テラーノベル
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男子学生の姿が完全に見えなくなると、瑠奈は力が抜けたように、その場にしゃがみ込んだ。
「夜の森に一人で来たらダメだよ。瑠奈は女の子なんだから……」
流星の言葉に、瑠奈はむっとして顔を上げる。
「なによ。急に大人ぶっちゃって」
「本気で言ってるんだよ。気をつけないと、取り返しのつかないことになる」
「分かってる……。でも、まさかこんな田舎にあんな人がいるなんて思わなかったの」
「ナンパされるのに都会も田舎も関係ないよ。瑠奈は警戒心が緩すぎる」
「仕事中にナンパされてる人に言われたくない!」
瑠奈はそう叫んで、頬をぷくっと膨らませた。
その仕草が妹の星歌にそっくりで、流星は思わず吹き出してしまう。
「今、笑ったでしょ?」
「笑ってないよ」
「うそ! 笑ってた! なんで笑ったの?」
「……怒った顔が、妹に似てるなって思っただけ」
「妹さん? 妹さんがいるの?」
「うん」
「何歳?」
「五つ下の中1」
「へぇ……そうなんだ……」
そこから自然と会話が広がっていった。
家族のこと、学校のこと、部活のことーー初対面に近いはずなのに、不思議と会話が弾む。
「瑠奈は兄弟いないんだ」
「うん、一人っ子」
「そっか……」
「ねぇ、妹さんとは仲良し?」
「喧嘩はしょっちゅうするけど、仲はいいよ」
「いいなぁ。やっぱり血が繋がってるとそうなるんだね。羨ましいな」
「いや、血は半分しか繋がってないんだ」
「え?」
瑠奈の目が興味深そうに丸くなる。
「俺の母さん、未婚の母で俺を産んだんだ」
「そ、そうなの?」
「あ、でも不倫とかじゃないよ。相手の男に騙されてたんだ。独身だってね」
「……そんなことが……」
「うん。で、妊娠したら『妻子がいる』って言って逃げられたらしい」
それを聞いた瑠奈の胸には、怒りが込み上げてきた。
「何それ! 最低じゃない!」
「だろ?」
「最低どころじゃないわよ!」
「まあ、その最低な男の血が俺にも流れてるんだけどね」
「あ……」
瑠奈は言葉を失い、気まずそうに視線を落とした。
だが流星は気にするふうもなく続けた。
「でもさ、そのあと母さんは運命の出会いをしたんだ」
「運命の出会い?」
「そう。今の父さん。あの人は、母さんと、血の繋がらない俺のことを、丸ごと受け止めてくれたんだ」
「……そんなことって、本当にあるんだね」
「あるんだよ。だから俺、父さんには頭が上がらない」
「それで流星はまっすぐなんだね」
「まっすぐ?」
「素直で、いい人で、ひねくれてない。そういう意味」
「あはは、そんなことないよ。俺、結構性格悪いよ」
「うそ。信じられない」
「深く付き合うと分かるよ。妹なんていつも俺に怒ってるし」
瑠奈は思わずふふっと笑った。
「それはきっと、大好きなお兄ちゃんに構ってほしいからだよ」
「違うよ。あいつは本気で俺を下に見てるから」
「そうなの?」
「そう。口じゃ勝てないし、たまに手も飛んでくる」
「わぁ、なんか私と気が合いそう!」
「やめてくれよ。怖い女二人もいたら、俺の立場がない」
「ふふっ、それも面白そう」
二人は同時に声を上げて笑った。
笑いが落ち着くと、流星はふと夜空を見上げた。
瑠奈もつられるように視線を上げる。
「星、綺麗だな」
「うん。東京育ちの私から見たら、長野の星空って、奇跡でしかないよ」
「毎日見てても、飽きないよな」
「うん」
しばらく無言で星を眺めていると、大きな流れ星が夜空を駆け抜けた。
「あっ、流れ星!」
「大きかったね」
「うん……すごく綺麗だった」
「願いごとする暇なかったな」
「何を願いたかったの?」
「大学合格かな」
「やっぱりそうだよね」
「瑠奈は? 大学、行きたいんだろう?」
「…………」
「瑠奈はけっこう成績もいいんじゃない?」
「なんで分かるの?」
「話してれば分かるよ。瑠奈はリケジョだろ?」
「え……どうして?」
「俺と同じ匂いがする」
流星はそう言って、ふふんと笑った。
「ふふっ、そっか……」
「だから、大学に行きたいなら受けてみろよ。大人の都合なんてほっといてさ。いざとなれば奨学金だってあるし、なんとかなるから」
「……学費は、お父さんが出すって言ってくれてる」
「だったら、いつまでも大人に振り回されんな。瑠奈は今、目の前にある自分の未来に集中するべきなんだ」
「目の前にある……自分の未来……?」
瑠奈は星を見上げたまま流星の言葉を繰り返し、くすっと笑った。
「なんだよ」
「ううん、なんでもない」
「気になるから言えよ」
「ふふっ、だって、流星って同い年なのに、先生みたいなこと言うんだもん」
「あ、ごめん……つい癖でさ。俺、生徒会長もやってたから、つい上から目線になっちゃうんだよね」
「だから頼りになるんだ……」
「え? 今なんて?」
「ううん、なんでもない」
瑠奈の表情はすっかり穏やかになり、先ほどまでの不安は跡形もなく消えていた。
その夜、二人は満天の星空の下で、とりとめのない話をいつまでも交わし続けた。
コメント
3件
気の合う2人🥰💖💖 腹を割って話せる2人👩❤️👩いいなぁ♡♡
うふふふふ♡ いいね、初々しいね。 いいねー。 うふふふふ♡♡
いい感じ🤭