみません……ありがとうございました」
「とにかく、恵菜が無事で…………本当に良かった……」
純は恵菜の白皙の頬に手を添え、愛おしそうに、そっと撫でた。
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