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王宮 王の執務室
「お呼びと伺いました」
夜更けだというのに、王はまだ休んでいなかった。
入ってきたのはサイラスだった。
「うむ」
笑ったあとに咳き込む
疲れているはずの国王の空元気は、かえって痛々しい。
「この度は、皆に苦労をかけた」
「そちと話したくてな」
王はふと、視線を落とした。
「予は……間違っていたと思うか」
沈黙が落ちる。
サイラスは、ゆっくりと首を振った。
「いいえ、まったく」
「あなたは、王としての責を果たされました」
王はわずかに目を細めた。
「そうか」
しばしの静寂ののち、王は窓の外へ目をやった。
「退位後は、湖畔の別荘で暮らしたいと思う」
「それがよろしいかと。私もお供いたします」
「いや」
王は静かに笑った。
「そなたは、まだ一働きせねばならぬのではないか」
「……そうでした」
「後から参ります」
「すべてが終わったら」
王は窓の外を見たまま言う。
「向こうでチェスでもしよう」
「はい」
「だが、そちは強いからな」
少しだけ、声が柔らいだ。
「三回に一回は、王に負ける法律でも作ろうかの」
サイラスは、ほんのわずかに笑った。
「承知いたしました」
痩せたアダムは、それでもまっすぐにサイラスを見ていた。
「俺は間違っていない」
「国民国家の理想は間違っていない」
「他の馬鹿どもはわからなくとも——
あなたにはわかるはずだ」
静かに、サイラスは答える。
サイラスは、わずかに首を傾けた。
「……理解はできます」
「理想としては」
間。
「ですが、あなたは順番を間違えた」
アダムの眉がわずかに動く。
「この世界はまだ——」
「皆に分け与えられるほど、豊かではない」
「足りないものを“平等にする”には、
必ずどこかで“奪う”しかない」
「そしてあなたは、それを“正義”にした」
沈黙。
アダムは食い下がる。
「……人類はいずれそこに到達する」
「生産は上がる、意識も変わる」
「その時、俺のやったことは正しかったと——」
サイラスは遮らない。
最後まで聞く。
そして、静かに言う。
「ええ。おそらく、そうでしょう」
「百年か、二百年か」
「その頃には、あなたの理想に近い世界もあるかもしれない」
一歩、牢に近づく。
「ですが——」
「それを待つ間に、国は何度滅びるのでしょうね」
アダムの視線が揺れる。
それでも、強がる。
「こ、国民皆兵は……未熟だが」
「練度が上がれば——」
「あなたにも勝てる軍隊になる」
サイラスは、わずかに笑った。
「でしょうね」
「ですが」
「敵は、それを待ってくれません」
沈黙。
長い、沈黙。
やがてサイラスは踵を返す。
「……話しても無駄でした」
扉へ向かいながら、最後に言う。
「あなたは三流の政治家だ」
足を止めずに続ける。
「理想は一流でしたが」
「現実を扱うには——」
「人間を知らなさすぎた」
扉が開く。
「私には、あなたのやった後始末がありますので」
「これで失礼いたします」
扉が閉まる。
蝶舞(かれん)@常にスランプ
#女主人公
46
その音だけが、やけに大きく響いた。
アダムは、しばらく動かなかった。
やがて、かすれた声で呟く。
「……順番、か」
だが、その目はまだ折れていなかった。
サイリスが去った後の牢屋の一室
サイラスが去った後の牢。
足音がひとつ、近づいてくる。
杖をついた男だった。
「わしはこの国のために帝国兵と戦い右足を失った
わしの娘はまだ15歳だった
お前らの仲間が徴発をたてに家に押し入り
止めに入った婿を顔の形が変わるまで 殴り続けた
儂が知らせを受け畑から急いでもどった時、
家の中には何もなく
無残な2つの骸しか残されておらなんだ」
棍棒を握る手に力が入る。
「これは裁判所がお前に出した
死刑宣告の命令書だそうだ」
つまらなそうにそれを投げ捨てた
アダムの顔は恐怖にひきつっていた
「革命万歳」
翌日、アダムは顎が砕かれた死体で発見された
ある男が自首したが、
死刑命令が出されているため 放免となった
王都は安堵と歓声に包まれた
ヨシュア王は王座に戻った。
だが——
国家再建の道は、始まったばかりだった。
グラツィア王国には、
あまりにも多くの問題が残されていた。
(ロドリゲスを呼んで、全部押し付けてしまうか……)
サイラスはそんなことも思ったりしたが、
この地味で、終わる気配のない作業に取り組んでいた。
帳簿、嘆願書、処分待ちの報告書。
机の上には紙の山が積み上がっている。
ふと、紙の山の中に一通の封筒が混じっているのに気づいた。
見慣れない紋章。
「……ガルド王から?」
一瞬、手が止まる。
そして、静かに封を切った。
「金がほしけりゃ来い」
翌日、留守をエスカミオたちに頼むと
ユイナを伴ってエスカリオ商王国に出発した
「はじめまして、というべきかな」
「その節は、感謝しております」
「よせやい。こちとら負けた身だ」
カルドは肩をすくめ、笑った。
「で、どうなんだ。アダムってやつは強かったのかい?」
「いえ……彼というよりは、得体の知れない“何か”と戦っていたような感覚でした」
「ほう……」
一瞬だけ、カルドの目が細くなる。
「それはそうと――おまえさん、以前、俺をペテンにかけようとしただろ」
「……ばれていましたか」
「破り捨ててもよかったがな。記念に取ってある」
「それは……申し訳ありません」
「で、いくらいる?」
「10億ほど……」
「10億? そんなもんで足りるのか」
「えっ」
「持ってけよ。今のおまえさんに必要なのは遠慮じゃねえだろ」
「……えっ」
「十億ディナール、持ってけ」
「い、いや、その……」
「いらねえのかよ」
「いります!」
即答だった。
カルドは愉快そうに笑う。
「戦争は破壊だが、復興は金だからな」
「ありがたく、頂戴いたします」
「担保といっちゃあなんだが――俺と海の向こうに行ってみないか」
「いえ、私は……」
「冗談だ」
軽く手を振る。
サイラスは小さく息を吐いた。
「それにしても、手紙をいただいて……ここに来る決心をしてよかったです」
「……手紙?」
カルドが眉をひそめる。
「俺は出しちゃいねえぞ」
「――えっ」
その瞬間、扉が勢いよく開いた。
「申し上げます! 王都グランツアにてクーデター発生! 議会が軍に包囲されました!」
「どうやら内部に手引きした者がおる模様」
「王都は国民軍一万二千に囲まれており、戦闘が始まっておる模様」
「……やられた……」
サイラスが低く呟く。
「首謀者は、カイル・ゼイオン。アダムの弟を名乗っております」
――カイル。
脳裏に、ひとつの光景がよぎる。
いた。確かに。
アダムの時は気づかなかった
昔、ゼイオンの傍らにただ静かに立っていた少年の姿を。
あの時は、気にも留めなかった。
だが――
あれは、“野心の塊のような”少年だった
すでに王都では鐘が鳴り響き、
兵が街路を封鎖していた
「……間に合う…のか」
はるか王都の方角を見ながら
サイラスはつぶやいた
「親分――いや、国王陛下」
「今度はなんだ!」
「王国に先行させていた、ククルースの兄貴の傭兵団が……」
報告役は一瞬、サイラスに視線を送る。
「……構わん、言え!」
「はっ。国民軍に包囲され――降伏しました」
「ほとんど戦闘はなかったとの報告です」
「……何だと?」
空気が凍る。
「相手は誰だ!」
「ロムス、とかいう野郎で」
「ロムス……?」
カルドは眉をひそめ、サイラスへ視線を投げた。
「知ってるか?」
サイラスは、ゆっくりと首を横に振る。
「ククルースはな、少々頭は回らんが……」
カルドの声が低くなる。
「百戦錬磨の傭兵だ。国民軍ごときに後れを取るタマじゃねえ」
わずかな間。
「それが“負けた”ならまだ分かる」
さらに一段、声が沈む。
「だが――降伏だと?」
拳が、ぎしりと鳴る。
「お前んとこの、おもちゃの兵隊にか?」
誰に向けたものでもない言葉が、重く落ちた。
煙と土埃に包まれた戦場で、男たちは足を止めていた。
「親分……わしら、このまま死ぬんですかい?」
掠れた声だった。
ククルースは歯を食いしばる。
周囲では怒号と悲鳴が入り混じり、隊列はすでに形を失っていた。
「待て」
低く言う。
「今、抜ける道を考えてる」
だが――
前も後ろも、敵だった。
「だめだ……」
若い傭兵がその場に崩れ落ちる。
「進むことも、引くこともできねえ……」
包囲は、すでに完成していた。
「いやだ……」
別の男が震える声を漏らす。
「こんなとこで死ぬのはいやだ……」
「親分、助けてくださいよ……」
ククルースは何も言えなかった。
彼は百戦錬磨の傭兵だった。
戦い方も、逃げ方も知っている。
――だが、この戦場は違った。
「……降伏しよう」
誰かが言った。
「おかしらも……わかってくれるはずだ」
沈黙が落ちる。
ククルースは、ゆっくりと目を閉じた。
「……使者を出せ」
その一言で、すべてが決まった。
「ロムス司令官」
伝令が駆け込む。
「エスカリオ傭兵隊長ククルースより、降伏の使者が来ています」
ロムスは、地図から目を上げた。
「……いろいろ遅いな」
「向こうからしたら知らないうちに包囲されてるって
かんじなんだろうな」
淡々と言う。
「もう終わっている」
一瞬の間。
「カイル軍団長に伝えろ」
「ウイム方面、掃討完了だ」
サイラスが王都を離れる
2週間前、
宰相ラディスの反対を押し切り、
皇帝セヴィウス・ヴァンガルドは自ら出陣した。
「国民軍など、恐るるに足らず」
そう断じての決断だった。
ラディスは最後まで言葉を尽くした。
「陛下、敵は侮るべきではありませぬ」
だが、皇帝は耳を貸さなかった。
「いまこそ、予自ら出陣し先の戦いの雪辱を果たすのだ」
静かに言い切る。
「雑兵の群れに過ぎぬなら、なおさらだ」
「帝国の威を、一度示せばよい」
その言葉に、誰も逆らえなかった。
帝国軍二万は北の大地に侵攻した。
整然とした隊列、磨き抜かれた武具――
それはまさしく帝国そのものだった。
対するは、寄せ集めの国民軍。
統制も緩く、装備もまばら。
誰の目にも、勝敗は明らかに見えた。
――だが。
両軍はアウステリーツという高地で激突した
その中央に立つ一人の男だけが、違っていた。
カイルは高地を背に、戦場を見下ろしていた。
夜明け前の平原は、深い霧に沈んでいる。
その向こう、帝国軍の進軍が静かにうねっていた。
「来たか」
その声に、焦りはない。
副官エルンが問う。
「殿下、迎え撃ちますか」
カイルはわずかに首を振った。
「いや」
「迎えるのではない」
霧の中、ゆっくりと陣形が動く。
右翼――ゼルド軍団が、わずかに後退した。
「ゼルド、うまいねえ」
カイルは小さく笑う。
「役者になれるよ」
やがて帝国軍が姿を現す。
その威容は圧倒的だった。
だが、カイル軍の陣は脆く見えた。
特に右翼は薄く、押せば崩れそうに見える。
皇帝は馬上から戦場を見渡し、低く言った。
「見たか。あれが限界だ」
グラントが応じる。
「敵は我らを恐れております」
「右翼を砕けば、全軍は潰走いたしましょう」
皇帝はわずかに目を細めた。
「予も兵法を知らぬわけではない」
「あれは、逃げ場を失った軍の陣だ」
「右翼を打ち、巻き込み、本隊を崩す」
剣が高く掲げられる。
「――踏み潰せ」
号令とともに、帝国軍主力がゼルド軍団へ雪崩れ込む。
霧の向こうで鉄と怒号がぶつかり合い、大地が震えた。
ゼルド軍団は、じりじりと後退する。
それは誰の目にも、崩壊の前触れに見えた。
「カイル司令官、右翼が下がっています!」
エルンが叫ぶ。
だがカイルは動かない。
「よい」
「しかし――」
「敵は、そこに勝ちがあると思っている」
静かな声だった。
「ならば、最後まで信じさせてやれ」
そのときだった。
東の空から差し込んだ陽光が、霧を裂いた。
白い幕が上がるように、戦場の全貌が現れる。
そしてその中央――
帝国軍は右翼に軍を寄りすぎ
自ら薄くした、高地への道が姿を現した。
カイルの目が細まる。
「全軍、中央へ」
「今この瞬間より、戦は終わる」
伝令が駆ける。
待機していた精鋭が、一斉に動いた。
濁流のような突撃だった。
槍兵が道をこじ開け、重装歩兵が押し広げ、騎兵が貫く。
帝国軍中央は対応が遅れた。
主力はすでに右翼に傾いている。
高地を守る兵は足りない。
気づいたときには、もう遅かった。
「中央が破られました!」
「ありえん!」
「伝令が届きません!」
「本陣が分断されています!」
皇帝の顔色が変わる。
右翼で勝っていたはずの兵もまた、異変に気づいた。
押していた敵が、崩れていない。
それどころか――誘い込まれていたのだと悟る。
高地にはすでに、共和国軍旗が翻っていた。
朝日を背に、その旗を見上げた瞬間、
兵たちの胸に、はじめて敗北が落ちた。
カイルは馬を進める。
眼下では、帝国軍が真っ二つに裂け、崩れ始めていた。
「敵は強い」
彼は淡々と言う。
「だからこそ、自ら崩れる形へ導く」
剣を、まっすぐ前へ向けた。
「追え」
一拍おいて、ふっと笑う。
「勝つことに意味はないよ」
「ただ、負けない形を作るだけだ」
「――この戦、歴史がどう書くかは知らないが」
朝日を受けながら、前を見据える。
「少なくとも、退屈ではなかったな」
帝国軍兵士が帰国してその本土に土を踏めたのは
半数にも満たなかった
怪物の残した制度は
戦いの中で恐るべき化け物の軍団を作り上げていた
やがてこの化け物の軍団は
大陸全土を業火の渦に巻き込んでいく