テラーノベル
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約束のカフェでコーヒーを飲みながら、スマホでネットニュースを見ていると、るりちゃんがやって来た。手には小さな紙袋。本ではないようだ。
「お待たせしました」
「俺も少し前に来たところだよ。あ、なに飲む?」
店員が水を持ってやって来た。
るりちゃんが俺の正面に座り、急いでメニューを見る。
「あ、ストロベリーソーダで」
夏季限定のそれは、メニューの一覧ではなく、テーブルに写真が貼られている。
俺も見た時、彼女が好きそうだなと思った。
「スイーツセットでしたら、ドリンクが二百円引きになりますが、いかがですか?」
俺がコーヒーを注文した時には言われなかった、お勧め。
るりちゃんがチラッと俺を見る。
食べたいんだな、とわかる。
俺は店員が差し出したスイーツのメニューを一瞥した。
「先にコーヒー頼んじゃったんですけど、スイーツ頼んだらセットにしてもらえます?」
「はい、できます」
「じゃあ、俺、モンブランが食べたいなぁ。いい?」と、るりちゃんに聞く。
彼女はぱあっと頬を膨らませて、疑う余地なく喜んだ。
「限定のイチゴショートはありますか?」
「はい、ございます」
「それでお願いします」
るりちゃんが注文したイチゴショートもまた、ストロベリーソーダと一緒にテーブルに貼られた写真にあったもの。
通常の一・五倍の高さで、イチゴの層が二段になっている。
時刻は十五時半。
昼がパンケーキだったから小腹が空いていた。
「いいもの、買えた?」
「はい」
何を買ったか教えてくれるかなと思ったが、彼女は何も言わなかった。
運ばれてきたケーキとドリンクに瞳を輝かせるるりちゃんを見て、ふと思った。
「るりちゃん」
「はい」
「スイーツを食べたくなったら俺を誘って?」
「え?」
「迷惑でなかったら、一緒に食べよう」
「はぁ……」
彼女はきっと、俺がスイーツ好きなのではと思っているだろう。
それでも、いい。
嫌いじゃない。
けれど、それ以上に、るりちゃんの好きなものを共有したい。
「あ、でも、しばらくスイーツは食べません」
「え?」
美味しそうにケーキを頬張りながら、相反することを言う。
「最近食べ過ぎちゃったので」
思えば、俺がるりちゃんと出会った日から、とにかく食べている。
初日にパンケーキ、翌日には寿司、三日空いて、エクセに通い出した。
「さすがに、制服が小さくなったから替えて欲しいとは言いにくいので」
るりちゃんがへへへと笑う。
「ごめんね? 店舗調査なんて頼んじゃったから――」
「――いえいえ! エクセのサラダも美味しいですから!」
気をつけよう、と思った。
甘いものを本当に美味しそうに食べるるりちゃんが見たくて、つい誘ってしまいがちだが、控えようと思っているのなら困らせたくはない。
「でも! 今日は誕生日なので特別です」
笑って、るりちゃんはケーキを完食した。
「るりちゃん、今夜なんだけど――」と言いかけた時、ヴヴヴッとテーブルに置いてあるスマホが震えた。
誉からの着信。
どうしようかと一瞬だけ迷う。と同時に、るりちゃんが手をスマホに向けて言った。
「どうぞ、出てください」
俺は「ごめんね」と言って、電話に出た。
「もしもし?」
『おう。昨日の件だけど――』と、誉がこちらの都合も聞かずに話し出す。
やけに静かで、どこにいるのかはわからない。
『――お前の言った通りに処理できたぞ』
「え、もう?」
『俺を誰だと思ってんだよ。全員、戸惑いはあったが、ほぼ二つ返事でOKした。月曜に辞令を出す』
そうは言っても、ほとんどの根回しは黎琳がやったのだろう。
「サンキュ」
『貸し、な』
『あなたは何もしていませんよね』
割り込んできたのは、やはり黎琳。
『凱人はデート中なんですから、用件を伝えたらさっさと切ってください』
『えっ!? デート? お前が!? 誰と? 会わせろよ。また騙されないか、俺が――』
『――ハルカちゃんが待ってるんじゃないですか?』
『あ、そうだった。凱人! 月曜に詳しく教えろよ』
騒々しいことこの上なく、スマホは勝手にホーム画面に戻った。
ふぅっとため息をつきながら、スマホをテーブルに置く。
あの二人は、いつまで夫婦漫才のような関係を続ける気なのか。
顔を上げると、るりちゃんがふふっと笑った。
「なんだか賑やかでしたね」
「ごめんね、電話越しでもうるさくて」
「専務は今日もお仕事ですか?」
「うん。あ、月曜にはわかることだけど、O駅前店の店長は異動してもらうことになったよ」
「え?」
俺は冷めたコーヒーを飲み干した。
もう一杯頼もうかと聞いたら、彼女は首を振った。
「彼には接客の指導に回ってもらうことにしたんだ。各店舗を回ってもらって」
彼は接客のプロだ。
店長という役職には向いていなかったとしても、奥山にとっては貴重な存在だ。
「代わりに、副店長を店長に、副店長にはきみんとこの権田主任に入ってもらう」
「権田主任!? どこからその人事が――」
「――俺の提案。るりちゃん言ってたでしょ、主任は店舗に戻りたがってるって」
「言いましたけど……」
コメント
1件
仕事が早いね👍