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そして当然、アイの起こした出来事は作戦失敗に繋がる。
世界樹の下で【土塔】を出している大戦力は混乱していた。
「おいキーさん!どうなってる!!てめぇこれ以上俺に魔力を使わせると殺すぞ!デカさだけじゃなく強度も保ってるんだからな!」
「くっ!どうなってんの、キーくん……」
クロエとオリバルはそれぞれ山亀の方へ両手を掲げながらキールを見ず叫ぶ。
そしてそれはキールも同じ。
「おかしい!もう合図は出ているはずだ!【最終生命破壊砲】がなぜ発動しない!」
誰もが、限界の中で――“それ”を待っていた。
放たれるはずだった一撃。
戦局を決定づける最後の砲撃。
勝利の希望、いや、勝利の“唯一の可能性”――
それが、いつまで経っても――来ない。
「くそっ……魔力が、めちゃくちゃ持っていかれる!!」
クロエは歯を食いしばりながら、地面に手をつけたまま魔力を送り続けていた。
彼女の適性は“治癒魔法”。
攻撃手段は、自身の治癒力を活かした物理のカウンター主体。
そんな彼女が今、
獣人冒険者たちの何倍もの規模で【土塔】を維持できているという事実――
それ自体、**常人ではない“異常”**だった。
だが、その“慣れていない魔法”の代償は――尋常ではない魔力消費として、クロエの体を削っていた。
「……どうなっている!!」
キールは、さすがにおかしいと感じ、
緊急通信用の魔皮紙を展開する。
{此方も不明です!女王様との連絡も断絶状態!
リュウトさんたちも通信不能!
エスさんは緊急事態を察知し、アカネさんと共に世界樹へ向かいました!}
「……一体、世界樹の中で何が起きている……!?」
「なんかわかんねーけどさぁ……!」
クロエが叫ぶ。
「トラブル発生とかマジやめろよ!?
今それ――洒落になんねーんだよッ!!」
当然だった。
この【土塔】は、山亀を一時的に持ち上げるため“だけ”に設計された魔法。
発動後、即座に【最終生命破壊砲】が発射されることを前提とした、“刹那の支え”。
――だが。
砲撃は来ない。
その間にも、塔のあちこちから……
**ピシィ……ピキ……ピシシ……**と、不吉な音が走り始めていた。
「てめーら!! 気張れェ!!」
「……もうやってる……!」
「くっ!! 耐えきれねぇッ……!」
――限界だった。
次々と、獣人騎士たちが膝をつき、
魔力の尽きた者から順に――崩れるように倒れていく。
それは、まるでドミノの連鎖だった。
人数が減れば、魔力負荷は残された者へ。
そして――
【土塔】にかかる“維持の重圧”が――限界を迎える。
「――――!!」
バキィィィィイィイイッ!!!
――ついに。
塔が、崩れ始めた。
「みんな!! 脱出しろ!!」
キールの怒号が響いた。
だが――遅かった。
「くそっ……!」
足を動かそうにも、魔力は空。
倒れた騎士たちに声は届かず、意識もない。
キール自身の脚も、今や石のように重く。
ただその場で、見上げるしか――なかった。
「……もう、手がないのか……!」
リュウトの――神級魔法【目撃突】。
ヒロユキの――神級魔法【目撃斬】。
あれば、打開できたかもしれない。
だがこの魔法には、**“発動条件”**がある。
それを知らないリュウトとヒロユキは、
自分の意志だけでは、発動させることができなかった。
騎士全員で接近戦を挑んだとしても、
山亀の巨体はあまりにも“圧倒的すぎた”。
だからこそ、
砦からの魔法、戦術的な大規模攻撃を主軸としたのだ。
――だが、山亀はすべてを“突破”してきた。
与えた傷は、すでに再生された。
「……何か……何か、できることはないのか……ッ!!」
そのとき――
空が、陰った。
巨大な影が、頭上を覆う。
「ッ――!!」
山亀が――落ちてくる。
このままでは――全てが潰される。
誰もが、死を――覚悟した。
大地が軋み、巨影が落ちてくる。
光は絶え、希望も尽きた刹那。
――その瞬間、響く声があった。
「いいや、キーくん、君はまだ……全力を出していない!」
「「「!」」」
キール、クロエ、オリバルが反射的に振り向く。
そこに立っていたのは――
「ルコ!」
「ルコさん!」
「ルコ……!」
「やぁ、みんな」
「キーくん!これを!」
ルコサは走り寄りながら、小瓶を取り出す。
半透明の、小さな瓶の中には淡く輝くピンク色の液体――
「これは?」
「はやく飲んで!」
猛烈な甘さが舌を焼き、全身に流れた。
「こ、これは!」
次の瞬間、キールの体内に凄まじい魔力の奔流が溢れ返った。
見上げる空には、山亀の腹甲――
ヒビの入った“白い死”が、落ちてくる。
だが、キールは自分の中の“確かな感覚”があった。
「今なら出来る!私はみんなを護る!」
「【武器召喚】!」
キールの手にあった盾が眩く輝き、砕ける。
その破片の中から、新たな姿が姿を現す。
黄金の輝き。
巨大な装飾盾。
神の意志を宿す、絶対の防壁。
「今、私は全てを護る盾
キールは唱える、その絶対の魔法を。
「【神・護】!」
その魔法は、例え何があっても。
神の力で無傷の“結果”を残す、絶対の防御魔法。