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ここまでの経緯と、封印についてをクローディアに話してその守り人になってもらえるように頼む。
「この王国全土を世界から切り離す。その為にその封印の監視役となって欲しい。きっと永く永く付き合わせることになると思う。それでも、やってくれないか?」
人魚は考えている。そんな簡単に答えは出せないだろう。
「それって、うちもその封印の一部になるってことやんな? そしたらきっと今よりもっと長生きしてまうんやろな」
「ああ。俺の遅延の魔術の中に取り込まれるからな。ダメか?」
「ううん。むしろそんだけ永くダリルと繋がってられるなら、喜んでやるで! それはこの海でうちくらいしか出来へんことやからなっ!」
人魚は快く受け入れてくれて、その豊満な胸をドンと叩いて見せた。
「すまないな。その代わり俺に出来る事があれば言ってくれ」
「せやな。こういうのはうちらは皆んな前払いでしとる。後になって払えんかったり、そもそも短い寿命で死んでたりするからな。せやから……一回だけ」
そう言って目を瞑る人魚のお願いをその時限りで聞いてやる事で交渉は成立した。
2ヶ所目は右下──森の近くを通る街道脇の丘。ここにはいつかの奴隷の少年が埋まっている。死して働かせるのは気がひけるが、俺と関わりがあってその魂がまだそこにあるなら、交渉の余地はある。
たどり着いたそこには、果たして俺を待っていたかのように墓の上に佇む少年の霊がいた。
「元気にしていたか、と聞くのは変か?」
「ううん。あの時はごめんね、そしてありがとうお兄ちゃん。もう精霊から聞かされているけど、僕を頼ってくれて嬉しいよ」
いつか俺の腹を槍が貫くときに囮にされた少年は、それでも俺を恨んではいなかった。むしろ礼を言われてしまう。俺はお前を助ける事が出来なかった。あの場の貴族を1人残らず殺すことばかり考えていて、お前たちの安全を確保する事を怠ったんだ。礼なんて言われるような者じゃない。
「そんな事はないよ、お兄ちゃん。僕たちは死ぬ事も許されなかったんだ。だから──あの時、その運命を変えてくれただけで充分だったんだ」
その結果、死んでも。死にたいと願う生命とは一体どう言う事なのだろう。生きる事が地獄。この子にとっては世界はそういうところになっていたのだ。
「分かった。お前にとってはこれで良かったんだな」
「うん。そして今はお兄ちゃんの役に立つ機会が与えられるというなら、僕は幸せなんだ」
死んで得られる幸せなどというのは、この世界で魂というものが認識されてスキルでそれに干渉された場合だけだろう。大半の者にとって死んだあとはまっさらにされて次の生に使われるだけなのだから。
「お前にはこの場所で、封印の監視役を務めてもらいたい。この街道を通って王国側に誰も来られないように」
「分かったよ、お兄ちゃん。それでね……お願いがあるんだ」
そう言って聞かせてくれたお願いは、俺にはよく分からないものだった。外の世界で牧歌的な暮らしに憧れるのは分からなくもないが、その見た目をおじさんにして欲しいと言うのは。それは見た目も含めて憧れなのか、自身の虐げられた記憶を消したいが為なのか。