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コメント
1件
おお、第7話読んできたで!白霧山の霧と嵐の演出、めっちゃ臨場感あってゾクゾクしたわ。特にジントだけが道を見通せた「山の意思」っぽい展開は、彼の謎がさらに深まって興味津々や。仲間たちの掛け合いも相変わらず自然で、シュンタの怖い話に慌てるダイチが可愛かったな。次回、この避難所で何が待ち受けてるんやろな…続きが気になる!🔥
第十章 白霧山の彼方へ
第六話 白霧山の意思
帝都を出発して四日目。
一行は白霧山の深部へ少しずつ近づいていた。
日のあるうちに進み、夜は野営をする。
そんな旅の流れにも五人は徐々に慣れ始めていた。
初日の魔物襲撃以来、夜は必ず結界石を設置するようになった。
帝都や市街に設置されている物ほど強力ではないが、簡易的な結界でも通常の魔物なら十分避けられる。
おかげであの日以降は大きな襲撃もなく、 一行は比較的安定して旅を続けられていた。
だが山道は進むほど険しさを増していく。
頭上では、大木の枝葉が幾重にも絡み合い、空をほとんど覆い隠していた。
昼だというのに薄暗い。
湿った土の匂いと、深い森特有の冷たい空気が漂っている。
細い山道を馬達は慎重に進んでいた。
途中、倒木が道を塞いでいる場所もある。
急な斜面を横切るように歩いたかと思えば、今度は大きな岩を乗り越えるように進まなければならない。
「うわっ、狭っ……」
ダイチが木の根へ足を取られそうになりながら呟く。
「馬の方がよっぽど器用やな……」
「山道に慣れた馬だからな」
ハヤトが前方を確認しながら答えた。
ジュウタロウも周囲へ視線を巡らせる。
「……ここまで自然が深い山は久しぶりだ」
白霧山。
自然豊かで、
壮大な美しさを持つ山。
だが同時に、人々から“霊山”として恐れられている場所でもあった。
その理由は、昔からこの山を越えた者達が語る不可解な体験談にある。
突然、嵐のような雨風へ襲われた。
深い霧に包まれ、気づけば道を見失っていた。
見たこともない獣を見た。
誰もいないはずの森から、不思議な声が聞こえた。
そんな話が昔から絶えない。
まだ昼だというのに薄暗い木々の下、シュンタはわざと声色を低くしながら語り始めた。
「オレんとこの旅団仲間が言うにはなぁ……」
勿体ぶるように振り返る。
「白霧山で、夜中に誰かに名前を呼ばれたらしいで」
「うわ、始まった」
ダイチが露骨に嫌そうな顔をした。
「しかも振り返ったら、そこ誰もおらんねん」
「やめろ」
「でもなぁ」
シュンタは楽しそうに続ける。
「次の日、一緒におった仲間に、“お前、昨日の夜中突然起き上がって、森の奥に行こうとしとったぞ”って言われたらしい」
「…………」
ダイチが無言になる。
その反応が面白かったのか、シュンタが吹き出した。
「なんや、怖いん?」
「怖ないわ!!」
「顔引きつっとるで」
「気のせいや!」
賑やかに言い合う二人。
一方ジントは、木々の隙間から差し込む僅かな光を見上げていた。
風が吹く度、枝葉がざわりと揺れる。
その音はどこか、本当に“何か”が潜んでいるようにも聞こえた。
気付けば、木々の隙間から差し込んでいた僅かな日の光も、ほとんど届かなくなっていた。
同時に冷たい空気が辺りを覆う。
思わず身震いするような寒気。
先頭を歩いていたハヤトが、馬の歩みを緩めながら振り返った。
「……なんだか妙な気配がしないか?」
「もうハヤちゃんやめてぇや!」
シュンタが即座に声を上げる。
「さっきシュンタがあんな話するからや!」
ダイチも半ば本気で文句を言った。
ジュウタロウは何も言わず、静かに周囲を見回している。
その時だった。
ジントが、じっと細い道の先を見つめながら小さく呟く。
「……来る」
「え?」
ダイチが聞き返した瞬間。
ぶわり、と。
視界を覆うように濃い霧が一気に立ち込めた。
「うわっ!?」
突然の異変に馬達が大きく嘶く。
パニックを起こしかけ、激しく暴れ始めた。
ジントは咄嗟に、ダイチの腰へ回した腕へ力を込める。
「うわぁっ!」
「どうどうどう……!だ、大丈夫やで!」
ダイチは慌てて馬へ声を掛け、首筋を撫でて落ち着かせようとする。
周囲でも皆それぞれ馬をなだめていた。
「みんな、大丈夫か!?」
霧の向こうからハヤトの声が響く。
「なんとか!」
「問題ない!」
「生きとるー!」
それぞれの返事を聞き、ハヤトは小さく安堵の息を吐いた。
「……この霧では動けないな」
ハヤトは魔石灯を取り出し、光を灯す。
だがその光さえ、霧の中ではぼんやりと滲むだけだった。
ジュウタロウ、シュンタ、ダイチもそれぞれ灯りを灯す。
霧に包まれた薄暗闇の中、ぼんやりと四つの灯りだけが浮かび上がった。
気付けば、さっきまで聞こえていた鳥の声も、木々のざわめきも消えている。
辺りには奇妙な静寂だけが漂っていた。
その時。
「ダイチ、こっち」
ジントが静かに言った。
霧の奥へ、そっと指を差す。
「え!? ジント、道分かるん!? ていうか見えんの!?」
ダイチが驚いた声を上げる。
ジントは小さく頷いた。
「うん……何かわかる」
黒い瞳が、霧の奥を真っ直ぐ見つめている。
「こっち。みんなも、ゆっくり着いてきて」
ダイチは少し迷いながらも、ジントの指し示す方向へ馬を歩かせた。
その後を、三人もぼんやりとした灯りを頼りに静かに続く。
聞こえるのは馬の足音。
そして、自分達の緊張した息遣いだけ。
しばらく進むと。
ふっ、と。
急に霧が晴れた。
薄暗かった森へ再び光が差し込む。
風が木々を揺らし、葉擦れの音が戻ってきた。
まるで、森そのものが息を吹き返したようだった。
「……もう大丈夫」
ジントがそう呟く。
一同はようやく、ふぅっと大きく息を吐いた。
ハヤトがジントを見つめる。
「今のは……何だったんだ?」
ジントは少し困ったように目を伏せた。
「うーん……何となくだけど」
言葉を探すように続ける。
「あの霧から、何か悪意みたいな……拒まれてるような感じがした」
「山の意思……みたいな?」
シュンタが小さく呟く。
「じゃあ、なんで道分かったん!?」
「道がちゃんと見えてたわけじゃなくて……」
ジントは自分でも不思議そうに首を傾げる。
「なんか導かれてる感じもあって」
大きな黒い瞳が、不安そうに揺れた。
「自分でも、よく分からない」
「……山の意思か」
ジュウタロウが静かに呟く。
「立ち入るな、ということか……」
「でもジントだけ、別の何かに導かれた?」
ハヤトも考え込むように目を細めた。
不安そうに俯くジントへ、ダイチが明るく声を掛ける。
「ジント凄いやん!」
ぽん、と肩を叩く。
「お陰でオレら助かっとるし!」
「そうやね!」
シュンタも笑いながら頷いた。
辺りには再びいつもの空気が戻ってきていた。
けれどジントの表情だけは、まだどこか晴れないままだった。
ーーー
濃霧を抜けた一行は、
慎重に、しかし出来るだけ足早に歩みを進めた。
木々は再び日の光を遮り、冷たい風が森を吹き抜けていく。
またいつ何が襲ってくるかわからない。
そんな恐怖と不安を抱えながら、一行は山頂へ続く道を歩き続けた。
やがて日が傾き始めた頃。
風景は、大きな赤茶けた崖が眼前へそびえ立つ、殺風景な岩場へと変わっていた。
大小様々な岩が重なり合い、 歪に隆起した地形。
周囲の崖には、自然に削られたような窪みがいくつも口を開けている。
先頭を歩いていたハヤトが周囲を見回しながら口を開いた。
「そろそろ、この辺りで野営できる場所を探しておきたいのだが——」
その時だった。
——ゴォォォッ!!
突然激しい突風が岩の間を吹き抜けた。
「うわっ!?」
風に煽られ、馬達が大きく嘶く。
同時に、頭上へ黒い雲が一気に広がっていく。
ゴロゴロゴロ……、と。
空が低く唸るような音を立て始めた。
「……っ、ここ危険や!」
ダイチが顔を上げる。
次の瞬間。
バチィッ!!
白い雷光が空を裂いた。
直後、 低く轟く雷鳴。
叩きつけるような豪雨。
猛烈な風が岩場を吹き荒れ、雨粒が肌へ痛いほど打ち付ける。
「うわっ……!」
ジントは思わず目を閉じた。
視界は一瞬で白く霞み、轟く雷鳴が山全体を揺らしている。
馬達は完全に怯えきっていた。
「落ち着け、落ち着け……!」
ハヤトが必死に手綱を引く。
ジュウタロウも雨風を耐えながら、
馬を庇うように身体を寄せた。
そして。
強烈な雷光、それと同時に。
——ドォォォンッ!!!
地面まで揺れるような轟音。
すぐ近くへ雷が落ちた。
「うわぁっ!!」
シュンタが思わず身を縮こませる。
「いやいやいや!!近い近い近い!!」
吹き付ける突風に、ジントは目を開けるのもやっとだった。
ダイチが振り返る。
「ジント、大丈夫か!?」
「う、うん……!」
だが、会話さえ風に掻き消されそうになる。
「とにかく、隠れられる場所を探すぞ!!」
ハヤトの声が響く。
一行は雨風へ耐えながら、足早に岩場を進み始めた。
その間にも 嵐はどんどん激しさを増していく。
雷鳴。
豪雨。
吹き荒れる風。
まるで山そのものが、何かを試しているようだった。
そして——。
「……あれ!」
ジントが前方を指差した。
崖の斜面が、大きく抉れたような窪み。
雨風を凌げそうな空間が見える。
「こっちだ!!」
ハヤトが叫ぶ。
一行は急いで駆け込んだ。
入り口には、まるで塞ぐように巨大な岩が立っている。
その隙間を通り抜け、ようやく中へ滑り込んだ。
途端。
嵐の音が少し遠くなる。
「はぁっ……」
ダイチが大きく息を吐いた。
中は真っ暗だった。
それぞれ魔石灯を灯し、入り口近くの比較的開けた場所へ馬を繋いでいく。
馬達はぶるぶると濡れた身体を震わせながら、ようやく落ち着きを取り戻していた。
窪みの奥は意外と広い。
立ったままでも余裕がある高さで、奥行きもかなり深そうだった。
「……ひとまず、ここで休もう」
ハヤトがようやく肩の力を抜く。
「それにしても何なん!? この突然の嵐は!」
ダイチが髪から滴る雨水を払う。
「何か……試されているようだな」
ジュウタロウが静かに呟いた。
「もうパンツまでびしょびしょやわ〜……」
シュンタはうんざりした表情で外套を脱ぐ。
その時
「……クシュン」
ジントが小さくくしゃみをした。
一瞬、全員の視線が集まる。
「だいぶ身体冷えてるな」
ダイチが心配そうに顔を覗き込む。
「まずは一旦、それを何とかしないと」
外ではまだ、嵐の音が響いている。
だがそれは先ほどより、少しだけ遠く感じられた。
小さな避難場所の中。
五人の顔には、ようやく安堵の色が浮かんでいた。