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#推理
57話 短い時間の家
夕方。
通路の途中。
立ち話。
止まっているのは、
ほんの数分。
話しているのは、
母の知り合い。
背は低め。
肩にかかる髪を、
後ろでひとつにまとめている。
袖口は少し擦れて、
色が薄い。
「うちは、
八時間なの」
言葉は軽い。
説明するというより、
思い出すみたいに。
リカは、
一歩後ろで聞いている。
肩までの髪。
靴の先で、
石床をこする。
八時間。
朝。
昼。
夜。
全部が、
きっちり区切られる。
起きる。
食べる。
出る。
戻る。
少し遅れると、
次の日になる。
知り合いは、
それを不便とは言わない。
「慣れると、
楽よ」
時間が短いと、
迷わない。
だらだらしない。
やることが、
はっきりする。
母は、
静かにうなずく。
否定もしない。
羨ましそうでもない。
リカは、
自分の家を思い出す。
まだ夕方で、
今日は続いている感じ。
長い時間。
短い時間。
どちらが正しい、
という話じゃない。
その家は、
そういう時間。
この家は、
こういう時間。
生活のリズムは、
人それぞれ。
時間も、
同じだけ、
それぞれだった。
通路の先で、
別れる。
歩き出す。
リカは、
自分の歩幅で、
家に向かう。
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