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るる太📱⚡🐼
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第7話 人気の法則
月曜日。
午後七時十二分。
立花湊は夕食を終え、Linkcityへ戻った。
中央広場。
いつも通り、人が多い。
仕事を終えた利用者。
学校帰りの学生。
旅行へ向かう集団。
ゲームスポットへ急ぐ人。
上空を飛んで移動するアバター。
広場の中央には巨大なおすすめ表示が浮かんでいる。
今夜の人気ワールド。
一位。
星降る迷宮都市。
現在利用者。
三百八十二万人。
二位。
毎日変わる大遊園地。
二百九十一万人。
三位。
一万人料理対決。
百七十三万人。
湊は何となく眺めた。
普段なら、そのまま通り過ぎる。
今日は止まった。
視界の端に別の通知が出たからだった。
友人のワールドが急上昇しています。
「友人?」
開く。
風の終点。
湊の動きが止まった。
現在利用者。
一万二千八百四十四人。
「え?」
もう一度見る。
数字は間違っていない。
むしろ増えている。
一万二千九百。
一万三千。
前に訪れたとき。
十二人だった。
累計訪問者も三百人に届いていなかった。
湊はすぐに日高奏太のプロフィールを開いた。
オンライン。
風の終点。
そこへ転送する。
景色が切り替わった。
草。
道。
風。
以前と同じ。
違うのは。
人。
「多っ」
湊の前を十人以上のアバターが歩いている。
遠くにもいる。
橋にも。
川の近くにも。
丘にも。
前回は人を探す方が難しかった。
今日は逆だった。
少し進むと、入口付近に案内が追加されている。
混雑しています。
静かな体験を希望する場合は分散区域をご利用ください。
「分散区域までできてる」
後ろから声。
「湊!」
振り返る。
宮原結衣が走ってくる。
長い紫色の髪。
黄色の上着。
グレーのスカート。
その後ろから新堂理央。
灰色の短い髪。
モカ色のシャツ。
「見た?」
結衣が言う。
「見た」
「一万人いる」
「さっき十二人だったのに」
「さっきじゃないよ。前回」
「感覚的にはさっき」
「奏太どこ?」
理央が利用者一覧を開く。
制作者。
日高奏太。
管理区域。
「管理区域?」
「行ってみよう」
三人は制作者用の案内をたどった。
丘の裏側。
一般利用者からは見えにくい場所。
小さな管理室。
中へ入る。
大量の画面。
利用者数。
滞在時間。
混雑地点。
サーバー分散状況。
評価。
お気に入り。
そして。
中央に奏太。
少し長めの黄緑の髪。
紫色のパーカー。
茶色のパンツ。
画面を見つめたまま動かない。
「奏太」
湊が呼ぶ。
奏太が振り返った。
「あ」
「大丈夫?」
「分かりません」
「何があったの?」
「僕が知りたいです」
結衣が近づく。
「一万人いるよ」
「いますね」
「嬉しくないの?」
「嬉しいです」
奏太が画面を見る。
現在利用者。
一万四千。
「嬉しいんですけど」
また増える。
一万四千二百。
「怖いです」
「なんで?」
「昨日まで二十人ですよ」
湊は思わず笑った。
「確かに」
「今朝起きたら三百人で」
「うん」
「昼休みに見たら二千人」
「うん」
「仕事終わったら一万人」
「それは怖いな」
「でしょう?」
奏太が履歴を開く。
グラフ。
昨日まで。
低い線。
ほぼ動かない。
今日の午前九時。
少し上昇。
午前十一時。
急上昇。
午後二時。
さらに上昇。
午後六時。
ほとんど垂直。
結衣がグラフを見る。
「何したの?」
「何も」
「更新?」
「してない」
「宣伝?」
「昨日はしてません」
「有名な人が来たとか?」
「それも分からない」
理央が画面を拡大する。
流入元。
検索。
三パーセント。
友人経由。
七パーセント。
外部共有。
四パーセント。
おすすめ。
八十六パーセント。
三人が止まる。
「おすすめ」
湊が言った。
奏太が頷く。
「今朝から急に」
結衣が中央広場のおすすめ画面を開く。
自分向け。
散歩。
静かな場所。
長時間滞在。
風の終点。
表示されている。
「私にも出てる」
「俺にも」
理央が言う。
湊も確認する。
出ている。
昨日までは一度も見たことがなかった。
「何で急に選ばれたんだろ」
結衣が聞く。
奏太が首を振る。
「分からないです」
そのとき。
管理室の入口が開いた。
一人の女性型アバターが入ってくる。
肩までの緑の髪。
ベージュのシャツ。
紫色のジャケット。
グレーのパンツ。
丸い眼鏡。
「日高さんですね」
奏太が振り返る。
「はい」
「Linkcityクリエイター支援部門の小森です」
女性が軽く頭を下げる。
「急激な利用者増加を検知したので、負荷状況の確認に来ました」
「お願いします」
「現時点では問題ありません。自動分散が動いています」
奏太が少し肩を下げる。
「よかった」
小森七海は画面へ近づいた。
利用者数を見る。
「かなり伸びましたね」
「何が起きたのか分からなくて」
「おすすめですね」
「それは分かるんですけど、何で僕のワールドが?」
「確認してみましょうか」
「分かるんですか?」
「ある程度なら」
小森が分析画面を開いた。
大量の数字。
湊には何が何だか分からない。
結衣も目を細める。
「これ全部見るんですか?」
「全部は見ません」
小森が項目を絞る。
最初に表示されたのは。
初回離脱率。
「離脱?」
「ワールドへ入った利用者が、すぐ出ていく割合です」
風の終点。
入場後一分以内。
六パーセント。
「低いですね」
小森が言う。
「低いといいんですか?」
「少なくとも、入ってすぐ帰る人が少ないということです」
比較。
同分類平均。
二十八パーセント。
結衣が驚く。
「そんな帰るの?」
「新着ワールドではもっと高い場合もあります」
「何で?」
「入口で想像と違ったと判断したり、読み込みを待てなかったり、目的が分からなかったりですね」
次。
平均滞在時間。
風の終点。
二十八分。
同分類平均。
十一分。
「長い」
理央が言う。
「歩くだけなのに」
奏太が少し笑う。
「歩くだけだからかもしれません」
小森が頷く。
「その可能性はあります」
次。
完走率。
入口から終点まで到達した利用者。
七十一パーセント。
再訪率。
三十四パーセント。
お気に入り率。
三十九パーセント。
友人共有率。
十八パーセント。
小森が画面を指で送る。
「利用者数は少なかったですが、中身の数値は以前からかなり良かったようです」
「でも人気なかったですよ?」
奏太が言う。
「発見されていなかったからです」
「発見」
「前回までの問題は作品そのものより、最初の利用者数だった可能性が高いですね」
湊は前回を思い出した。
累計二百八十三人。
お気に入り百十二。
人数は少なかった。
でも。
来た人のかなり多くが気に入っていた。
「じゃあ、少ない人数の中では評価されてた?」
「そうです」
小森がグラフを出す。
「ただし、おすすめAIは少人数のデータだけで大規模推薦を始めません」
「何で?」
結衣が聞く。
「偶然かもしれないからです」
「ああ」
「例えば五人が来て、五人全員が一時間滞在したとしても、その五人が制作者の友人なら一般利用者にも同じ反応が起こるとは限りません」
理央が頷く。
「ある程度人数が必要なんだ」
「はい」
小森が昨日の履歴を表示した。
午後八時四十二分。
訪問者。
一人。
その一人から友人共有。
そこから五人。
五人からさらに共有。
二十七人。
二十七人の滞在時間。
平均三十一分。
お気に入り率。
四十四パーセント。
その中から再び共有。
「ここです」
小森が一点を指した。
「昨日、友人経由で小規模な利用者増加が起きています」
「二十七人だけ?」
結衣が言う。
「はい。ただ、その二十七人の反応が非常に良かった」
「それでおすすめに?」
「まず小さな推薦試験に入ったようです」
午前九時。
おすすめ表示。
対象。
約五百人。
そのうち。
四十三人が入場。
「少なくない?」
「表示された全員が入るわけではありませんから」
四十三人。
平均滞在。
二十六分。
お気に入り。
十七人。
共有。
九人。
「反応が維持されたので、次の推薦へ広がります」
対象。
五千人。
入場。
四百二十一人。
反応。
良好。
次。
五万人。
次。
三十万人。
次。
百万人。
段階的に増えている。
湊はグラフを眺めた。
「一気に一万人へ紹介したわけじゃないんだ」
「そうですね。少しずつ試しています」
結衣が腕を組む。
「じゃあ人気の法則って、滞在時間?」
「それだけではありません」
小森が言った。
画面に項目が並ぶ。
入場率。
離脱率。
滞在時間。
再訪。
お気に入り。
共有。
不具合。
通報。
負荷。
利用者満足度。
似たワールドへの行動。
時間帯。
利用環境。
「多い」
結衣が言う。
「これでも一部です」
「じゃあ全部高くすれば人気になる?」
「そうとも限りません」
「え?」
「おすすめは利用者ごとに違いますから」
小森が湊を見る。
「立花さんは散歩ワールドへ行くことがありますか?」
「たまに」
「宮原さんは?」
「旅行とゲームが多いです」
「新堂さんは?」
「探索系ですね」
三人のおすすめ画面を並べる。
違う。
湊には。
散歩。
街。
仕事関連。
旅行。
結衣には。
旅行。
ゲーム。
飛行。
交流。
理央には。
探索。
ゲーム。
謎解き。
創作。
「同じ人気ワールドでも、全員へ同じように表示されるわけではありません」
「じゃあ」
結衣が風の終点を見る。
「これ、私に出たのは?」
「最近、似たワールドへ行ったからでは?」
「似たワールド……」
結衣が湊を見る。
三人とも思い出す。
前回。
風の終点へ一緒に来ている。
「一回来たからか」
「再訪候補ですね」
小森が言う。
結衣が少し考える。
「じゃあ、おすすめAIに選ばれる作品と、埋もれる作品の差って何?」
「一言では言えません」
小森はすぐ答えた。
「良い作品だから必ず人気になるわけではありません」
奏太が小さく笑う。
「それは分かります」
「反対に、人気だからすべての利用者にとって良い作品とも限りません」
湊が中央広場のランキングを思い出す。
何百万人。
巨大ワールド。
企業作品。
でも。
風の終点は三か月、ほとんど誰にも知られていなかった。
「AIは作品を見て面白いって判断してるわけじゃない?」
湊が聞く。
「内容そのものも分析します。ただ、それだけで決めるわけではありません。実際に利用者がどう動いたかが大きいですね」
「入った」
「歩いた」
「残った」
「また来た」
「友達へ送った」
「そういう行動です」
小森が一つずつ頷く。
「ただし、それを狙って不自然に作れば必ず成功するというものでもありません」
「滞在時間を長くするために出口なくすとか?」
結衣が言う。
「それはむしろ評価が下がる可能性があります」
「やっぱり」
「利用者が困って長時間いるのと、楽しんで長時間いるのは違いますから」
「そこまで分かる?」
「退出後の行動や通報、再訪など、複数の情報を合わせます」
奏太が自分のワールドを見る。
「僕、何も考えてなかったです」
「何を?」
「おすすめ」
「制作中に?」
「はい。歩いていて気持ちいい場所にしたかっただけで」
奏太が遠くを見る。
利用者が道を歩いている。
誰かが橋で止まる。
誰かが草の近くへ座る。
誰かが友人と話している。
「人気にしたかったですけど、数字を狙って作ってはいなかったです」
「結果として、利用者が残ったんでしょうね」
小森が言った。
そのとき。
現在利用者。
二万。
奏太が固まる。
「二万になった」
結衣が言う。
「見ないようにしてたのに」
「ごめん」
また増える。
二万一千。
奏太が管理画面を閉じた。
「もう今日は見ません」
「絶対見るでしょ」
「見ます」
全員が笑った。
小森は負荷状況を確認すると、管理室を出ていった。
奏太たちも外へ出る。
風の終点。
人は増えている。
それでも、道そのものは以前と変わらない。
風。
草。
川。
橋。
終点まで続く道。
四人は歩き始めた。
途中。
結衣が急に止まる。
「私の大きいソファは?」
「何が?」
「おすすめに入る可能性」
「まだ諦めてなかったのか」
「累計八人だよ」
「まずデータ足りないだろ」
「じゃあ百人呼べばいい?」
「友達無理やり呼ぶのは違うんじゃない?」
「そもそも百人友達いるの?」
「Linkcityならいる」
「じゃあ呼ぶ?」
「やめとく」
結衣が歩き出す。
「なんで?」
「おすすめに入るためだけに呼ぶの、なんか違う」
「成長したな」
「何目線?」
道の途中。
以前はなかった看板。
奏太が追加したものではない。
利用者が残した共有スポットだった。
ここからの景色が好き。
その下に小さな記録。
お気に入り。
八百三十二。
奏太が立ち止まる。
「これ、知らなかった」
「利用者が作ったの?」
「共有メモですね」
奏太がその場所へ立つ。
草の間から。
遠くの川。
丘。
終点。
確かに景色がよく見える。
「制作者なのに知らなかった?」
結衣が聞く。
「ここから見たことなかったです」
「作った人より利用者の方が詳しくなってる」
「そうかもしれない」
奏太が少し笑う。
「人気になるって、こういうことなのかな」
「どういうこと?」
「自分が作ったものなのに、自分だけのものじゃなくなる感じ」
その横を、知らない利用者たちが通り過ぎる。
「この先いいよ」
「終点まで行こう」
「友達呼ぶ?」
「呼ぶ」
会話が遠ざかる。
奏太は聞いていた。
三か月。
ほとんど誰も来なかった。
毎日。
一人。
二人。
ゼロ。
それでも消さなかった。
今は。
知らない人同士が、次の人を呼んでいる。
AIがおすすめする。
人が入る。
人が気に入る。
友人へ送る。
その行動をAIが見る。
さらに別の人へおすすめする。
輪が広がる。
「AIが人気を作ってるのかな」
結衣が言った。
理央が考える。
「半分くらい?」
「残りは?」
「人じゃない?」
「最初にAIが出さなかったら誰も来ないよ」
「でも入った人がすぐ帰ったら、次に広がらない」
湊が言った。
結衣が頷く。
「どっちもか」
「たぶん」
四人は終点へ向かった。
展望台。
以前は三人しかいなかった。
今日は何十人もいる。
それでも分散されていて、窮屈ではない。
奏太が端へ座る。
湊たちも隣へ。
風。
山。
遠くの道。
「人気になったら、何か変える?」
湊が聞く。
奏太が考える。
「分散区域は増やします」
「それ以外」
「変えないと思います」
「イベントとか」
「やらない」
「ゲーム追加」
「しない」
「トロフィー」
「いらないかな」
「なんで?」
「歩くだけの場所だから」
奏太が遠くを見る。
「人気になったからって、人気ワールドっぽくしたら、ここじゃなくなる気がする」
結衣が頷く。
「それがいい」
「ありがとう」
現在利用者。
二万三千。
奏太は見ない。
湊は表示を閉じた。
ランキングも閉じる。
おすすめも。
数字を消す。
すると。
前回来たときと同じだった。
風。
草。
遠くの山。
歩いてきた道。
利用者が増えても。
ここへ来た一人が見る景色は変わらない。
湊は少しだけ後ろへ身体を倒した。
数え切れないワールド。
毎日増える新作。
AIのおすすめ。
ランキング。
人気。
埋もれる作品。
そこには確かに差がある。
でも。
人気の法則は、一つの数字ではなかった。
誰かが入る。
少し歩く。
気に入る。
もう少しいる。
また来る。
誰かへ教える。
その小さな行動をAIが拾う。
そして。
次の一人へ渡す。
奏太のワールドも、最初はそうだった。
二百八十三人。
その中の誰か。
そこから二十七人。
五百人への小さなおすすめ。
五千人。
五万人。
百万人。
今。
二万人以上が歩いている。
奏太が立ち上がった。
「ちょっと入口見てきます」
「何するの?」
「初めて来る人を見たい」
「制作者が入口で見張ってたら怖いよ」
結衣が言う。
「遠くから見ます」
「それならまあ」
「俺たちも行こう」
理央が立つ。
四人は来た道を戻り始めた。
途中ですれ違う。
一人。
二人。
十人。
知らない人ばかり。
その中の一人が友人へ話している。
「おすすめに出てきたから来たけど、ここいいね」
奏太の足が一瞬止まった。
でも何も言わなかった。
少しだけ笑う。
そして歩き出す。
おすすめに出なければ。
その人は来なかった。
でも。
おすすめに出ただけなら。
その人はすぐ帰っていたかもしれない。
選んだのはAI。
残ったのは人。
そして。
その人がまた誰かを呼ぶ。
人気の法則。
そんな名前を付ければ難しそうだった。
実際には。
誰かが見つけ。
誰かが好きになり。
次の誰かへつながっていく。
Linkcityでは、その間にAIがいる。
奏太は入口へ向かって歩いていった。
今日も新しいワールドが一千万以上生まれている。
そのほとんどは。
まだ誰にも知られていない。
けれど。
どこかの一つが今。
最初の一人に見つかった。
コメント
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うわあ……なんか、静かにじんわり来た話だったなあ。 「選んだのはAI。残ったのは人。」ってところ、すごく刺さった。風の終点、ほんとにただ歩くだけの場所なのに、それでいてちゃんと“残る理由”があるってのがいいよね。急に2万人になって怖がってる奏太くんの焦りもリアルでちょっとかわいかったし(笑)、でも「人気ワールドっぽく変えない」って言える強さがすごい。 あと結衣の「私の大きいソファは?」のくだり、不意にクスッとした。累計8人か……応援したくなる。 こういう、“埋もれてた灯がぽつんと見つかる”感じ、好きです🖤🌙