オンキリクギャクウンソワカ、オンキリクギャクウンソワカ、オンキリク……
気が付くと、よく分からない場所にいた。お寺のような、どこか現実離れした雰囲気のする場所だ。ここはどこ? ええっと、私の名前は桃果、神木桃果。名前は思い出せる。けれど、自分がさっきまでどこにいたか思い出せない。夢でも見ているのだろうか。
「……ここはどこ?」
周囲を見回すと、そこには私と同じように戸惑った様子でいる女の子たちの姿があった。みんなも戸惑った表情をしていて、おそらく同じようにここに来るまでのことが思い出せないのだろう。
「みんな大丈夫?」
と、声をかけてきたのは明るい茶髪にミニスカート姿の少女だった。ギャルっぽい見た目だが、彼女もまた困惑しているようだ。
「私は大丈夫だけど……」
「あたしも平気だよー!」
「うん、問題ないよ」
他の少女たちも口々に答える。
「そっか!よかったぁ。アタシは奥村愛梨! ここがどこだか、分かる人いる?」
「ううん……。私にも分からないわ。あっ、私神木桃果です」
「あたしも分かんないや。名前は松尾萌っていいます」
「わたしもさっぱり。戸上瑠美です」
少女の言葉に全員が首を振る。どうやら彼女たちの中にこの場所を知っている人はいないらしい。
「あ、でもなんか変な紙が落ちてるよ?これなんだと思う?」
そう言って指差したのはロングヘアーの戸上瑠美だ。彼女の言う通り、部屋の隅には古びた紙切れのようなものが落ちていた。近付いて拾い上げてみる。
『あなた達は選ばれた生贄です』
その文字を見た瞬間、頭に電流が流れるような感覚を覚えた。同時に脳裏に言葉が浮かんできた―――お前達はここから出られない。
「ねえみんな! これ見て!」
誰かが叫ぶように言った。指差す先には壁の裂け目があったが、その外にはただ暗黒が広がっていた。ただ暗いだけでなく、そこには何もないように見えた。
「なにこれ?どういうこと?」
「ちょっと待って……何か書いてあるわ。この部屋から出る方法だって」
黒髪ショートヘアの松尾 萌が壁に貼られている一枚の古ぼけた紙を見つけて読み上げる。そこに書かれていたのは次の文章だった。
『ここに集められた少女達は、一人だけ一時的に外に出られる。そのとき、彼女には使命が与えられる。使命を無事果せば、全員外に出られる。使命に失敗したら、次の少女に使命が与えられる』
「つまり……私達は閉じ込められたってこと?どうして!?」
「そんな……一体誰がこんなことを……」
混乱する私たちだったが、やがて戸上瑠美がある提案をした。
「とりあえず落ち着いて考えよう? まずはこの部屋から出てみるのはどうかな?」
確かにこのままここでじっとしていても仕方がない。私たちはひとまず扉の外に出ることに決めた。しかし、扉の向こうに広がる光景を見て愕然とすることになる。そこは先程の部屋と同じ造りになっていた。そしてやはり、部屋の中央に古びた紙が落ちていたのだ。
「またあったよ!」
奥村愛梨が駆け寄った。今度はすぐに手に取らず、彼女は注意深く観察し始めた。すると、「あれっ?」という声を上げたあと、不思議そうな顔で首を傾げた。
「なんだろ、これ?文字がいっぱい書かれているけど、見たこともない字だね」
彼女が指差した紙を見ると、確かにそこには奇妙な記号のようなものが羅列されていた。みんな口々に「なんだろこれ?」「読めないよ……」と言っていたが、ひとりだけ、松尾 萌は
「えっ、普通に読めるよ? ええっと、『貧しきものに奉仕せよ』って書いてあるよ」
といった。
「ええっ、これ読めるの?」
と私が確認しようとしたとき、読みあげた松尾 萌の姿が消えた。と、同時に、空中に画面が現れた。そこには外の世界と、松尾 萌が映っていた。
「……!?」
突然の出来事に驚く私たちの前で、画面の中の松尾 萌は
「えっ、みんな!? どこいったの?」
といっていた。こちらから呼びかけたけれど反応はない。向こうの様子はわかるけれど、向こうにこちらの様子はわからないらしい。
「もしかして、これがモニターになってるのかしら?」
戸上瑠美が呟く。私はそれに同意するようにこくりと小さくうなずいた。
「あの子に使命が与えられた、ってことなんだと思う」
「さっきの、『貧しきものに奉仕せよ』ってやつ?」
「たぶん……」(続く)
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