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#溺愛
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皆さんこんにちは。芽花林檎です。
さて、続きに参りましょう。コメント等大歓迎しています!!
鐘が鳴る。
それが校舎中に響いた。
午後の授業、暖樹(はるき)はうとうとしていた。
暖房が効いているからだろうか。
窓から差し込む冬の日差しは柔らかい。
ノートの上に長い影を落としている。
「えー、現在、本国の貧困率は、10年連続、減少傾向にあります」
教師の声が教室中に響いた。
前方のスクリーンに映し出された統計資料。
色分けされたグラフ。
右肩下がりの数字。
誰もが幸福に暮らせる社会。
それがこの国の誇りだった。
「政府の福祉政策や雇用支援制度が成果を上げている結果ですね」
教師はそう言いながらグラフを指す。
良いことなのだろう。
暖樹はそう思った。
誰もが、幸福に暮らせる社会。
そう思うと、暖樹は心が温かくなった。
窓の外では、雲一つない瑠璃色の青空が広がっている。
そして、授業終了の鐘が鳴る。
一日が終わった。
帰り支度をしながら、暖樹は思い出す。
「あ、そういえば買い物頼まれてたんだ」
「え、そうなの。マジかよ~今日一緒に帰れないのか~」友人が言う。
「ごめんね~、また明日!!」
「おう、また明日な、暖樹!」
暖樹は友人に手を振って、教室を出た。
校門をくぐり抜ける。
冬の空気は朝よりもさらに冷たくなっていた。
息が白い。
手が凍てつくように冷たい。
見上げると、西の空が少しずつ色を変え始めている。
瑠璃色だった空に橙色がにじみ始めていた。
雲一つない空が、鮮やかなグラデーションを織りなしている。
陽が沈むのが早い。
暖樹はマフラーに顔をうずめ、市場へ向かった。
市場についたころには、空はすっかり夕暮れの色に染まっていた。
西の空では、沈みゆく太陽が最後の光を惜しむように街並みを柔く照らしている。
燃えるような橙色。
その上には淡い桃色が広がっていた。
さらにその上には、深い群青が静かに夜を連れてきていた。
綺麗だ。
本当に。
暖樹は思わず足を緩める。
まるで空そのものが一枚の絵画のようだった。
冬の空気は澄んでいる。
色は、どこまでも鮮やかで、頬を刺す冷たい風でさえ美しく感じられた。
綺麗だ。
ただ、本当に、綺麗だ。
それだけを思った。
市場にはすでに明かりが灯り始めていた。
店先から吊るされたランタンが、ひとつ、また一つと橙色の光をともしていく。
夕闇の中に浮かぶその光は、まるで静かに煌めく無数の宝石のようだった。
風が吹く。
光りが小さく揺れている。
そのたびに石畳の上へ柔らかい影が落ちていく。
人の声が聞こえる。
魚屋の呼び込み。
八百屋の威勢の良い声。
焼き菓子を売る店からの芳しくて甘い香り。
雑貨屋にある硝子の装飾品。
屋台から香る焦げたソースの匂い。
あたたかなスープから立ち上る白い湯気。
居酒屋から聞こえる賑やかな声。
市場全体が明かりで満ちていた。
親子連れが手を繋いで歩いていく。
幼い女の子が何かをねだり、母親が困ったように笑う。
仕事帰りらしい男性が土産の包みを選んでいる。
恋人同士らしい二人が肩を寄せ合って歩いている。
八百屋の店主が、男性と世間話をして笑っている。
どこを見ても、人と人の営みがあった。
笑顔があった。
誰かを思う時間があった。
幸福と幸福が織りなす景色が、
希望と光が織りなす景色が、
言葉で表せないほどに、ただ、
綺麗だった。
暖樹はその中をゆっくりと歩いていく。
この光景は特別ではない。
昨日もあった。
きっと、明日もある。
きっと。そう、きっと。
だから彼は気づかない。
そのきっと、を思えない人がいることに。
空を見上げる。
群青と橙色が溶け合う境界は、まるで昼と夜の狭間のようだった。
ランタンの淡い光が混ざり合う。
美しい。
暖樹は思う。
ただ、それだけだった。
ただ、そう思っていた。
ただ、冬の寒さに身を纏って、そう思っていた。
その空を、
人生でたった一度しか見たことのない少女がいることを、
彼はまだ知らなかった。
今回もお読みいただきありがとうございました。
また次回でお会いしましょう。
コメント等大歓迎中です!!!よろしくお願いします!!!
2026/07/29 芽花林檎
コメント
2件
ありがとうございます。
芽花林檎さん、こんにちは🌷 第2話、読ませていただきました。 夕暮れの市場の描写がとにかく美しくて、読んでいるこちらまでその場の空気や灯りを感じるようでした。暖樹くんの「綺麗だ」という純粋な感動が、とても温かくて…でも最後の一文で、その幸福の裏側にいる誰かの存在を仄めかす終わり方、心にじんわりと刺さりました。まだ2話目なのに、すでにこの世界の空気に溶け込んでいる感じがします。続きがとても気になります!