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『えっ、ぜんぶボツ……?』
翌日のこと。朝、秋也(天魔)からPDFにされた脚本を転送してもらい、読んだ。意地悪でボツと言ってやろうと思っていたのに、ホンキのホンキでクソつまんない脚本だった。読む価値ナシ。
三流どころか四流の脚本家が書くようなご都合主義展開。ヤマ場も無ければヒキも無い。ナイナイ尽くしのストーリーだった。せめて自分の体験談でも書けばもう少しマシにはなるのに、そういうのは思いつかないのね。
結果を伝えようと思って、秋也に涼二を脚本家バーに呼び出してもらい、再び電話で話した。
「そうよ。あんな脚本しか書けないのに、秋也から推薦を受けたの? それとも今回はたまたま?」
『あ……いやあの……なにが悪かったのでしょうか……』
「え。悪いところがどこかもわからないの? あなた本気で脚本家目指しているのよね?」
『はい!』
「やる気だけじゃどうにもならない世界よ。とにかくやり直して。じゃなきゃ、採用なんて夢のまた夢。あなたの脚本なんか、読む価値なし」
無情に言って電話を切った。
ふふ。こうやって傷ついた涼二を、秋也が慰めていく。慰められているうちに、秋也に気持ちが依存していく――
妻にも冷たくされて、愛人とはもめて、飲みに行っても女性に相手してもらえなくて(天魔のネットワークで、飲み屋で涼二には冷たくしてもらうようにお達しをしてもらった)心折れたところに、秋也が入り込む。
さあ、見せてよ涼二。あなたがどこまで耐え抜いて、それで、耐え切れなくなって堕ちていく様子を。
私は、次の日も、次の日も、その次の日も、涼二を罵倒した。
今まで散々な目に遭わされてきたから、すっきり気持ちいい!
モニター越しに見ると、もう涙を浮かべて震えている。プライドもズッタズタのボッロボロなんでしょう。
『涼二、気にしなくていいよ。ボクは君の脚本、すごく面白いと思うんだ。でも、今のニーズには少し合っていないだけだよ』
『また頑張ろうよ! 諦めなかったら、いつか叶う夢だよ』
『涼二はボクが見つけた、才能のある男なんだ。くじけずに頑張って!』
そんな状態が暫く続けられ、遂に涼二が仕事を辞める日がきた。
会社の同僚から特段の見送りもなく、長年勤めてきた会社をあっさり終わり、せめて飲みに行こうと彼は行きつけのクラブへやってきた。この様子は盗聴アプリを通じて私も見ている。ふふ。
涼二が入口に入るなり、ボーイが険しい顔をした。
「すみません、あなたの入店はお断りするように言われております」
「は? 僕が出禁ってこと? ふざけんな!」
「しかしそのように登録されておりますから、お引き取りを」
行きつけの店に断られたので、別の店へ向かっている。キャバレークラブなら、出禁もないし大丈夫だろうと踏んだのか。こんなことは初めてだろうから、かなり困惑した様子みたいね。
違う店に入ると、やはり先ほどのクラブ同様、中には入れてもらえなかった。知っている子がいたみたいなので声をかけたら、「キモい、こっち見ないでくれる?」と酷い言われようだった。
涼二、おもしろいドラマを見せてくれてありがとう。胸がすっとしていくわ。
行く先々で断られたので、脚本家バーに向かう涼二。この時点でボロボロですでに涙目だった。
扉を押し開け、中に入る。
「いらっしゃい」
爽やかに秋也が声をかけてくれたので、涼二は思わず涙ぐみ、カウンターに突っ伏して洗いざらい不満をぶちまけた。その姿はかつて浮気相手の理咲と豪遊していた面影など微塵もない。
「どうしたの、涼二。今日仕事納めじゃなかったっけ?」
「ん。いろいろあってさ……」
「そっか、辛かったんだね」
秋也が涼二を抱きしめる。「大丈夫だよ。ボクがついてる。さ、あったかいお茶でも飲もう」
「秋也……」
涼二はまだ、友情から秋也が力になり、あなたを応援してくれていると思っているんでしょうね。
でも、違うから。
秋也は、あなたを罠に嵌めるために用意した男なのよ。
男としてのプライド、夫としての自尊心、脚本家としての野心。すべてを冷美(私)にズタズタに引き裂かれ、更に職場の人間やお金を払って相手にしてもらうキャストにさえそっぽを向かれた後の彼にとって、秋也の差し出す手は救いの神そのものに見えただろう。
(そうよ、涼二。もっと縋りなさい。もっと依存しなさい)
私は自宅のPC前で、ワイングラスを傾けながら笑った。
「泣かないで、涼二。君が辛いとボクも辛いよ」
「秋也……なんかごめん……」
「これからはたくさん脚本書けるから、冷美さんを見返してやろうよ! 応援するからさ」
情熱的な瞳を向け、秋也が涼二を見つめる。
「今夜は飲もう! 涼二のおごりで!」
「あ。ご馳走してくれるんじゃなかったのか? ひどいな」
「だって、涼二のために店を開けているようなものだよ。ぜんぜんお客が来ないから、困っているんだ。売り上げ貢献してよ」
「わかった。しょうがないな」
「嬉しい! 涼二大好き」
天魔の極上の笑みが、涼二を捕らえる。
わかる。今、すごくドキっとしたでしょ。私もそうだから。
天魔ってすごいのよ。彼に見つめられたら、誰でもきゅっと心を掴まれて、男でも女でも関係なく、天魔の虜になってしまうの。
もう、ここからは堕ちるしかない。
涼二が秋也に堕ちていると気が付いた時は、きっと地獄の入り口に立っていることでしょう。
その時は私が迷わず後ろから背中を押して、
中へ突き落としてあげるからね――
コメント
1件
えっ、この回ヤバすぎた……!!😭💥 冷美さんの復讐がこんなに緻密で容赦ないなんて思わなかったよ…。涼二が会社辞めてまで行きつけの店で断られて、誰にも相手にされず、最後に秋也にすがるしかなくなるシーン、鳥肌立ったよ…。しかも秋也は味方じゃなくて罠を仕掛けるために用意した男だったなんて…!これから涼二が秋也に堕ちていく恐怖と、でも見てみたい気持ちがぐちゃぐちゃ🥺💦 次回が楽しみすぎる!!