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翌金曜日。大山鉄工所の応接室。
「と、いう事で引き続きよろしくお願い致します。」
「支店長はん!!うちも、バンバンやらせてもらいますわ!よろしゅーお願いしまっ!!」
――――
ふぅー…
この後……分かってはいるが、立ち上がりバッグにPCを押し込んで、帰る準備を…
「ささ、今日も簡単には帰しまへんでー!支店長はん!」
取引先からの接待だ。ここの社長さんは勢いが良すぎて少々疲れてしまうが、大事なお得意様だ……致し方ない。
――――
一件目、小料理屋。
二件目、スナック。
三件目、町中華……
「ヒャヒャヒャッ!支店長はん!そろそろ、エンジン掛かって来ましたなぁ!次は…」
「いやいや、社長。そろそろこの辺でおいとまさせて頂き…」
「早い、まだ早いがな!なんやねんなー!あーもぅそれなら分かりました、ラスト一件で手を打ちましょう!」
――――
四件目……ドコだったか…
大山鉄工所で打ち合わせると、必ずこの小さな繁華街で大山社長と呑む。しかし今日は…もう…ヘベレケだ…
もう、0時だぞ…
…………眠っ……
――――
……ぁち
…あちっ
アチアチアチアチッッ!
え?
囲炉裏?
――――
俺は慌てて頭を囲炉裏から遠ざけた。危うく髪が焼けるところだった。んで……ここは木造の家、いや小屋か?
小屋の回りを見渡す。
壁には猟銃…笠と蓑…………。
そして、小屋を包む獣臭。
……またぎ?
パチパチッ
薪の火がはぜる。
――――
その向こうに、うつむいたまま薪をくべる男。
囲炉裏の火が陰影をつける。男は…初老くらいか。
男は、スッと立ち上がり、
かまどの横に置かれていた小さなカメを手に取り、ぶっきらぼうに中の液体を湯呑み茶碗に注いだ。
――――
コポっ コポっ と、音が聞こえる。
男は湯呑み茶碗を俺の横に置く。
「気付けの一杯だ、グイってやんな」
「こ、これは……?」
「千縄の血を、寝かせたもんだ。」
――――
「獣はな……仕留めた時に、さっさと血抜きしねーと肉に血が回ってとても食えねえ……だから血抜きをするが、その時に出た血を溜めておく。血の若いうちはとても飲めたもんじゃねえが、寝かせりゃ立派な精力剤だ。」
俺はその、千縄の血を一口飲んだ……
バックンッッッ!! ドッックンッッ!!
か……かあーーー…………!!
――――
心臓が飛び出るような、ドーピングをしたような……
そんなやばい感じが五臓を駆けめぐる。
しかも味は、ソフトワインもどきを飲んでいるかのような飲みやすさ。
グビッ ドックンッ
身体が芯から、火照ってくる……
――――
男は俺の様子を見ながら、焼き網を用意。
奥へと下がり、一つ袋を抱えて戻って来る。
俺はただ、今何が出て来ても……楽しみでしかない。
キレイな……赤い身。その肉塊を網に放る。
――――
ブスプス ブスプス……
油が少しずつ、はじけている音だ。
そのとたん!!!
ボォーーーーーーッッッ!!
一気に炎が立ち上る。
肉に触れる事もなく真剣な眼で、男はその様をみている。
そして肉塊から、炎が消えた。
――――
皿にそれを取り、男は俺に差し出す。
「ンガのつぶし焼きだ。熱いうちに喰いな。」
…………ンガ?
「ロバやシマウマに近いか。ここにはたまに現れる。」
――――
熱いうちに……俺は一口ほおばる。
に、にが! メチャにが!!!
「ほれ、これで流しこめ。」
湯呑み茶碗の中にあるオレンジ色の液体。
俺は、ンガの苦さからそれを一気に流し込む。
ん…………今まで描いていた絵は何なんだ。
い、いや……良く分からない言葉が出て来る。
周囲から音が、一切聞こえない。
――――
苦味は消えて、穏やかな夕焼けの場面を見ているかのような…………全てを超えた旨さ。いや、旨いとかじゃない。
味の奥深さ。
普段、喰ってる時にはそこまで意識していない。
旨さなんて。
それを、その大切さを教えてくれる味……
――――
「一気に呑んじまったな、ほれ同じのもう一杯だ。」
「こ、これは……?」
「俺は、喝采と呼んでる……千縄の血を20年寝かせたもんだ。20年寝かせたら、オレンジの穏やかな色になってな。」
グビッ
あー…………これは魂の、味だ。
グビッ
グビッ……
あ…………