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「……日下部くん。私、親が怖いんです」
椅子に座った女子は、膝の上で指をきゅっと組んだ。
「怖いっていうか……いつも見られてる気がして。
LINEの友達の数とか、勉強の進み具合とか、スマホの使い方まで。全部。
“あなたのため”って言われるんですけど……ほんとは、息が詰まって」
日下部は腕を組み、しばらく天井を見上げていた。
「……過干渉ってやつか」
女子は苦笑した。
「干渉っていうより、監視……かも。
ほんとは怒鳴られてるわけじゃないし、殴られてるわけでもないから……周りに相談しにくいんです。
“いい親じゃん”って言われそうで。
でも、毎日“ちゃんとやってる?”って聞かれるたび、胸の中がぎゅってなるんです」
日下部は目を伏せ、机に軽く指をトントンと当てた。
「……俺もさ、親に“やってる?”って言われんの、めちゃくちゃ嫌いだった」
「え……日下部くんも?」
「テスト勉強のときとか、“勉強してるの?”って声かけられると、してても一瞬でやる気なくなるんだよな。
見張られてるみたいで……。
だから、その“胸がぎゅってなる”の、すげぇわかる」
女子の目が少し潤んだ。
「……でも、私、反抗できないんです。言い返したら泣かれるし、もっと口うるさくなるし。
結局“うん”って言って従うしかなくて。
だから自分が悪いのかなって……」
日下部は首を振った。
「悪くねぇよ。
過干渉ってさ、“親が心配だから”って理由つけられるから、子どものほうが自分責めちまうんだよな。
でも、心配と息苦しさは別もんだろ」
女子は黙ってうなずいた。
「……じゃあ、どうしたらいいんでしょう」
「正直、すぐ解決はしねぇと思う。
親って、変わんねぇから。
でも……“全部見せなきゃいけないわけじゃない”って、自分で決めてもいいんじゃねぇか」
「……隠す、ってことですか?」
「隠すっていうか、“守る”んだよ、自分を。
たとえばノートを全部開いて見せなくてもいいし、今日のことを逐一報告しなくてもいい。
親にわかんねぇ部分を、ちょっとずつ自分で持つ。
それが、自分の居場所になるんじゃねぇかな」
女子はしばらく黙って、それから小さく笑った。
「……日下部くん、けっこう悪いこと言いますね」
「悪いことじゃねぇよ。
……大人が“全部お前のため”って言ってきたら、誰だって苦しくなる。
自分を守るのは、悪いことじゃねぇ」
女子は肩の力を抜いたように見えた。
日下部は窓の外に視線を移しながら、ぼそっと続けた。
「……お前のこと、全部わかるのは親じゃなくて……これから先に出会う誰かかもしれねぇし。
それまでは、自分の領域をちょっとでも守っとけ」
女子は目を伏せて、何度も頷いた。