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「……..どろり君達は三人でボランティア部をしてるのよね。自分達で部活を立ち上げるなんて大したものだわ。」
上品に紅茶を飲みながらロカ先生は言った。
「いえいえ、そんなことはないですよ。
《手を伸ばせば届くだけの世界を変える》
ために出来ることからコツコツやってる
だけです。」
どろりはロカ先生に微笑みながら言った。
どろりはなんとしてでもこの局面を乗り切り、ロカ先生の 警戒を解きたかった。
「私は、今我が校の七不思議の調査を行ってるの。万が一能力者が能力を悪用してるとしたら大変だものね。……どろり君達は
《トイレの亡霊》という噂に心当たりはないかしら?」
そう言ってロカ先生はアップルパイを一口食べた後、じっとどろりの目を見つめた。
「実は僕達も《トイレの亡霊》の正体を
追っていたんです。僕達ボランティア部の
SNSに《トイレの亡霊を調査して欲しい》
という依頼が来たので、僕ら三人で放課後、
トイレの調査をしていたんです。」
そう言ってどろりはSNSの依頼の欄を見せた。
そこには確かにどろりのいう依頼文があった。
この依頼はどろりが別のスマホのアカウントから送信した自作自演の依頼文であった。
どろりはロカ先生に尋問をされた時のためにあらかじめいくつかの用意をしていたのだ。
ロカ先生は冷ややかにどろりの様子を見た。
ロカ先生は軍人としての経験と教師としての
経験から生徒の嘘を見抜く観察眼を有していた。
……しかし、百戦錬磨の《擬態型》。
どろりの擬態はそのロカ先生の 観察眼を欺いて見せた。
(脈拍、表情、声のトーン、目の動き…..
どれをとっても異常はない。本当に嘘は
ついてないのか?ここは少し揺さぶりをかけるか ……。)
どろりはまだ能力も身体能力も未熟な能力者だった。
しかしその《擬態》の技術だけは あのロカ先生を欺くほど巧妙で洗練されていた。
どろりは既に《擬態型》としての極致に立っていた。
しかし、相手はあのロカ先生。
これだけでは 終わらなかった。
ロカ先生はおもむろに席を立った。
「どろり君、肩に糸屑がついているわよ。
とってあげるわね。」
そう言ってロカ先生は冷ややかに笑った。
どろりは動かなかった。
いや、動けなかった。
ここで動けば、自分達は疚しいことを
していますと言っているようなものだからである。
ロカ先生の肩がどろりの手に触れた。
ここでロカ先生が《エンプレス•ディスコ》
を発動すればどろりの能力は破壊されてしまう。
ロカ先生はどろりの顔を見つめた。
….. どろりの顔に動揺はなかった。
(心拍数も呼吸も変化なし。 …..本当に
心当たりがないようね。)
そうしてロカ先生はどろりの肩から手を放した。
どろりの驚異的な精神力と擬態能力が
ロカ先生の 観察眼を僅かに上回ったのだ。
「……..はい、糸屑はとれたわよ。ただ、 亡霊の正体は凶悪な能力者の可能性があるわ。
あなた達にも能力があるとは言え危険だから
トイレの亡霊の調査は先生に任せなさい。」
「分かりました。ロカ先生、よろしくお願いします。」
そうやってどろりは頭を下げた。
「ロカ先生~熱々のアップルパイにアイスクリーム乗せるともっとおいしーですよー。はい、 《ミルククラウン•オン•ソーネチカ》~。」
そう言って曽根近がロカ先生のアップルパイにアイスクリームを乗せた。
「ありがとう、曽根近さん。ありがたくいただくわ。」
そう言ってロカ先生はにっこりと笑った。
《まだまだ尋問は続く。》
次に狙われたのは海街心蔵だった。
たとえ0.01%でも怪しいものは徹底的に調べる。
それがロカ先生の信条だった。
「海街君はどうしてボランティア部に入ったのかしら?こんなことを言うのは失礼だけど、海街君は自分以外の人には興味がない。
そう言うタイプに見えるのだけれど。」
アイスクリームがほんのりと溶けたアップルパイを食べながらロカ先生は海街に尋ねた。
実際、ロカ先生の見立ては当たっていた。
海街は自分と自分の世界以外にまるで興味が
なかった。
海街は軽いバイトのような感覚で どろりの《ボランティア活動》に協力していたのだった。
それで誰が死のうが消えようが
海街は心の底から、どうでもよかった。
「…..はじめは、どろりに頼まれて渋々入部しました。でも今はこの部活、結構気に入ってますよ。こうやって美味しいアップルパイも食べれてますし。」
そう言って海街はお茶を濁した。
ロカ先生は 海街の様子を具に観察した。
海街の心音は まるで凪の海のように静かだった。
海街の《深海シティーアンダーグラウンド》
は空間を維持するのに莫大な集中力と精神力を要した。
そのため海街は蛸の腕に握り潰されそうになっても怯まず、ロカ先生の冷ややかな視線を浴びても動じない鋼の精神を身につけていたのだった。
「….そう、それなら今後も精進するといいわ。 さて、恋原さん……恋原さん?大丈夫かしら ものすごく汗だらだらだけど。」
「い、いえいえー☆ …….気にしないでください……!!!ボク…..今日、女の子の日なんでぇ…….!!!!」
表裏一体はどろりのように嘘が上手いわけでも海街のように鋼の精神を有しているわけでもなかった。そこで表裏一体は裏技を使った。
(《裏表ラバーズ、警告音》!!
性別を操る能力をコントロールすることで
無理やり生理痛を引き起こすボクの裏技ッ…..!!この技を使えば血を出さずに生理痛を
引き起こすことが出来るッッ…..!!!!!
正直使う機会はないと思ってたけどまさか
こんな場面で使うことになるとは…..!!!)
表裏一体はどろりが尋問を受けている最中に
口をハンカチで拭くふりをしてさりげなく唇に指を触れ、能力を発動していた。
これにより、痛みによる発汗と心拍数の増加によって尋問による動揺を隠そうとしたのだ。
(いや、流石に無理があるぞ表裏一体……。)
(終わった…….。)
どろりと海街は決して表情には出さなかったがすでに諦めムードだった。
「そう…….それは辛いわね。もししんどいようだったら保健室の仮眠ベットで休憩しなさい。」
そう言ってロカ先生は尋問そっちのけで
表裏一体を心配した。
(マジかよいけたぞ表裏一体……!!)
(危なかった……..。)
どろりと海街は決して表情には出さなかったがそうやって安堵した。
《しばらく経った後。》
「それじゃ、私はそろそろおいとまするわね。」
そう言ってロカ先生は去っていった。
「おいしい紅茶、ありがとうございましたー!!」
「またいっしょにお茶会しましょー☆」
姉ヶ崎と表裏一体が手を振りながらロカ先生に言った。
表裏一体はまだおなかが痛むのか おなかに手を添えていた。
「どろり君達も今日はありがとねー。
またいつでも遊びに来てね。」
そうやって姉ヶ崎はどろり達に微笑みかけた。
「お世話になりました。」
「…..アップルパイ、美味しかったです。」
「おねえちゃーん、そねちー、白雪ちゃーん
それにお料理クラブのみんなー☆また遊びにくるねー!!!」
「「「「またねーー!!!」」」
こうしてお料理クラブの元を去ったどろり達は通学路の誰もいない路地裏で作戦会議を
行った。
「《深海シティーアンダーグラウンド》。」
そう言って海街は目をつぶり、《ボランティア部》の三人は異空間へと引きずり込まれた。
「…….なんとか誤魔化せた….のか?」
どろりはそう言ってその場でへたりこんだ。
「 ……へへー☆ボク、ファインプレーでしょ?」
満身創痍の表裏一体が言った。
「あぁ……。ただ無茶しすぎだ……。
寿命が10年くらい縮んだわ…….。」
疲労困憊のどろりが言った。
「……とりあえず、これで警戒は解けたのか?」
海街も冷や汗をかきながら言った。
「いや、まだ油断できない。今後もロカ先生に注意しながら動こう。それと….表裏一体の裏技はそう何回も連発できないから何か
別の案を考えておかないとな………。」
「えー、ボク嘘つくのとか苦手だからなー ….。」
こうして大ピンチを乗り越えた《ボランティア部》の三人。
そんな彼らの元に、更なる大ピンチが訪れることを、彼らはまだ知らなかった。
(最後まで読んでくださりありがとうございました。)