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「外での事も、俺の事も知っているということか。さすがは精霊界の女王と言ったところだな」
「それを一方的にボコにした者が言うと皮肉にしか聞こえんのぅ」
今もって頭を押さえて涙目の幼女はやや楽しげに笑いながらそう言う。
「俺は、俺にはやらなければならない事がある。あまり談笑している時間はないんだ」
「そうよな。ふむ。星がお主だったと言うところからだが。本来なら祈りが届いた時に転移という形でその者の前に現れるはずだったのだが。儀式を行った者はやり方を知ってはいたものの、その準備までは出来なかった。だけどそれでも願わずにはいられなかったよの。だから執り行った。1人での」
その声を俺はどこかで聞いた気がする。悲痛な願いを。
「本来ならそれなりの魔術師が何人も集まってしたその儀式を聞きかじりの知識で行ったよの。不具合があっても不思議ではない。むしろ成功しない方が自然。そしてお主は喚ばれたものの粉々に砕けて転移には失敗したのよ。それがどういうわけかこの精霊界に取り込まれてのぅ」
「だとすると俺はどうして今生きている?」
この体が砕けたガラスのような有様だったことなどはない。生まれた時から健康優良児だった。
「転移がダメなら転生、お主はそう推測しているようだが、そうではない。お主のその身体にはもともと別の魂が入っておった。何やらもう死ぬらしく、その魂だけがこの精霊界に来て彷徨っておった。そしてお主と出会ったのよ。正確には私が星々を調べている間に生まれたお主の一部たちと、ではあるがの。その一部たちは考えた。この死にゆく魂の代わりに星々をかき集めたお主をその身体に入れてやれば良いのだと。そして実行されたよの」
幼女の瞳が真っ直ぐに俺を見据える。
「それが俺なのか」
「うむ。間違いないぞ。その魔力、どこかで感じたものと思っておったが、納得よの。ところでお主は名は何という?」
「俺はダリルだ。」
「それはこの世界においての名前であろう?違う違う。前の世界での名前よ。願いに引っ張られて前世を謎の死で終えた者の名前よ」
「謎の死だと?それは一体……」
今必要な情報とは言い難いが、聞かされると知りたくなってしまう。謎とはなんだ謎とは。
「ん? もはや戻れぬ世界のそんな事が気になるのか? ふむ、お主は最期は何もないところで爆散したぞ? こっちから無理矢理に引っ張られたんだからの。テロだなんだと騒いでおったらしいの」
「とんでもないな。まあいい、確かに今更どうでもいい。俺の前世の名前は、真神希墨だ」
「なるほど! やはり神か!」
「いや、それはただの名前でだな……」
見た目年齢も相まってもうただのアホの子に見えてきた。
「うん? あー、そうか。それはあの時の召喚された者たちだけで秘匿されたものであったな。よいか? この世界において何事にも転換点というものがある。そして異世界からの召喚においては初代の勇者が召喚された時に、ひとつのルールが作られたよの。それはズバリ“前世の名前をもってその者の特性が決まる”というもの。そうか、真の神とは、おそれいったわい。あのラビ種は運が良いのか悪いのか。いや、もう死んでしまっている以上は悪かったのかのう」
「俺が物心ついたとき、俺は転生者なのだと思った。だが他人の身体に入ってしまったというのか」
その時の俺の魂にも事情はあったにせよ、だとしたら申し訳ないことをしたものだ。
「元の魂はお主を受け入れたのよ。もはやここを歩いていた時もどんどん薄くなっていくほどに死ぬ手前での。最後には溶けて無くなるかと思ったところを、お主の一部たちが助けたと言っても良い。お主は死にゆくだけだった魂の希みを叶えたのよ」
「希みを。なるほど、俺がやるべき事はやはりそうなのだな。その祈りの主の希みを叶える。物心ついた時から、それだけは至上命題のようにはっきりと認識していた。どうすれば良いか分からずにここまで後回しになって、手遅れになりそうだが」
それでも感じる。エミールを救いたい気持ちとは別に、心の奥底にまだ、元の願いを成就させる望みがあることを。
「その在り方が現人神であるお主は、この世界そのものを変えるなどは叶わぬが、その手遅れになりそうな事をどうにかするくらいは出来そうではあるな」
「本当か! どうすればいい?」
俺はその提案にすっかりと乗ってしまった。たとえ他に手は無かったにしろ、それが果てしなく続く時の中で生き続けることになると分かっていても。