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#旅する画家
柘榴とAI

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#ジクウ画家スピンオフ
柘榴とAI

72
#ダークファンタジー
えびふらい
51
#うちの子
零斗@待ちぼうけ
539
澄み切った青空の下、古いバンが首都高速道を横浜方面に走っていた。「仕出し弁当の松山亭」とボディに大きく書かれたバンはガタゴト揺れながら走り、その横を何台もの車が追い越していく。
「くそっ。また抜かれた!」
運転席に座る土屋薫は、追い越していく大型トラックを恨めしそうに横目で見た。二列のバックシートには大牙、凛、菜緒、元気、誠が乗っていて、バンの堅いサスペンションのせいで道路の継ぎ目を通過するたびに身体が上下に揺れる。
「借りるならもっといい車にしてほしいぜ」
大牙がぼやくと、後ろのシートの誠が「ですよねー!」と身を乗り出した。
「電車にすればよかったね」
助手席の美優の言葉に、菜緒と元気が「うん」「だよなー!」と同意すると、薫が「うるせー!」と振り返った。
「うるせー! 依頼主がお前達も連れてこいって言うから、全員乗れる車を借りたんじゃねーか!」
「あと五秒」
「あ?」
「え?」
凛の言葉に、二人はキョトンとした顔でバックシートを振り返った。
「今すぐハンドル切らないと、五秒後には壁に激突するわよ」
「何っ……わぁっ!」
慌てて前を見るとすでにカーブに差し掛かっていて、壁が目の前に迫っていた。慌ててハンドルを切ると、タイヤが悲鳴を上げながらスリップ。バンは車線を大きくはみ出す。バックシートに座っていた大牙たちの体が窓に押し付けられ、「うわあ!」「きゃぁぁ!」と悲鳴が上がった。
バンはジェットコースターのように蛇行しながら走り続け、ようやく車体が真っ直ぐになる。
「ったく、スーパースネークじゃないっつーの」
大牙はバックシートに座り直すと、窓から海に隣接したレジャーパーク「ミラクルランド」が見えてきた。
大きな観覧車の奥には、まるで巨大な蛇のような形をしたジェットコースター「スーパースネーク」のレールが海に飛び込むように突き出している。
助手席の美優もミラクルランドに気付き、わぁっと嬉しそうに窓から顔を出した。
「キャ〜ッ!早く乗りたいスーパースネーク!」
「すっげぇ〜!」
「怖すぎる!」
「さすがミラクルランドの目玉コースターですね」
元気、菜緒、誠もバックシートの窓から顔を出して、スーパースネークを見て目を輝かせる。
ミラクルランドの隣に建てられたホテル「レッドキャッスル」の正面玄関に薫がバンを停めると、子供達は車から飛び出し目の前に聳え立つ西洋のお城のようなホテルを見上げた。
「わぁー!すごーい!」
「まるでお城みたいですね」
「じゃあもしかして、王様が住んでるのか!?」
「んなわけないだろ。ホテルなんだから」
車から降りてきた凛が大牙の隣に立つ。
「まあ、ここはミラクルランドの真ん前。長期滞在してミラクルランドで豪遊してる王様きどりのお金持ちとかならいそうだけど」
夢のかけらもない超現実的な意見に、大牙は苦笑いする。
「そういえばこのホテル、宿泊者数が十万人を突破するって言ってたわね」
「ほぉー、結構繁盛したんだな」
美優の言葉に、薫は腕を組んでホテルを見上げた。大牙がふと足元を見ると、色紙のような紙切れが二、三枚落ちている。
「みたいだね」
紙切れを拾い上げた彼はふっと微笑んだ。すると、ホテルの中から正装姿の紳士が降りてきた。メガネをかけた紳士は、薫を見て穏やかに微笑む。
「あの失礼ですが、土屋探偵でいらっしゃいますか?」
「ああ、はい」
「お待ちしておりました。私、依頼人の秘書をしております板倉と申します。早速ですが、どうぞこちらへ」
丁寧にお辞儀すると、ホテルの中へと促した。
「美優。打ち合わせが終わったら迎えにいくから、子供たちと遊園地で遊んでろ」
「いえ、皆様もどうぞ」
「え? あ、そうですか」
薫はホテルマンに車の鍵を預けて、板倉に続いてホテルに入る。美優や大牙たちも後に続いていく。
本物の城の内部のようなクラッシックで重厚な雰囲気が漂う廊下を通り、エレベーターで最上階に上がると板倉は目の前の大きな扉を開けた。
「どうぞ、こちらです」
スイートルームのような部屋には中央に大きなテーブルが置かれ、人数分の肘掛け椅子が置かれている。大きな窓の向こうにはステラがある。
「わー!」
「すっげー!」
「ミラクルランドが一望できそうですよ!」
誠たちが窓に駆け寄ろうとすると、板倉が「椅子にお掛けになってお待ちください」と制した。
「ほら、席につけ」
薫に言われた子供たちは仕方なくテーブルに向かい、大牙や美優も椅子に座る。
「では、少々お待ちください」
全員が席につくと彼は扉を閉めて出ていき、椅子に座った子供たちは珍しそうに部屋の中を見回した。
高い天井には豪華なシャンデリアが吊り下げられ、広い部屋には西洋の鎧や絵画など高そうな美術品が飾られている。
「どうしたの、大牙君?」
美優の隣に座っていた大牙は、椅子の肘掛け部分に触れながらじっとそこを見つめていた。
「この椅子、何かあってないよね、この部屋に」
「え……?」
彼女は座っている椅子を見る。肘掛けの先端は強化プラスチックで出来ていて、言われてみれば確かに中世風のインテリアにプラスチックの肘掛け椅子は合っていないような気がする。
「そういえばそうね」
「予算ケチったんじゃねーの?」
「そんなわけないじゃないですか」
誠と元気のやりとりに、美優はフフッと笑った。
(どう考えても合ってないねぇ……)
大牙は肘掛け椅子の先端のプラスチック部分に触れながら顔を顰めた。他の調度品はどれも高級そうなのに、この椅子だけが妙に安っぽくて浮いているのだ。
と、その時扉が開いて、板倉がワゴンを押しながら入ってきた。
「お待たせしました。これをお渡しするために、お子さんたちにも来ていただいたんですよ」
そう言いながら、ワゴンにあった腕時計のようなものを子供たちの前に置いていく。誠が手に取り、不思議そうに見つめた。
「一体なんですか? これ」
「それはミラクルランドのフリーパスIDです」
子供たちは「えっ!?」と一同に驚き、目を輝かせながらフリーパスIDを手に取る。板倉は並んで座る薫、美優、大牙の前にもIDを置いていった。
「土屋さんが仕事をしている間、お子さんたちにはミラクルランドでたっぷりと楽しんでいただこうと思いまして」
「もしかして、依頼主はここのオーナーとか……?」
「いえ、そうではありません。このスイートルームは年間契約で借りておりますが」
「ほぉ、大したもんだな」
薫が感心していると、凛は大牙を見て”ほらね”と言わんばかりにフッと微笑む。彼もハハッ……と苦笑いした。
「さ、みなさん。腕につけてください。落とさないようにしっかりとね。無くしてしまうと再発行はできませんよ」
板倉に言われて、大牙たちはIDを腕につける。
「土屋さんもどうぞ」
「いやぁ、私は遊園地には行きませんから」
「そんなことおっしゃらずに。早く仕事が終われば、皆さんと一緒に楽しめますから」
「……そうですかぁ」
薫も仕方なくIDを腕につけた。腕時計型のIDには赤と緑の小さなランプがついていて、その下には九時十二分と現在の時間がデジタル表示されている。
「このIDは今日一日、ミラクルランドの閉園時間まで有効です。食事も飲み物も全て無料なので、思う存分お楽しみください」
子ども達は「やったー!」と大喜びで扉に向かい、美優も「ありがとうございます」と立ち上がった。
「行こう、大牙君」
「うん」
大牙が立ちあがろうとすると、板倉が彼の肩に手を置く。
「君はここに残ってください」
「え?」
美優は驚いて板倉を見た。扉に向かっていた菜緒達も驚いて足を止める。
「どうして?」
「あ、もしかしてこのホテルの十万人目の客に当たったとか!」
誠がそう言うと、板倉は「まぁ、そのようなもので」と微笑んだ。
(……!)
大牙は鋭い目を彼に向ける。
「マジかよ」
「いいなぁ」
「じゃあ、先に行って並んでましょう。スーパースネークは二時間待ちが普通らしいですから」
「あ、うん、そうだね。じゃあ大牙君、あとで」
誠に促された美優は板倉に会釈して、子供たちと一緒に部屋を出ていった。凛も怪訝そうな顔で彼を見やると、美優たちの後を追っていく。部屋には薫と大牙だけが残り、板倉は扉を閉めた。
「いやぁ、ラッキーだったなお前。十万人目となりゃ、きっとすげえサービスが……あ」
薫は板倉が扉の鍵をかけたことに気づく。振り返った彼が微笑んだ。
「邪魔をされたくないもので」
「邪魔って……」
薫がキョトンとしていると、大牙がフッと微笑む。
「十万人目は僕じゃないでしょ。くす玉の紙切れがホテルの玄関の前に落ちてたし」
「えっ!?そうなんですか!?」
板倉は冷静な声で「ええ」と頷いた。
「十万人目は一時間ほど前に来られたお客様が……」
「じゃあなんでこいつを残すんです?」
「依頼人がそのようにと」
板倉は背広のポケットから小型のリモコンを取り出し、正面の大型モニターに向かって歩きながら押す。するとテラスへ続く窓にかけられた重厚な赤いカーテンが全て閉められ、室内が暗くなった。
「お、おい、何だこりゃ! どうなってるんだ!?」
薫と大牙が驚いて板倉を見ると、大型モニターに男の姿が映る。
コメント
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読み終わったよ〜🖤 最初は楽しそうな遊園地の空気だったのに、大牙くんが肘掛けの違和感に気づいたあたりからじわじわ不穏になってきて…板倉さんの「邪魔をされたくないもので」の鍵の音、ゾッとした。フリーパスIDも何か裏がありそうで、続きがすごく気になる!大牙くんの観察力、かっこよかったです🌙