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#ハッピーエンド
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朝練を終えた僕らは教室へと戻るため、更衣室で着替えを済ませている最中だ。
強豪高校や運動部に力を入れている学校であればシャワー室もあるらしいが、ここにはそんな贅沢な設備はない。なので、汗拭きシートで体を綺麗にしなければならないのだ。面倒くさいことこの上ないけど。
「ちょっと気になるな……」
一度、制服に着替えら前に考える。昨日の明里の言葉が頭から離れないんだ。長所を生かしたプレイの中で僕に一番向いているのが何であるのか。
「なあ大木。ちょっと手伝ってもらえないかな?」
すでに制服に着替えを済ませていた大木に声をかけた。うーん、もっと早く言えば良かった。さすがに制服を着たままで頼むようなことではないから。
でも、一応頼んでみるとしよう。
「なんだよ宮部。というか、お前まだ着替え終わってないのかよ」
「うん。ちょっとだけ試してみたいことがあってさ。ゴール付近に高くボールを投げてもらえないかな?」
「高く投げる?」
「そう。アリウープがどの程度できるのか試してみたくて」
ダメ元でお願いしたわけだけど、しかし、大木は快くオーケーしてくれた。
「なんだ、そういうことか。いいぜ、付き合うよ。まあ、ホームルームが始まる前には戻らなきゃいけないからあんま時間ないけどな」
「ありがとう。それで十分だよ。元々、今回はお試し程度にとどめておくつもりだったし」
そう、お試しだ。今までスリーポイントシュートにしか得意なプレイがなかった僕が、一体どこまでできるのか。それを把握するだけで今はいい。
そして大木は『テンテン』とボールをコート上で跳ねさせた。そして僕に目配せ。準備ができたという合図だ。
「ほらよー」
大木が高く放り投げたボールを、僕は跳んでキャッチした。そしてそのままバンクシュートの体勢に入り、ボールを投げた。バックボードに当たり、そのままゴールへすっぽりと入った。
「意外とできるものなんだな」
ほとんど試したことがなかったから自信がなかったけど、一回で成功するとはね。案外、試合でも使えるようになるかも。
「サンキューな大木」
「いや、ちょっと待てよ宮部。お前の場合、アリウープなんか練習する意味がないと思うぞ?」
「え? なんで?」
頭の上がクエスチョンマークでいっぱいになった僕だった。意味がないってなんだ? できることを増やしておいた方がいいも思うんだけど。
「前にも言ったけど、宮部の場合はダンクの練習をするべきだって意味だ。アリウープもボールを確保したらバンクシュートじゃなくてワンハンドダンクにした方が相手としても厄介だろうよ」
「分かってるよ。でも……」
僕は左膝を軽く曲げながら摩るように確認した。膝の具合を確かめるために。
「なるほど。やっぱり気になるのか、それが」
「当たり前だろ……」
『ジャンパーズニー』。
バスケットボールをやったことがある人なら、一度は耳にしたことがあるだろう。要は膝が炎症を起こして、ジャンプなどをする際に痛みが走るのだ。
僕もそれになってしまった。中学二年生の時に。しかし、これは炎症が治るまで大人しくしていれば、さして問題のないスポーツ障害だ。
だが、僕は無理をした。膝に痛みが走ろうがなんだろうが、全力でプレイをした。無理をして。痛みを我慢して。
その結果、僕の膝は限界を迎え、一時期は日常生活にも支障が出る程までに悪化した。幸い、どうにかここまで回復はできたけど、あんな目には二度と遭いたくない。
怖いんだ。
全力で跳ぶことが。
もちろん、今でも。
「気持ちは分かるけどな。でも、今も全力で跳んでるわけじゃないんだろ? 七割くらいの力でジャンプしてるんだっけかお前?」
「うん、そう。大体それくらいかな」
「だったら余計にアリウープの練習なんてやめておけって。無駄な負担を膝にかけんなよ」
「そこは気を付けてるよ。家に戻ったらいつも冷やしてるし」
「それにな、お前気が付いてないかもしれないけどよ。宮部は以前よりもずっと高く跳べるようになってるんだぜ?」
「ん? いや、前にも言ったけど70センチが僕の限界――」
「『七割の力で』だろ? お前はもっと高く跳べるようになってんだよ。人間は成長するからな」
確かに一理ある。
僕達はまだ高校生だ。しかも一年生。つまりは十六才。まだまだ成長過程だ。僕が試してないだけで、全力で跳べばもっと高く跳べるのかもしれない。
『全力で』という括弧付きだけど。
「まあ、お前の嫁さんにでも相談してみろ。あの暴力女なら何かしらの案を――」
「誰が暴力女ですって」
体育館の扉からひょこっと明里が顔を出した。鬼のような形相をして」
「ぼ、暴力お……もとい。天女様。いつからそこに……」
「ずっと見てたわよ。とりあえず大木くん? ちょーっと付き合ってもらえるかな? 校舎裏まで」
鬼のような形相から、今度は満面の笑みを浮かべながら大木を誘う明里だった。ぎゃ、逆に怖い。
大木、無事に帰って来られるのかな。
【続く】