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目を開けると、そこは――何もない草原だった。
空は静かに澄み、風が髪を優しく撫でている。キールは仰向けに倒れていた。
「見事だったよ、キーくん」
ぼんやりとした視界に差し込んできたのは、白い神父服フードの男――ルコサだった。彼がゆっくりとキールを抱き起こす。
意識が戻り始めたキールは、周囲を見渡す。
そこには、今回の戦いに参加していた獣人騎士たち、そしてリュウトのパーティー、ヒロユキたち、さらには愛染の女王の姿もある。
だが――
見渡す限り、地面に横たわる者たちの姿が広がっていた。
獣人も、人間も、誰もが倒れ、微かに動いているだけ。
一瞬、キールは胸を強く締め付けられる。
(まさか……死者が……?)
だが、その不安を読んだように、ルコサがニヤリと笑う。
「大丈夫。誰も死んでないよ」
いつものように、飄々とした調子で断言するルコサ。
その表情に、キールはようやく息をついた。
「……これは……どうなってるんだ?」
状況が理解できず、キールは呟いた。
「キーくんが使った【神・護】はね、神の力で“護りたい”って思ったものを、無傷のまま守る神級魔法なんだよ」
ルコサがいつもの軽い口調で言いながらも、どこか誇らしげに説明を続ける。
「前の【目撃護】は“視界に入ってる対象”を守ったでしょ? でもこれは違う。“無傷で護る”ために、神の力で“小さな世界”を作って――」
「……小さな世界?」
「そう。キーくんが守りたいって思った人たちを、その世界にまるごと転移させたんだ」
「転移……」
「だから、この地面に倒れてる人たちも――本当は“あの世界”にいた。神の加護を受けて、全員が無傷で戻ってこれたってわけさ」
「…………」
キールは唖然としたまま、沈黙する。
ルコサはくすっと笑いながら、顔を覗き込んだ。
「信じられない?」
「いや……信じないとしたら――私たちは今ごろ全員、同じ天国に居ることになる。それは……考えたくないな」
「ごもっとも」
少し間を置いて口を開く。
「ルコ、三つ、質問してもいいか」
「どうぞ?」
「……ここにいる人たちは、起きたときに今の出来事を覚えているのか?」
「それはキーくん次第だよ。この世界では、君が“神”みたいな存在だからね」
「……説明するのは骨が折れそうだな。フフッ……特にクロなんて、また悔しがってイライラさせるだけだ。このまま寝かせておこう」
「クロは人一倍、影で努力するからね。そりゃあ悔しいだろうなぁ……まさか、親友が三つ目の神級魔法を使っちゃうなんて」
「……二つ目だ。なぜ、お前は全てを知っている? お前は――何者だ?」
ルコサは面倒くさそうに頭を掻きながら、軽く肩をすくめた。
「あー……前にも言ったじゃない。俺は――【神】の加護を受けた、“神の使徒”さ」
「この光景を見て、お前だけが起きてるのを見ると……今は信じられる気がするな」
キールが目を細めて呟く。
「それで、“神”はなんて言ってた?」
「それが三つ目の質問?」
「いや……やめておく。聞きたいことは山ほどあるが……三つ目は、別のことにしよう」
「うん、了解」
ルコサが軽く頷くと、キールは一呼吸置いてから、真顔で問いかけた。
「……山亀は、どうなった?」
その言葉を聞いた瞬間――
ルコサの表情が、ほんのわずかに硬くなる。飄々とした笑みが消え、目が真っ直ぐキールを見据えていた。
「……ここに連れてこられたのは、“【神の加護】を受けた者たち”だけだよ」
少しだけ間をあけて、続ける。
「俺の加護とは違って、一時的なものだけど……それでも、“アイツら”は神の加護を受けれなかったんだ」
「……どういうことだ?」
キールが眉を寄せて問いかける。
「つまり――【神】は、“試している”」
「試している……?」
風が止まったかのように、空気が一瞬、凍りつく。
静寂の中、ルコサの声だけが、やけにクリアに響いた。
「『女神』の力を宿す者たちを、だよ」
その瞬間。
キールとルコサの頭上――空に、まるで神殿の天井が開いたかのように光が集まり、
巨大な光のスクリーンが現れる。
そこに映し出されたのは――
――アオイだった。