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#恋愛
ばたっちゅ
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#BL
NGS_ヘビーなしっぽ
204
[3915年1月17日9時22分/3号]
「ふぁ〜、眠いよ〜…。」
この廃墟の学校、という場所を二時間ほど調査していた。けれど、88号は眠たそうにしていた。僕は、初めての処刑任務にタイミングを測れずにいた。
相手と仲良くして反撃を喰らわないようにしないとだ。…本当はこんなことやりたくなんかない。
廃墟内を探索しているとよく見かけるのは、白骨死体。その度に88号はビビって僕に抱きついてきてめんどくさい。
「ねね、3号は学校に行ったことある?」
「ない。」
「だよね。僕もない。…3号はなんで、ここにいるの?…どうして、こんな兵器なんかに?」
「……知る必要はない。」
お節介なのか、余計な詮索が趣味なのかよく僕に食いついてくる。僕は初めて会ったから、すごく緊張していた。それに気づいての事なのだろうか。
僕には知る由もないことだった。彼の考えてる事は、僕じゃよくわからない。いつもヒョーヒョーとしている。それに、19才とは思えないくらい童顔で、本当に殺していいのか分からなくなる。
3号は廃墟の辺りを見渡す。そこに残っていたのは生活の痕跡。この景色に残されていたのは、ただ投げ捨てられたように落ちたノートや教科書。
水に濡れてもう見ることすら出来ない。これを見ると、異星人にも教育の文化というものがあるんだと感じた。
「こうやって学ぶことができるのは、ひょっとしたらすごいんじゃないかな。僕もいつか、こんな普通が…できるのかな…。」
「わからない。…こんな普通に、なりたい?」
「うん。」
資料だともっと元気な子だって話だったけど。全然元気じゃない。危険任務に行って唯一の生還者だって言ってた。そのせいで、任務から逃げた臆病者、なんてレッテルを貼られていた。
それでも、後方支援を今までやってきたみたいだけれど、本当に19歳か疑いたいぐらい幼い。14才の間違いかと思った。
「…ほんとに19?」
「ひっど!!…3号の方がちっちゃいし。」
「え、でも身長的にもほぼ同じでは…?」
「それはそうだけど!!こう見えて長生きしてるし、…危険任務の生還者…だよ。」
声が少し暗くなる。だが、88号は僕に笑いかけた。どんなに辛くても笑っていることが、この子にとって一番いいんだろう。
88号は何故か教室の席に座った。まるで、ここの生徒のように。こんなことに何の意味があるのだろうか。なんて考えた。だが、僕も何故か席に座った。
机から見える黒板。木造の建物や椅子のせいで軋む音も、新鮮に感じた。埃っぽい机の上。けれど、居心地が悪くてすぐ立ち上がってしまった。
ほかの机を見ると、一つだけ落書きされている机があった。その机を覗くが、何が書かれているかはさっぱりわからない。
「3号、これよく分かる?」
「わかんない。」
「いじめだよ。こうやって、自分より弱い人を好き放題叩く。学校内の差別みたいなものだよ。」
「結局は、人間も異星人も同じようなものだな…。」
むしろ、違う点を見つける方が難しい。僕にとって、同じ存在で、ただ人間を迫害しているようにしか見えない。
これから、人間のようなバケモノを殺すようになる。平和に解決できたら、どれほど楽なことか。いっそ、この世界からエーテルが無くなれば簡単に解決する話だと言うのに。
88号は教室の窓から外を覗く。破れたカーテンが窓からきた風で揺られている。僕もまた、窓から入ってきた風に当たっていた。
「あの危険任務でさ、僕は友だちに、”生きて帰って平和に暮らせ”そう言われたんだよ。…だから、さっさと退役して、そんで普通の生活するんだ。」
「退役だなんて…、普通の生活だなんて…、許されるのか…?」
「あはは…、なにそれ。20もすれば僕は兵器じゃ無くなっちゃうんだ。そうすれば、人間としての扱いを求められる。3号も、いつか平和に暮らせるよ。」
「……それは、…できないよ…。」
88号はどうしてと聞き返すが僕は何も言わなかった。言ってしまえば正体がバレてしまうから。これ以上僕のことを知られれば情が移ってしまうから。
僕は距離を取っているのに88号は容赦なくズカズカと踏み込んでくる。知れば知るほど、自分の剣は鈍くなる。身体が鈍くなる。
離れようとした時、急に後ろから抱きつかれて驚いて足を止めた。
「3号は今日あんまり動いてないね!あ、でもちょっと走ったでしょ。でも、あんまり汗かかないタイプだよね。難しかった。」
「え…、急に何…。」
「人の匂い嗅いで何してるか当てるゲーム。」
その狂ったゲームを聞き内容が大体想像的でしまう。言い返す言葉もなかった。むしろ、ウケ狙いなのではとは思ったけど、正解率何気に高い…。
確かにあんま動いてはないけど、ちょっと走った。あんまり汗はかかないのも確かだけど。ていうか、ちゃっかりにおい嗅がれてたのかよ。
関わる度に思う。この人の変人っぷりが出てて恐ろしい。88号が放れると早足で88号から逃げるようにほかの教室へと行く。
次の教室は薬品が沢山置いてあったり、なんかよくわからない器具やら、人間の臓器が詰まった模型みたいなやつ、それから骨があった。
88号はついてきたけれど、人間の臓器が詰まった模型や、人骨を見て驚いて大声を出して驚いていた。むしろその声にびっくりした。
「学校怖い!!人骨飾ってるのなんで?!なにこれ!!ヤバいよ3号!!!」
「ちょっ…、触んな暑苦しい。」
「さんごぉぉぉぉぉぉ!!!僕ここで死ぬかもしれない…、うぅぅぅぅぅぅっ…。」
「…これ、レプリカじゃないの?」
え?という88号の声が教室内に響いた。今の88号は年上としての威厳、もクソもなかったと気づき、88号は取り繕うように咳払いをした。
「い、いや…。知ってたし…。」
「ほんとに言ってる?」
「あっ!ここすごい薬品あるよ?!」
露骨に話逸らしやがった。仕方ないからあんまり触れんでやろう。くっそビビりな先輩連れて薬品の場所行くの怖いけど。
薬品の並べてある棚。どんな薬品があるか分からないから少し怖いところではある。どんな劇薬があるかわからない。
「3号は薬とか飲む?」
「飲まないけど。」
「世の中には、薬がないといけない人とか、薬に依存してる人がごまんといるんだってさ。」
88号は棚にある薬品を見ながらそういった。薬がないといけない人はまぁわかる。そうじゃないと生きていけないなら、仕方ないことだと思う。
けれど、薬に依存はよくわからない。なぜ依存するのだろうか。理解ができない。
「薬に頼る人生なんて、僕は絶対嫌だな…。」
「でも、必要は薬はあるよ。」
「…注射じゃないならまだ…いいや。」
「え?3号って注射苦手なの?意外だな〜。」
「…苦手。…注射される時、いつも苦しいの、体に入れられるから。」
88号のえ?という疑問の声。どういうことなのかと困惑している様子だった。僕は、何も言わずに笑った。気にしなくていい、そう伝えるつもりだった。
けれど、彼の目には違う形で映っていたのだろう。88号は安心した顔なんて浮かべず、ただ不安そうにして唇を噛むだけだった。
どうして、君が悔しそうな顔をするのか。意味がわからなかった。僕には君が、よく分からなかった。やがて88号は僕の手を掴み、分かりやすいほどの作り笑いを向けた。
「…苦しかったね…。…何かあったら、言ってね。頼りないかもだけど、僕が3号を…、守れるように。」
「そんなの無理だよ…。」
「無理じゃないよ。そうやって、無理だって決めつけて、最初から諦めたら、色んなものがだんだん、掴めなくなって、最後には……何も残らない…。。」
掴むものなんて最初からないというのに、諦めるななんて残酷だ。何を掴むのだろう。僕は、廊下に出て他の教室を見渡した。
殺さタイミングが掴めなくなっていた。僕たちが作られた理由は、異星人を根絶するため。それだと言うのに、人間を殺せという命令は矛盾している。
まるで、僕たちを道具としか思っていないようだった。もはや、任務よりも人間に対する、ファーストに対す殺意の方が超えていた。
けれど、殺す前に、この人のことについて、ちゃんと知ってから、この人を忘れない為にも、まだ、殺したくない。
僕は、確かに殺す任務を与えられた。でも、知らないまま殺して、逃げるなんて無責任なことは、したくない。目を逸らしたくなんてなかった。
88号は、空き教室に行った僕を追いかけに来た。走ってわざわざ僕の方へ飛びかかり抱きついてきた。距離が近すぎて、手で軽く押して離れる。
「僕、家族がいるんだ。…従妹でさ、いつも笑ってて、優しくて、この耳飾り。お揃いなんだ〜」
また、その笑顔。どこかで見た事のある見覚えのある顔。どんな時でも、そうやって笑っていたのだろうか。どんな時でも、そうやって笑うしか、選択肢はなさったのだろうか。
考えれば考えるほど、88号は眩しく思える。反面、どこか暗くも思ってしまう。
「その家族…今は……?」
「異星人……、なんて…あの人たちのせいにしちゃいけないよね…。…僕たちの家族は、…同じ人間に殺された。…兵器を、得るために。…それで、僕の従妹は…心臓を撃ち抜かれた。」
いちばん大切にしていた人を目の前で殺されているという真実。同族にやられたという信じ難い話に、3号は首を傾げる。
そんなことするはずない、そう心に言い聞かせていた。いくら機関の人間でも、身分までは奪ったりしない、なんて決めつけていたのかもしれない。
確証がないのに、その言葉は何故か信用ができた。そう、納得してしまうほど僕は機関の人間を信用していなかったのだ。
「3号って、不器用だけど優しいよね〜。」
「えっ…なんで…。」
「だって、僕の話を今こうして聞いてくれてる。」
「……それは、優しいなんかじゃない。」
「そんなことないよ。…覚えといて。…3号は、下手に慰めなりしない。それは、辛いを知っての優しさだよ。…だから、3号なりの優しさを大事にして。」
そんなものあるのだろうか。僕に、優しいと言われる権利などないのに。そんなことは、初めて言われた。僕には、彼が理解できない。
割れた窓から吹く風がどうにも冷たく感じた。けれど、雲の隙間から漏れた光が暖かくて、居心地が良かった。
何に使うのかもわからない黒板。どういう人達が座っていたのかもわからない席が並べてある。黒板の近くに散らばっている、色んな色の小さな棒。
ここには、本来僕たちが味わっていたであろう日常が詰まっていた。外から見える景色は壊れた町、少し曇った空、向こうに見える大きな山だった。
「僕は、この日常が欲しいよ。もちろん、3号や友だちとだって味わいたい。どれだけ時間がかかろうと、退役するまで待ってるから、3号も生き残って。」
「…そんなの無────」
「無理は禁止。…絶対生き残って、幸せになるの。…それが、お父さんやお母さんが僕たちにくれた命の、使い方じゃないかな。」
けれど、3号はその言葉に返せなかった。好きで生まれた訳じゃない。生まれて来なければ楽だ、なんて思っていた自分からすれば、命を貰うなんてよく分からなかった。
僕は、意図して生まれた子ではない。誤りで生まれた子だ。望まれない子だ。自分の父でさえ、わからない。そんな奴が、生まれていいわけが無い。
「親に愛されてて羨ましいな…。」
「…3…号…?」
口から出た言葉に僕は疑問を抱いた。親に愛されてて羨ましい。そう確かに言った。なぜ、その言葉が口に出たのか、わからない。
「3号は、愛されたいの?」
「わかんない…。けど…、望まれない子なんだ。」
「…なら、…3号はとっくの昔に死んでたと思う。」
確かに、さっさと下ろせばよかった。生まれた時点で殺せばよかった。戸籍にもない子どもなんて、殺したところで構わないのに。
「僕は3号がいてくれて嬉しいよ。なんて、なんか直接言うと恥ずかしいね…あははっ…。」
照れくさそうに笑う88号の顔をじっと見ることができなかった。僕は、こんなに優しい子を殺す。なのに、僕はその優しさに絆されていた。
あまりの無防備さに、どう殺せばいいのかわからない。僕には、こんな純粋な存在、綺麗な存在を殺すだなんて選択できない。
けど、僕は任務をやるしかない。僕は道具だから。道具は道具らしく無感情に仕事を全うしなければならない。
「…バカなことを言うな恥ずかしい。」
「あ!3号照れたってこと?!」
「うるさ!!てかサボったないで調査に集中!!!」
「3号だってサボってるー!!!」
「サボってない!!!話しかけてくるのが悪い!!」
「いやいや共犯だから!!!」
[3918年1月17日17時38分/3号]
大きく広い空間までやってきた。学校でしばらくさまよっていたが、かなり広い空間だった。ここで運動をしていたのだろう。
けれど、そろそろ僕はこの子を、殺さなきゃいけない。そう思い、剣を抜いて彼の体に振り下ろした。脳天かち割るつもりだった。
意識がなければ責められることもない。苦しることもない。けれど、振り向いた途端、刃の軌道がズレ、88号の肩に思いっきり刺さった。
急いで離れた。けれど、88号は驚いた顔をしていた。驚いたと同時に、心底失望しただろう。痛かっだろう。裏切られて悲しかっただろう。
「なんで…どうして………。」
「…機関は君を最初っから、逃がすつもりはなかった。退役後、君は解放される。けれど、機関への情報漏洩を防ぐため、君は死ななきゃいけない。」
そう言うと、88号は泣き始めた。口元を抑え、今にも吐きそうなくらいだ。未来ない現実に絶望したんだ。頭を抱えて声を出しながら何度も悶えている。
君は、馬鹿だ。機関の言うことを簡単に真に受けるから…。最初から、”諦め”があればこんなに絶望することなんてなかったんだ。 本当に…馬鹿だ……。
僕は、せめて苦しまずに死んで欲しいと思い、その鈍い腕を振り上げ、振り下ろそうとした瞬間、銃弾が頬を横切った。88号が一発、撃ったのだ。
何のためにかは、わからない。ただ、血が垂れていると感じていただけだった。剣を振り下ろす前に、左頬をビンタされた。
「…君じゃなかったら…、ちゃんと……撃ててた…のに……。どうして!!どうして僕の話を黙って聞いていた…!!殺せばよかったのに!!!」
「…それは…っ!!!でき…なかっ…た…。…僕が、…単なる…僕の…個人的理由で…やれなかった…。」
「ふざけんな…!!」
額を殴られた。この真実は、88号にとって過剰なスレトスへ繋がってしまったのだろう。錯乱状態の相手は簡単に殺せる。
同じところを何度も殴られる。頬を引っ掻かれる。僕は手を掴んで抵抗したけれど、がむしゃらに何度も何度と僕を叩いて殴って引っ掻いて。
「…殺す前に!!…知っておきたかった…、君のこと…、……覚えていたかった……。」
「ふざけんな…!!…ざっ…けんな…。…僕みたいな臆病者なんか!!ほっとけば良かったんだ!!!そんなの忘れておけばよかったんだ…!!!」
「…殺す相手に向き合わずに…、逃げるなんてこと、したくなかった…!!」
僕が、間違っていたのか。最初から知るべきではなかった。最初から、向き合うべきではなかった。最初っから、話すべきではなかった。そう言いたいのか。最期の最後まで、雑に扱えというのか。
せめて、最期くらいは、ちゃんと覚えておきたかった。88号から目を逸らして逃げるようなことは、したくなかった。
それが、どれだけ相手を傷つけていたのだろう。僕は、そんなことも考えずに踏み込んだ。最期にまた、辛い思いをさせてしまった。
そう思い、僕は掴み合いのせいで落とした剣を拾い、88号に向けた。
「死にたくないなら、僕をその銃で撃てばよかっただろ!!!こんなどうしようもない僕を…、撃って…、殺せばいいだろ…!!!」
88号は何も言わなかった。何も言えなかったのだろう。自身が躊躇っていたことくらい、自覚していたからだろう。
3号は唇を噛んで、泣くのを堪えた。とにかく剣を88号に振り、頭を蠢く呪いのような言葉たちを取り払うように何度も切りかかる。
その度に88号は避けていたけれど、88号の体力も僕の体力もすぐに尽きてしまった。僕は、動きの鈍い88号の胸にゆっくり刃先を向けた。
88号はその刃先を掴み耐えていた。けれど、僕は少しずつ力が抜けていった。もうやめよう、そう思った時、88号が刃を自分の方に引き寄せた。いいや、自ら自分の心臓部に引いたのだ。
その刃は88号の心臓を一突きにした。刺されたような生々しい音と、剣から伝ってくるどうしようもない気持ちの悪い感触。
その生々しさから、思わず手を離す。壁にもたれ掛かり座る88号。僕も自然と体から力が抜け、倒れるように地面に座った。
「どう…して…?…そんなの、…自分から死にに行ったような…ものじゃないか…。」
「…そうだね…。でも、…ここは傲慢な後輩に、自分の人生含めて譲ってやらないと…てさ…。」
「…そんなんじゃ…ないよ…。僕を…殺せば…君は…助かったじゃ…ないか…。」
「…君の方が強いから…。」
また、その笑顔だ。どんな時でも、笑顔だった。その笑顔がどうしようもなく胸にきた。もっと、生きたかったはずなのに、僕に譲った…と…。
なぜなか、おかしくて、涙なんて流していいはずないのに、本音が心から溢れてくる度に、涙まで溢れて止まらなかった。
たった半日くらいしか一緒にいなかった相手。それなのに、僕の中では大きな傷になっていた。大きな、存在になっていたんだ。
「最後に…頼まれて欲しいんだ…。」
そう言い、僕の手を掴み何かを渡してきた。手を広げ、渡されたものを見てみると88号が耳につけていた、クロノルビーの宝石だった。
「僕の妹を、…笑わせて…欲しい…の…。…あの子、きっと…、辛い思い…してる…。だから…、…笑っていて欲しい…。」
「待って…、でも君の妹は死んで……」
「…僕という存在が、君の呪いにならないことを祈る…。」
[NRU-088 死亡]
身体がだらりと脱力していた。力など何一つ残っていない。彼は、最期まで僕に微笑んで死んでいった。僕に、その人生を与えてくれた。
「…殺してくれれば…良かった…の……に……。」
視界がぼやける。泣きたくないのに、勝手に涙が出た。…もう、誰からも前を向かない。誰とも向き合わない。誰かに、優しくなんてしない…。
たとえ、愚かな行為でも、人との関わりも、命だって、どうでもいい。もう…、辛いのは嫌だ…。
88号の死体の前で、3号は声を上げながら泣いていた。たった一日の関係、それが彼にとって大きな影響になった。友達でもない相手に、情が移っていたんだ。現実を見たって仕方なかった。
だから、ファーストから渡された薬を飲み込んだ。飲んだ途端、それは甘い毒のように身体を暖かくした、その反面、悪い影響をもたらした。
薬を飲む度飲む度に、吐き気がして、食べる行為が、気持ち悪いと感じた。けれど、それでもいいから、逃げていた。薬を逃げ場にしていた。
───88号は、3号の呪いになってしまいました。
[記録:3915年1月18日]
[被検体の心理実験は無事終了]
[被検体RCU-003/AD-3902]
「君は、今回の任務でどう思った。」
それは雪が降った日だ。彼の心理状態は私からしても良いとは言えないだろう。
「どうってなんですか、あなたは良いですね。そうやって記録とってるだけで。」
[心理状態は想定通り悪化している]
普段よりも語気が強い。苛立ちが隠しきれて居ないのだろう。無理もない、今回が初めてなのだから。
「…次の質問だ。君は何がしたい?」
「は?何が楽しくてそんなこと考えないといけないんですか?!こっちは人を手にかけたんですよ?!この手であの感触を…!!」
[フラッシュバックによる吐き気]
3号は、いや被検体はフラッシュバックのせいか吐き気により身体を縮こまらせて嗚咽を漏らす。
「あれは人じゃない。」
人じゃないと思い込むしかできない。そうやって逃れるしかないのだ。こんな子供に人を殺させるなど…、ましてや13歳の子に。
「しっかり生きなさい。そうすればいつか君にも…」
言葉にはできるわけがなかった。当たり前だ、そんな無責任な言葉をかけてもしかたがないだろう。
私は言葉に詰まり次に何か言おうとした時にはパシッ!という音ともに頬に熱い感覚がした。
3号に叩かれたのだ。痛いが、手加減してくれているのだろうか、その痛みは長く続かなかった。
「生きることが救いだと思うなよッ!!!!お前は何がしたいんだよ!!僕を助けたいなら早くこの心臓!!壊せる道具出してよ!!! 」
胸ぐらを捕まれ何度も身体を揺さぶられる。行儀悪く机に乗っかったまま何度も嗚咽混じりに泣く。
[心理状態の悪化が深刻]
[うつ病などの精神疾患の懸念あり]
[治療を優先するべきだ]
自殺などよくある話だ。2000年前から自殺ムーブなどどこにでもある。集団ヒステリー、一家心中。
そう言った精神の病は人に伝染する可能性がいくらでもある。偽善だけで相談を乗ってしまえば自身が壊れてしまう程彼らの心は真っ黒だ。
「その年齢で、自死を望むのか。」
「死ぬのがいいんじゃないっ!!記憶も自分という憎たらしい肉の塊を!!全部消せる方法なんて死ぬ以外ないじゃないか!!!この世に一欠片でも自分の存在なんていらないんだよ!!!!」
[自死以上に消滅を望む]
[自己嫌悪]
確かに消えてしまえば、自分という鬱陶しい存在が無くなって悩みなど考えずに済むかもしれない。自死を望むのはそれ程楽しいのだろうか。
自死を望むことがそれほど彼らには救いとなっているのだろうか。追い詰められた果てに待った答えが自死なんて報われない話だ。
「自死は最も重い罪だ。」
「何言ってるの?僕たち人間はこの世界の悪疫なんだよ?!!昨日からずっと聞こえるんだよ!!!あの時の言葉が…最後の言葉がっっ!!!」
[幻聴の兆候あり]
[統合失調症または双極性障害の可能性あり]
彼は死人の幻影にまとわりつかれているのだろう。このまま彼を薬漬けにする訳にもいかない。だが、今は精神的安定剤を処方するべきだろう。
[ロフラゼプ酸エチル錠の処方請求]
[ブロマゼパム錠の処方請求]
混乱してた3号も落ち着きを取り戻したのか少しずつ体の力が弱まり机から降り、椅子に座り直す。
「…ごめんなさい。…僕、頑張ります。先生、僕は自分のことが大嫌いです。先生には分からない気持ちで、やり場のない苛立ちでした。……ただ、聞いて欲しかっただけなんです。ごめんなさい。」
凄く優しい子なんだろう。相当苦しいのに、これ以上気持ちを爆発させないように、私を傷つけないように自分を抑えているのだろう。
ごめんよ、君ひとり助けられない弱い大人で。なんて、そんなことを言ってしまえばまた3号が傷ついてしまう。やめにしよう、そういうのは。
「気にするな。」
彼らは最も死に近い存在だろう。彼らは2度と戻らない傷に苛まれることになるだろう。
聞いて欲しいのに聞いてくれる仲間など、すぐに死んでしまう。逃げ場のない苦しみから彼らが助かることなどあるのだろうか。
彼らにとって、感情など邪魔でしかないだろう。彼らが気持ちをわかつ時が来ることを切に願う。
[記録終了]
[記録員:矢羽田 智和]
[研究部職員番号-1530:矢羽田 智和 の死亡確認]
[眠剤大量摂取による心肺停止]
コメント
1件
わあ…すごく重くて、でも温かい話でしたね…。3号が88号に「知っておきたかった、覚えていたかった」って言うところ、心がぎゅっとなりました。最後まで笑顔を絶やさなかった88号の強さと、その笑顔に縛られてしまう3号の苦しみが、対比になって胸に刺さります。特に「君の呪いにならないことを祈る」という台詞が、タイトルを回収していて秀逸でした。天脳音月さんの描く人間関係の繊細さ、本当に好きです。