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夕暮れの教室は、窓から差し込む光が机の端を淡く照らしていた。
ドアが静かに開き、来訪者がそっと入ってくる。
椅子に腰を下ろすと、手のひらで顔を覆い、小さな声が漏れた。
「……私は、なんでもすぐ謝っちゃうんです。
悪くなくても、迷惑かけたかもって思うと、つい『ごめんなさい』って」
蓮司は机に肘をつき、ペンをくるくる回しながら、肩をすくめた。
「謝るって癖だな、そういうやつ」
来訪者はちらりと顔を上げ、少し戸惑った表情。
「癖……ですか」
「そう。謝ることで安心してるだけのときもある。
言ったら自分が落ち着くから、口が勝手に動くんだ」
「でも、謝らないと怒られたり、責められたりしそうで……」
「それは勝手に想像してるだけだな」
来訪者の手が机の端をなぞる。
「想像……」
「謝りすぎるとさ、言いたいことも言えなくなるだろ。
自分の意見より、まず『ごめん』。
そんなループに入って、余計しんどくなる」
「でも……どうしても謝ってしまう」
蓮司はペンを回しながら、少し遠くを見るように言った。
「直す必要もない。
ただ、謝るときに一歩だけ立ち止まる。
『これは自分が悪いのか?』って考えるだけでいい」
来訪者は眉をひそめ、小さく頷いた。
「……考えるだけ」
「そう。間違ってなければ、そのまま謝らなくてもいい。
謝るのは悪いことじゃないけど、無意味に出る『ごめん』は
自分を小さくして疲れさせるだけ」
教室の窓から、夕日の光が少し傾き、紙の端を揺らす。
「それにさ、謝らなくても済む場面って意外と多い。
人は謝られなくても、勝手に気にして忘れるもんだ」
来訪者はゆっくり息を吐き、少し肩の力を抜いた。
「……無意味に謝らないって、ちょっと勇気いるけど」
蓮司は軽く笑った。
「勇気って言うほどじゃない。
ただ、『今、謝る意味ある?』って自分に問いかけるだけ。
それだけで、謝る回数は減る」
教室に静かな風が入り込み、夕暮れの影が長く伸びる。
来訪者は机に手を置いたまま、少しだけ自分の気持ちを整理するように座っていた。
「……わかりました。少し、自分を小さくしすぎないようにしてみます」
蓮司はペンをくるりと回し、にやりと笑った。
「それでいい。謝る癖は悪くない。
でも、意味のある謝罪を選べる自分を持つのも、悪くないって話だ」
教室の影がゆっくり伸び、窓の外の夕闇が差し込んでいった。