テラーノベル
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「――皆さん、もうお揃いですね」
天魔の声が響くと、座っていた男たちが一斉に立ち上がった。だが、彼らの視線はすぐに天魔から隣に立つ私へと釘付けになる。
私は、天魔が引いてくれた椅子に、極めて優雅な所作で腰を下ろす。
ブルーのカラーコンタクトを入れた私の瞳は、シャンデリアの光を反射して冷たく輝き、ハリー・ヴィストンのダイヤのピアスが耳元で揺れるたびに、理咲の視線がそこに吸い寄せられ、そして屈辱に歪んでいく。
彼女の大きな瞳に、激しい嫉妬と場を支配されている焦りが火を灯す。私は優雅な所作で椅子に座り、男たちに冷徹な会釈を見せた。
「初めまして。神原の妻、英子(えいこ)です。主人がいつも、皆様には大変お世話になっていると伺っておりますわ」
私の声が響くと、レストランの空気が一変した。理咲が必死に掴んだ「投資の女神」という立ち位置が、本物のセレブ妻の登場によって、一瞬で「ただの紹介屋」に格下げされた瞬間だった。ふふ。
「英子、紹介しよう。こちらが太田理咲さん。デザイン会社の社長令嬢で、僕の良き協力者だ。そしてあちらの皆様が、彼女の信頼するビジネスパートナーの方々」
パートナーでも、友人でもない。単なる駒(協力者)に過ぎないという響き。理咲の完璧に作り込まれたメイクの下で、頬の筋肉が微かに引き攣るのを私は見逃さなかった。 彼女が連れてきた男たち――理咲を崇拝し、彼女を通じて神原という伝説に触れようとしていた取引先の男たちもまた、私の姿に気圧され、言葉を失っている。
「あら……。新次郎、この方たちが例の『特別枠』を希望されている方々?」
「そうだよ。若いのに度胸もあって、しっかり利益を出している。僕の指示通りの売買をしてくれたんだよ」
私はもったいぶってため息をついた。
「新次郎、若い方に加担するのはあなたの悪い癖よ。今回の件はお断りしてちょうだい」
「どうしたんだ、英子。彼らは立派な投資家だ。なにが不満なんだい?」
我儘な妻を宥める、余裕に満ちた愛妻家。天魔の演技は完璧だった。彼は私の手を取り、まるで壊れ物を扱うように指先に唇を寄せた。その光景を見せつけられた理咲の瞳には、ドロリとした激しい嫉妬が燃え上がっている。
彼女は今、私を敵として認識した。神原という獲物を奪い合う、恋敵として。
「今回の枠は、最低でも一口1億円以上動かせる資産がある『真のパートナー』専用じゃなかった? 彼女のような若いお嬢様や、中堅どころの方々には、少し荷が重すぎるのではないかと思うの」
私は男たちと理咲をまるで「分不相応な客」を眺めるような憐れみの目で見つめた。
私の言葉は鋭いナイフのように男たちのプライドを切り裂いた。
「荷が重いなんて……」
男たちの一人が、屈辱に震える声で漏らした。理咲に「すごい投資家がいる」と担ぎ上げられ、自分たちも選ばれた人間だと思い込んでいた彼らにとって、私の言葉は耐え難い侮辱だっただろう。ここへ招待された時点で、少なくとも自分たちは違うと勘違いしているはず。
「そうよ。この『特別枠』は、失敗した時に一族が路頭に迷うような方々が触れていいものではないの。理咲さんのことを伺ったけれど、OTAというデザイン会社をされていらっしゃるのでしょう? うちの新次郎がお世話になっているようだけど、失敗したら会社が吹き飛ぶわ」
私は理咲の瞳を真っ直ぐに見つめ、優しく微笑みかけた。すると彼女の顔から血の気が引き、次の瞬間には怒りで真っ赤に染まった。彼女の中の、誰にも負けたくないという、肥大化した承認欲求が爆発する音が聞こえた気がした。
「奥様、お言葉ですが私たちは覚悟を持ってここに来ました! 私をただのお嬢様だと思わないでください!」
理咲がテーブルを叩くようにして身を乗り出した。 「新次郎さん、お願いします! 今回の案件、私たちにやらせてください!」
驚いた様子で天魔が理咲を見る。「でも、証拠金がかなり必要だけど大丈夫ですか?」
「もちろんです!」理咲は堂々と言い放った。「証拠金ならいくらでも用意します!」
理咲の言葉に、連れてきた男たちも煽られるように叫び始めた。
「僕もです! 動かせるだけの運転資金、すべて突っ込みます!」
「英子さんに僕たちの力を見ていてください!」
#大人ロマンス
煉彩
235
#セックスレス
深冬芽以
1,050
さぶれ-SABURE-
641
#相談女
澪
218
「お願いします神原さん! 僕たちにもファンドを紹介して買わせてください!」
男たちの顔には、もう冷静な投資家としての判断能力は残っていなかった。あるのは、格上の女に否定された屈辱を晴らしたいという、幼稚で攻撃的な自尊心だけだ。彼らは今、自分の首に縄をかけ、その端を天魔に手渡した。
「新次郎。彼らはこう言っているわ。……ふふ、面白い方々ね」
私はわざとらしく笑い、天魔に頷いた。
「ここまで仰るなら、機会を差し上げてもいいんじゃないかしら」
天魔が満足げに微笑み、タブレットを取り出した。
「決まりましたね。理咲さん、そして皆様。君たちの覚悟、確かに受け取りました。今この瞬間、僕の個人で所有する特別枠を開放します。さあ、新しいファンドがアプリに表示されたはずです。明日の朝いちばんで、できる限りの数をご購入ください。また、一時的な資金の貸付も行います。今すぐ現金を用意できない方は、担保を明記してこちらに署名をどうぞ」
レストランの貸し切り空間は、一瞬にして熱狂的な処刑場へと化した。
理咲、そして彼女が連れてきた男たち。彼らは競うようにして電子署名を済ませ、自らの人生を地獄の釜へと注ぎ込んでいく。理咲は勝利を確信したようなギラついた光を放ち、私を見返したという優越感で満たされていた。
理咲。もっと狂いなさい。
その署名は、あなたがこれまで築いてきたすべてを、一晩で紙屑に変える死刑宣告よ!
彼らの様子を眺めながら、私はグラスの中のシャンパンを飲み干した。
喉を通る冷たさが、最高に心地よかった。
コメント
1件
うわあ、このレストランでの場面、めちゃくちゃ緊張感ありましたね…!英子さんの「優雅な所作」と「冷徹な会釈」の対比がかっこよくて、正妻の貫禄がすごい。理咲が嫉妬で歪む表情とか、男たちがプライドを傷つけられて熱くなっていく心理描写が細かくて引き込まれました。シャンパンを飲み干す最後の一文、最高に決まってますね。続きが気になる!