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第7話「“海に行けない”って、だめですか?」
登場人物:クク=ミール(草食・冷属性・1年)
クク=ミールは、肌の薄い少年だった。
薄いというより、光の反射を弾くような冷たい銀。
髪は氷の欠片のように細く、前髪が片目を覆っている。
制服の襟には、冷属の薄い温度板。誰かとぶつかると、すぐ青白く光った。
彼は“海に入れない生徒”の一人だった。
原因は、ソルソ反応性アレルギー。
正確には、食事に使われる海藻の一部と、特定の波圧で構成される環境で呼吸困難を起こす。
「海食祭、ことしも出ないの?」
声をかけたのは、波属性の少女ナミエ=コモリ。
小さな体に料理部のエプロン、胸元に自作の海藻バッジをつけている。
波を調理するのが得意で、共鳴レシピの開発にも関わっている。
「うん。入れないし、食べられないし……」
「じゃあ、“海じゃない”レシピ、つくってみない?」
「そんなの、意味ある?」
「あるよ。だって、あなたの波も、ここにあるから。」
ナミエは、共鳴失敗のレシピノートを開いた。
中には、あたたかいけれど泡立たないスープや、海藻なしの塩分ゼリーなど、“波を立てない料理”ばかりだった。
それを、ククの目の前に置いてこう言った。
「どんな波でも、共鳴しないってだけで、“ゼロ”じゃない。
それは、**“外に開かない波”なんだと思う」」
その夜、寮の海側の廊下。
ククは海に背を向けて、そっとゼリーを口に入れた。
冷たい、でも溶ける。
舌の奥に、小さな“塩の音”があった。
“海に行けない”って、だめですか?
そう書かれた波域手帳のページの端に、
小さくこう返事が書かれていた。
「いいえ。あなたの海は、ちゃんとここにある」
ククは、まだ海には行けない。
でもその夜、“波の音がする方向”を、少しだけ見てみようと思った。