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恵
弾かれたように振り返る美花から、驚きに染まっている瞳を向けられた圭。
「圭ちゃん? どうしたの?」
彼は、射抜かれている眼差しから顔を俯かせた後、短くため息を吐き、美花の視線にぶつけた。
「君と恋人同士になったんだ。美花のお母さんに…………挨拶させて欲しい」
「…………え?」
まさか、自分の母親に挨拶したいと言われるとは思わなかったのか、薄茶の瞳を、さらに丸くさせている美花。
「圭ちゃんは…………いいの?」
「俺が君のお母さんに挨拶したい、と思ったんだ」
「…………ありがとう。圭ちゃん」
美花がうっすらと微笑みを映し出すと、『家庭料理 ゆき』の入り口の引き戸を、つたない様子で開いた。
「美花。お帰──」
彼女を出迎えた店主の雪が、美花の後ろにいる圭を見て、虚を突かれたのか言葉を途切らせた。
美花から圭に視線を伝わせていく母に、圭の鼓動がドクリと打ち鳴らされる。
幸い、と言えばいいのか、店内に客はいない。
緊張感が一気に高まったところで、彼は、カウンターの内側にいる雪に、深々と一礼をした。
「…………お母さん、ただいま」
「お帰り、美花。それから…………お客さん…………って呼んで……いいのかな? それとも──」
「いえ。今日は……」
雪が目を細めつつ、探るような口振りに、圭の心臓が慌ただしく弾み続ける。
「今日は…………美花さんの恋人として来ました」
彼は瞳を僅かに伏せた後、顔を上げ、美花の母、雪にまっすぐな眼差しを向けた。
「葉山圭と申します。昨日から、美花さんとお付き合いさせて頂いております」
「……っ」
いつも『家庭料理 ゆき』で、黙々と食事をしている圭が、芯の通った声音で、美花と交際宣言をした事に、彼女の母は、娘と同じような瞳を瞠目させ、呆気に取られているようだった。
「葉山さん」
やがて、母の雪が、口元に笑みを滲ませながら、圭に柔らかな視線を送った。
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