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第17話:教科書の国
教室
5年後の東京。
小学校の教室には、大和国の赤い国旗と「大和国基本法」の抜粋が掲げられていた。
まひろは水色のシャツにカーキ色の短パン。机に両肘をつき、ランドセルの肩紐を指でくるくる回しながら教科書をのぞき込んでいた。
そこには――
「21世紀初頭、日本は大和国に生まれ変わった」
「国民の総意によって、未来を守るための統合が実現した」
と、はっきり印刷されていた。
隣の席の子どもたちが口をそろえて音読する。
「大和国の誕生は、はごろもまごころの問いかけから始まった」
無垢な違和感
まひろは大きな瞳を丸くし、声を小さくもらした。
「……え? ぼくの言葉が、もう教科書になってる……?」
教師はにこやかな笑顔で眼鏡を直し、白いチョークで黒板に線を引いた。
「そうだよ。君の“ほんとかな”が国の始まりなんだ。だから歴史に残るんだよ」
クラスの子どもたちは「すごーい!」と拍手を送る。
まひろは照れ笑いを浮かべながらも、袖をぎゅっと握りしめた。
ミウの合流
放課後の配信スタジオ。
ミウはベージュのブラウスにラベンダー色のロングスカート。髪を後ろでまとめ、ブレスレットを腕に光らせていた。
「え〜♡ まひろ、よかったじゃない。教科書に名前は出てないけど、みんな知ってるんだよ。
“ほんとかな”って言った子どもが、国の未来を動かしたって♡」
まひろは水色のシャツの襟を直しながら、無垢な顔でカメラを見た。
「ぼく……ただ“どうなるのかな”って考えただけだったのに。
もうそれが“歴史”なんだ……」
コメント欄は熱狂に包まれた。
「未来を作った子ども!」「ありがとう、はごろもまごころ」「歴史に残る二人!」
結末
暗い部屋で、緑のフーディを羽織った**Z(ゼイド)**が教科書のデータを開いていた。
画面には、まひろとミウの配信を模写した挿絵が「公認イラスト」として刷り込まれていた。
Zは低く笑う。
「歴史は紙に残すものじゃない。
刷り込まれた幻想を、子どもが信じた瞬間――それが現実になる」