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#ハッピーエンド
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練習中、僕はエンドラインから少し離れたところから田西先輩のプレイを見ていた。色々と学ぶために。
「相変わらずすごいよなあ、先輩」
同じシューティングガードではあるものの、プレイスタイルは僕のそれとは全く違っていた。
目線を右へ持っていった時点で、僕だったらその逆をついて少し移動してスリーポイントを打つのだが、田西先輩の場合はその直後にシュートを放つのだ。驚く程の速さで。ディフェンスがブロックする隙も与えずに。
「あれじゃ追い付かないよなあ、ディフェンダーも」
以前も言ったことだが、田西先輩のシュートフォームは決して綺麗だとは言えない。理由がある。シュートを打つ仕草を全く見せないためだ。セットシュートと言ってもいい。
目線だけを動かしてディフェンダーの意識を逸らすのは同じだが、その刹那、スリーポイントを放つ。基本、シュートフォームに入りボールをリリースするまでには一秒くらいかかるのが平均だ。しかし、田西先輩の場合は約0.5秒。これはNBAレベルの速さだ。
「あれで推薦に落ちるとはなあ」
シュートの成功率も高いので、ディフェンダーもピッタリとくっつくようになる。が、そうなったら一度、戦法を変える。パスを出したりゴール前に切れ込んだり。
そうなれば田西先輩の思惑通りだ。相手のディフェンダーはスリーポイントシュート、ドリブルでの切り込み、パスの三つを嫌でも意識せざるを得なくなる。だからケースバイケースで、その都度、三つの内で一番有利に働くプレイを選択するのだ。相手にとっては厄介極まりないだろう。動きが全く読めないから。
田西先輩は、やっぱり僕の目標であり、尊敬するプレイヤーだ。
* * *
「うーん……」
練習の休憩中、腕を組みながら考える。プレイスタイルを変えるべきか否か。幸い、僕はまだ一年生だ。タイミングとしてはちょうどいいのかもしれない。
と、明里に相談したところ、「ダメ!!」と一喝されてしまった。
「あのさ、大輔? 田西先輩に似せようとして変えても全く意味がないと思うよ?」
「え? なんで? 上手い選手をお手本にするのは良いことだと思うけど」
「それはそうだけど。お手本にして真似をしたとしても、大輔の場合はただの劣化コピーになると思うの。身長も体つきもスピードも全く違うんだから。だから、それなら自分の長所を生かすべきだと思う、というのが明里様の見解でございます」
まあ、確かにそうかもしれないけど、長所ねえ。
「ちなみにさ。明里は僕のことをどう思ってるの?」
その言葉に、明里は頬を紅色に染め、急に体をくねくねとしだした。
「えー。やだあ、それ訊いちゃう? んとね、細身で筋肉質なところがすごく私好みで、顔もまあ割と好きだし、私の素敵な婚約者だと思ってる」
「……そうじゃなくてさ。選手としての話! 僕の長所を教えてほしいってこと!」
「なーんだ。そういう意味だったんだ。なら最初から言ってよね」
「言わなくても普通分かると思うんだけど……」
「はいはい、照れない照れない。でも、それこそ言うまでもないというか。跳躍力よ、跳躍力」
「跳躍力ねえ」
僕のプレイをずっと見てきた明里だから、それはたぶん当たっているのだろう。でも、どうもピンとこないんだ。跳躍力の活かし方が。
「あのさ、この前なんでリバウンドに参加してって言ったじゃん? その意味、もしかして分かってないの?」
「意味? 僕自身が打ったシュートだからどこにボールが跳ねるかおおよその予測がつくからでしょ?」
「全っ然違うんですけど。大輔が今言ったことはもちろんなんだけど、それって誰にでもできることかって言ったら違うからね? 大輔なら可能だと思ったから提案したの」
明里が言うにはこういうことだった。つまり、ボールがリングに当たって跳ねる方向をなんとなくでも分かったとしても、普通のシューティングガードではリバウンドは追い付かないと考えているらしい。
けど、僕の場合は高く跳ぶことができるため、相手のディフェンダーさえ抜いてしまえばボールを確保することが可能であると踏んだらしい。他のリバウンダーのさらに上へと跳んで。
「……なるほどねえ」
「後はアリウープかな? 大輔の武器になりそうなのは。今度の練習試合には大木くんがいるじゃない? 息も合うはずだよ? 中学時代からずっと一緒に試合に出てたんだから」
「確かにそうだけど……」
「もしくはダブルクラッチかな。リバウンドを確保した後でも使うことができるし」
「む、無理じゃないのそれ? あれって跳躍力も必要だけど、それ以上にフィジカル面が重要というか」
「大丈夫だと思うけどなあー。あと残るのはダン――ううん、なんでもない。気にしないでね」
なんか引っかかるなあ。明里が言いかけたのは恐らくダンクシュートのことだろうと容易に予想はつく。けど、どうしてそれを濁したんだろう?
まあ、『大輔には無理』ってことかな。
僕がうんうん唸りながら考えていると、明里は僕の眼前まで近付き、瞳の奥を見るかのようにして真剣な眼差しを向けた。
「もしくは――」
「も、もしくは……」
「私のお婿さんになることかなー。えへへっ。そしたら毎晩毎晩。ウヒヒヒヒッ」
うん。さっき感じた真剣な眼差しは撤回する。
それ、跳躍力なんか必要ないじゃん。毎晩毎晩飛び跳ねるお婿さんとか、どんな妖怪だよ。
【続く】