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第14話:挑戦状
放課後の体育館裏。
春瀬拓真は、部活帰りの生徒たちのざわめきの中で立ち止まった。
そこに現れたのは、短く刈り込んだ黒髪に銀縁のゴーグルをかけた男子生徒——槇村零司。
ジャージの袖から覗く腕は細身だが、全身に漂う緊張感は鋭い刃のようだった。
「お前が“赤波高校生”か」
零司の声は低く、淡々としている。
彼の周囲には橙がかった香波が、炎の呼気のように揺らめいていた。
「話が早い。俺と一戦やろう。香波制御、見せてもらう」
その言葉に、傍らの庭井蓮が一歩前へ出る。
コートの裾がひるがえり、無香域が一瞬広がりかける。
だが拓真は蓮の腕を軽く押さえた。
「いい。俺がやる」
香波社会では、非公式の“実力試し”は珍しくない。特に高校生同士の間では、力を見せることで地位や信頼を得ることもある。だが、それは同時に失敗すれば評価が地に落ちる危険な場でもあった。
体育館裏の狭い空間で、二人の波がぶつかる。
零司は橙波を緻密に圧縮し、まるで槍のように突き出してくる。
拓真は深呼吸し、緑→黄→赤へと色を変化させる。
昨日よりもスムーズに移行し、赤波の拍動を安定させたまま前へ踏み込む。
「——っ!」
零司の槍波が赤波の壁に弾かれ、香りが一瞬で焦げから甘い柑橘系に変わった。
拓真は一気に距離を詰め、零司の肩すれすれに赤波を放ち、壁に叩きつける形で動きを止めた。
数秒の静寂の後、零司が苦笑する。
「……なるほど、ニュースは伊達じゃなかったわけだ」
周囲で見ていた生徒たちのざわめきが、拍手と歓声に変わる。
蓮が横で小さく笑った。
「お前、もう“守られる側”じゃないな」
拓真は息を整えながら、胸の奥で確信した。
——これからは、挑まれる立場になる。