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枕の下に入れたスマートフォンが急に震えだし、俺はパチッと目を覚ました。
「…… ご飯、作らないと」
目の前に広がる見慣れた天井に向かいそう呟くと、ガバッと身体に掛けていた布団を剥いで、上半身を起こす。そして、ベッドから降りようと横を向いた時、教室の机に突っ伏して寝る学生の様な寝方を、俺達のベッドでしている唯が目に入り、ビックリして「——うわっ」と小さく声をあげた。
(目の前にベッドがあるのに、なんでまた?)
「…… 唯?」
顔を覗き込み、声を掛けたが反応が無い。どうやらすっかり熟睡しているみたいだ。だが、流石にここでこのまま寝かせておく訳にはいかない。薬を飲ませなくとも、唯は深く眠るタイプであるとよく知ってはいるが、だからって動かしても大丈夫だろうか?
起こしてしまうかもと思うと忍びなく、どうしたって悩んでしまう。
(起きた時。全身痛いか、こんな寝方じゃ)
そう思った俺はベッドから降り、唯の小さな身体をひょいっとお姫様抱っこになるように持ち上げた。
「…… ん…… 」
姿勢が変わった事は何となくわかるのか、唯が小さく唸る。でも、瞼は重く落ちたままで、起きるような様子は無い。
「相変わらずだな、うちの眠り姫は」
くすっ笑うと俺は、今まで自分が寝ていたベッドの上に唯の身体をそっと置いた。
「可愛いな、ホント」
ベッドに腰掛け、つい唯の寝顔に魅入ってしまう。結婚して、もうある程度経つというのにまだ俺は、唯の姿を見ていると心が落ち着かなくなる。まるで付き合いったての時か、下手をするとそれ以上に、心がふわふわと温かくなったり、ドキドキと胸が騒いだりとで大忙しな状態になってしまう。
起きていれば、何かと突っ走ってはあちこちぶつかって危なっかしく、目が離せない。
寝ていても、襲いたくなる位に魅惑的な色香を放つし。
休みとその前日は、いつも幼女を襲っているみたいな錯覚を感じながらも、唯に触れる事を止められない。
(そういえば、最近休みが取れなくてずっと触れていなかったよな…… )
そう思った瞬間、ドクンッと自分の心臓が跳ねた。
(まさか、寝息をたて、ベッドに横たわる唯の姿に…… 欲情しているのか?)
おいおい。待て、今は駄目だ!
唯には俺達の関係の記憶が無い。彼女の表情から、また一目惚れなりなんなりをしてもらえている絶対的な自信は正直あるが、自分の衝動をぶつけても、今度もまた平気である自信は流石に無い。
あの時は、『新婚直後なのに抱いてもらえない』と唯もヤキモキしていたし、情欲を抱えていてくれていたが——今は違う。記憶では、唯はまだ『大学生』だ。
「学生…… か…… 」
——ちょ、ちょっと待て、俺っ!
今、そんなシチュエーションも熱いなとか、んな事一瞬でも考えてなかったか!?
「ぅん…… 」
唯が小さく唸り、ごろんっと寝返りをうった。やましい気持ちでいっぱいだった俺は、たったそれだけの事なのに全身をビクッと震わせ、ちょっと嫌な汗が額を伝ってしまった。
「…… 布団、掛けないと風邪をひくよな」
そそくさと布団を引っ張り、唯の身体の上に掛ける。大きな布団からちらりと覗く小さな顔がすごく可愛い。ハムスターが穴からひょっこり顔を出している時みたいな、そんな感じの雰囲気だ。
(——我慢、我慢っ。全部ぶつけて、初日から嫌われたくないからな)
履いているズボンの中で、少し硬さを持ってしまっている奴の存在には目を瞑り、晩御飯の準備をする為、俺は寝室からそっと出て行った。