テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
西新宿のレストランでの契約後、翌日から理咲がスマートフォンを何度もリロードしていた。投資家・神原新次郎が勧めてくれたファンドは、アプリの情報から都合の良いニュースが流れるようになっており、購入ファンドが今日だけで、結果最終的に20パーセントの値上がりを付けたように見せかけた。
最初は1パーセントから、徐々にその数字を増やし、当日の夕方までに20パーセントの利益を出すことに成功したのだ。
投資アプリを開くたび、画面に踊る数字は文字通り「桁」を変えていく。右肩上がりの数字を見て、ドーパミンが大放出だ。
「信じられない。こんな簡単に儲かるなんて……!」
理咲は、デザイン事務所OTAの休憩室で、一人悦に浸っていた。この様子は盗撮アプリを兼ねた投資アプリを介して見ることができた。私は理咲の絶頂期をこの目で見届けた。
あとは転落するだけなのにね。
きっと今頃、自分は選ばれし投資家だと勘違いしているんでしょう。
彼女が連れてきた取引先の男たちも、狂喜乱舞している様子が見られた。仕事をしながら様子をチェック。今日は在宅ワークにしてもらったから、自由に彼らの様子が見られる。
『理咲さん、最高だ! 利益でタワマンの頭金が払えるよ!』
『この益で次の投資もやってみようぜ!』
『神原さんを紹介してくれて感謝してる』
男たちの賞賛は、理咲の肥大化した承認欲求をこれ以上ないほどに満たした。彼女は今、ビジネス、美貌、そして人脈。そのすべてにおいて頂点に立っていると確信していることでしょうね。そして、神原新次郎の妻に、嫉妬心を燃やしている。
勝利を確信した彼女にとって、もはや涼二という存在は、過去の遺物。しがないサラリーマンで、女を置き去りにする最低なクズ。今度は新次郎を狙ってくるだろう。でも、もうそれはできない。だって――
投資アプリのデータを操作した。これが最後の操作。彼らの破滅へのスイッチは、私がタップして終わり。
もう、彼らはログインしても『メンテナンス中』というメッセージが延々表示されて、画面が切り替わることはない。偽物のファンドは、レバレッジ(少ない自己資金を担保にして、より大きな取引を行う仕組みのこと)を効かせているから、彼らが借金までして突っ込んだ財産は、証拠金として預かっている。損失が膨らみ、一定額を下回ったとみなされた時点でメンテナンスが解け、強制ロスカットで全額損失として終了となる。
もちろん、架空の取引だから、実際に損して終わるのではなく、口座が空っぽになった事実をつくるだけ。
だから昨日、私は慈悲で忠告したのに。『身の丈に合わない投資はやめておけ』と。
木曜日の夜に彼らを誘導し、金曜日朝に間に合うようにファンドを買わせ、マーケットが開いている時間いっぱい、持っているファンド儲かったように見せかけ、後はメンテナンス作業に入るという表示を行い、月曜日まで時間を稼ぐ。
もともと集めたお金は一括で天魔の用意した口座に入るようになっている。しかもファンドを買わせたのは、海外のドル建てで架空のもの。どこに問い合わせたって、存在しないものだから――
私は天満に電話をかけた。「終わったわよ」
『さすが仕事が早い』
「こんな楽しいことさせてくれたんですから。そりゃ、早くもなるわよ」
『飲みに来る?』
「そうしたいけど、今日はやめておくわ。理咲と別れたし、夫が帰って来るかもしれないから」
『用心するに越したことはないな。オーケー。また会おう』
「月曜日が楽しみね」
『また連絡する』
電話を切った。もちろん履歴は削除する。天魔から借りているスマートフォンで、これは名目上、仕事用のものだ。アプリはシステム開発のものばかりを入れ、会社のロゴシールも貼っておいた。完全に仕事用のものとして見せている。
私は決して油断せず、完璧に遂行する。涼二が別れさせ屋(てんま)に堕とされる、その日まで。
その前に理咲の崩壊する顔、早く見たいな。ふふっ。
理咲と別れたし、夫は早く帰って来るだろう。秋也と約束もしていないし、また新しい女を探すにも時間はかかる。お酒はあまり強くないし、SNSで浮気相手を探すのが上手だから、キャバクラやラウンジみたいな飲みの席には参加しない。
涼二。あなたのことなら私、大体わかるの。
だから女がいない間くらいは、仕事が暇になったということにして、私の傍で女を漁るんでしょ?
今までは額面通り受け取って、それを信じていた。
私が頑張れば、今までの夫婦生活が取り戻せると願っていた。
騙されているとも知らないで、ばかみたいに。
もうすぐ帰って来るわね。私が『今日は早かったのね。お疲れ様』というと、『定時で帰れたから、少しでも沙耶に会いたくて急いで帰ってきたよ』って言うのよ。
これだけわかるんだから、浮気しているってもっと早くにわかればよかった。でも、涼二を愛していたから、きっと、フィルターがかかって見えなかったのね。彼の本性が。
ピンポーン
インターフォンが鳴ったのでドアフォンを確認すると涼二が立っている。
玄関に早速向かい、予想通りの台詞を言ってみた。
「今日は早かったのね。お疲れ様」
「定時で帰れたから、少しでも沙耶に会いたくて急いで帰ってきたよ」
ほらね。
「そう。ご飯できているわ。食べる?」
「もらおうかな。その前に――」
ぎゅっと抱きしめられた。
えっ、なに? 気持ち悪いんだけど!
#大人ロマンス
煉彩
235
#セックスレス
深冬芽以
1,050
さぶれ-SABURE-
641
#相談女
澪
218
コメント
1件
うわ……沙耶の計画、着々と進んでるね。理咲が数字の上昇に酔いしれてるシーン、こっちまでゾクゾクしたよ。でも最後の涼二の抱擁で「気持ち悪い」って本音が出てるところが一番グッときた。長年愛してた相手にそう思えるまで、どれだけ積もったんだろうね…🥀💔