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南新宿駅|22:59

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南新宿駅|22:59

9 - ◉灯虚町(とうきょちょう)

2025年06月05日

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❖灯虚町(とうきょちょう)

「……照らされてるのに、誰もいない。

誰のための光?」



通り全体が、やけに明るかった。

街灯、家の窓、看板のネオン。

どこもかしこもまぶしいほどの光を放っているのに、

そこにいるべき人間の姿が一切見えなかった。



駅名は灯虚町(とうきょちょう)。

改札を抜けた先、目に飛び込んできたのは、すべての窓が点灯したままの無人の街並みだった。

しかも、その灯りはどれも“人のいない場所”ばかりを照らしている。

空き家のキッチン、閉店した店のカウンター、誰も通らない横断歩道。

まるで、“何もない”ということを見せつけるかのようだった。



その道を歩くのは、斉藤 瑠璃子(さいとう・るりこ)、31歳。

深い緑のトレンチコートにうすレモン色のストール、

内側に着込んだグレーのニットが少しほつれていた。

小ぶりなショルダーバッグを抱え、革のローファーでカツカツと歩くたびに、

街灯の明かりが追うように彼女の影だけを伸ばしていた。



「なんなの、この……夜のくせに、昼みたいな光は」


視界には、何度も同じ光景が繰り返された。

同じコンビニ、同じ花屋、同じベンチ。

時計は22:59を指したまま、まったく動かない。



彼女はやがて、町の中心にある小さな公園にたどり着く。

ブランコも滑り台も、全てが照明で照らされているのに、

そこに遊ぶ子どもの姿はない。



ただ、ベンチのひとつに、小さな箱が置かれていた。

蓋を開けると、中には**「光を贈る人へ」というメモと懐中電灯**が入っていた。



「……誰かに、渡せってこと?」


懐中電灯のスイッチを入れた瞬間、

視界の奥、民家の窓に“誰かのシルエット”が浮かんだ。


瑠璃子は思わず、そちらに向かって歩き出す。



家の前に立つと、ドアが開いていた。

中は無人。

だが、リビングの一角に、写真立てが並んでいた。

その中に、自分が小学3年生の頃の家族写真が混ざっている。


「……なんで、ここに……?」



すると背後から、子どもの声がした。


「おかあさん、電気つけといたよ」





振り返ると、そこには10歳くらいの少女の姿があった。

ワンピース、肩までの黒髪。

顔立ちはどこか、昔の自分自身に似ていた。



「“ありがとう”って言ってくれるまで、

電気、消せないんだって。ずっと待ってたの」



瑠璃子の手から、懐中電灯が滑り落ちた。

少女の姿は、光に照らされた瞬間、

空気に溶けるように消えた。



彼女は何も言えないまま、夜の道を歩いた。

帰り道、あの街灯の多くはすでに消えていた。

照らされていたはずの道は、どんどん暗くなっていく。



南新宿駅に戻ったとき、彼女のポケットには小さな豆電球がひとつだけ残されていた。

点滅もせず、音も立てず。

それでも、その光は、やけにあたたかく感じた。





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