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「……友達がいないと、何もできない気がするんです」
相談室の椅子に、男子は小さくうずくまるように座った。
「一緒にいるときは楽しいんです。でも、ちょっとでも連絡が途切れると、不安で……胸が締めつけられる感じで」
日下部はペンをカチカチ転がしながら、黙って聞いた。
「俺、これって依存なんですかね……?」
「……依存、って言われると、まあそうかもな」
日下部は口をつぐんで、少し考え込む。
「でもよ。依存って、悪いことだけじゃねぇと思うぞ」
「……え?」
「好きなやつに頼るとか、友達に支えられるとかさ。そういうのって、自然だし、人間らしいことだろ」
男子は俯いたまま、でも小さく肩をすくめた。
「ただ、バランスが崩れるとつらいだけで……。相手がいないと不安で、手放せなくなるのは、わかる。俺もそういう時期あった」
日下部の声は低く、でもぶれなかった。
「じゃあ、どうしたらいいんですか?」
「……どうもしなくていいよ。まずは、“依存してる自分”を否定しなくていい」
日下部はペンを置き、男子の顔を見た。
「依存してもいい。でも、お前の全部を誰かに預けちゃうんじゃなくて、少しだけ自分で持ってる部分を残す。そこがポイント」
男子はかすかに息を吐く。
「……少し、自分を残す、ですか」
「そう。少しでいい。全部抱えなくていい」
相談室の空気は、まだ重い。でも、ほんのわずかだけ、男子の肩の力が抜けたように見えた。
男子は、椅子に沈むように座ったまま、窓の外をぼんやり見ていた。
「……でも、結局俺、友達いなかったら、何もできないんですよね」
日下部は少し間を置いて、真っ直ぐに言った。
「……そうかもしれねぇな」
男子が驚いた顔で振り向く。
「……え?」
「でもさ。お前が友達いなかったら何もできないって感じるのは、お前が自分で何も持ってないんじゃなくて、“友達がいなきゃ、自分を信じられない”だけだろ」
男子は黙ったまま、肩を震わせるように息を吐いた。
「……つまり?」
「つまり、依存してもいいけど、それだけで終わるなってことだ」
日下部は少し声を落として、でも目は揺らがずに見据えた。
「友達がいないと不安でも、そこで壊れずに立ってられたら……それ、お前の力になるんだぞ」
男子は膝を抱えたまま、小さく笑ったような、泣きそうな顔をした。
「……自分で立つ、ですか」
「そう。立ってみろ。まだ無理でもいい。立とうとするだけで、もう少し強くなれる」
その瞬間、部屋の空気が少し変わった気がした。
重さはまだある。でも、目の前に立つべきものが、ほんの少しだけ、見えたような気がした。