《アドベンチャー科》。
今年の入学者、総勢20人。
この科では、2年後に卒業試験が行われる。
それに合格すれば、冒険者ギルドに登録する際、
「スクール修了者」として記載され――
受けられる依頼の幅も、かなり広がるらしい。
そんなわけで、体育館での入学式が終わったあと――
俺たちは、それぞれの教室に案内され、席に着いた。
教室自体は、小中高のどこかで見たことあるような、古めかしい木の机と椅子が並んでいる。
俺の席は――
一番左の、一番後ろ。
そして、その目の前の席には――ルカが座っていた。
席の配置は、4列×5行。つまり、合計20席ぴったり。
「では、一人ずつ、自己紹介をお願いします」
担任の先生がそう言って、前に立つ。
見た感じ、年齢は40くらい……といったところか。
……うん、女教師がエロいのって、アニメとか漫画だけだな。
現実(異世界)では、至って普通の――
なんならちょっと厳しそうなタイプの女性教師だった。
一人ずつ自己紹介が進んでいき、
やがて――ルカの番がやってきた。
「ワシの名前はルカなのじゃ。よろしく頼むのじゃ」
……ほんの、なんてことのない自己紹介。
その一言に、どこか和んだ空気が教室内に広がる。
でも――俺は、ぼんやりと思ってしまった。
……なんだろうな、この雰囲気。学校って感じ。
懐かしい。
でも――同時に、どこか苦しくなる。
………………
正直、あまりにも“前の世界”と似すぎていて――
思い出したくないことまで、思い出しそうになる。
いや、ほんとさぁ。
馬鹿だったから、先生にめちゃくちゃ怒られてた記憶しかないんだよね?
あと、深夜までゲームやって、授業中に寝てて怒られるとか――
うん。そりゃもう、怒られ記録表の常連だったわけで!
だが俺は今は見た目は子供頭脳は大人だ!
あの時の失敗は繰り返さない!
そして――俺の番が、来た。
「次、お願いします」
「はい」
立ち上がり、深呼吸。
「アオイと、言います。これからよろしくお願いします」
……うん、普通。
完ッ全に、普通の自己紹介。目立ってない。大丈夫。完璧。
……のはず、だったのだが。
「ねぇ、アオイって名前なんだって……」
「ああ、アオイか……アオイ……。いい名前だ……心に刻むぜ……」
「アオイ……なんて素敵な響き……。由来、聞いてみたい……」
……あれ? なんか……ざわついてない??
俺、目立ってないよね!?!? 大丈夫だよね!?
「はい、みなさん静粛に。次の方、どうぞ」
……うぐっ。
目立つの、嫌なんだけどなぁ……。
「わ、私はスヒマルっていいます……よろしくお願いします」
隣の、少しぽっちゃりした女の子。スヒマルちゃんか。よし、覚えたぞ!
自己紹介はそんな感じで滞りなく進み、無事に終わった。
どうやら明日から早速授業が始まるらしい。
校内の施設――図書館、食堂などは基本自由に使っていいらしく、
もちろん許可さえ出れば、図書館にはぜひ行ってみるつもりである。
(できれば、誰にも絡まれずに……ひっそりと)
「では、これから二年間、よろしくお願いしますね。今日はこれで終わりです」
担任が出ていき、教室は一瞬だけ静寂に包まれた。
そして――
「君!アオイちゃんって言うの?」
「ねぇ!アオイちゃん、これからモルノ市場で一緒に買い物しない?」
「アオイちゃん!俺たち、冒険者になったらパーティ組もうよ!」
アオイちゃん、アオイさん、アオイさん、アオイちゃん――
男女問わず、一斉に俺の席へ押し寄せてくる!
な、なにこれ!?なんでこんなことに!?
「え、えーっと……」
ルカを見ると、そっちも数人に囲まれてて――目が合った瞬間、助けを求める表情になる。
ああ、ダメだ。あっちもパニックだ。
「な、なんなのじゃお主らっ!」
「その喋り方、めっちゃ可愛いね!」
「ルカさん、このあと一緒にお茶でもどうですか?」
ルカさん、ルカちゃん、ルカにゃん……なぜ俺たちだけ集中砲火を浴びているんだ!?
そんなに俺、目立ってた……?
「大丈夫?アオイちゃん」
声をかけられる。
ここで、気の利いた返しをしなければ――
俺の異世界スクールライフは“陰キャ爆死ルート”に突入してしまう!
落ち着け俺!ここが勝負だ!
俺は、学校デビューを成功させるために転生してきたんだ!!
「え、えーっと……ハハ」
………………ダメだ。
いい答えなんて出てこない。
とりあえず笑ってごまかしてみた、その瞬間――
「ぐはっ!!」
「おい!どうした!」
「お、俺は……この笑顔のために……生きてたんだ……」
「まだ死ぬな!起きろ!おい!」
一人の男子が鼻血を吹いて、そのままバタリと倒れた。
え、ええええええええぇ!?
なんで!?笑っただけだよ俺!?
なんで命削って見てたの!?
ていうか俺、入学初日で人ひとり殺しそうなんだけど!?
それを見ていた、ルカの周りにいた男子の一人がつぶやく。
「ふん、この程度で倒れるとは……手ぬるいな」
その余裕ぶった男に、ルカがふと気付き__
「お主、何か糸がついてるのじゃ。取ってやるのじゃ」
そう言って、軽くその人の服に手を伸ばし――
「ぐわぁぁあああああああっ!!」
「ど、どうしたのじゃ!?」
「も、もう……この服……絶対に洗わない……!!」
ルカに軽く触れられただけで、男は涙を流しながら崩れ落ちた。
いや、待て。
なんだよこのクラス!?
どうなってんだ!?
「と、取り敢えずみんな明日ね!また明日!ぐっばい!」
「ま、待つのじゃアオイ!」
俺は、カオスと化した教室にこれ以上耐えきれず、ルカと一緒に走ってその場を後にした。
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「な、なんじゃったのじゃ……」
「わ、わからない……けど……」
二人で靴箱まで駆け抜けて、息を整える。
……良かったのかな。こんな感じで逃げ出して。
逃げてしまった自分をちょっと悔やむ。でもさ!
目の前で鼻血出されて、涙まで流されてみなよ!?
しかもアイドルでもセレブでもなく、ただの一般人にだよ!?
それ、もはや事件じゃん!!
ちなみに俺はアニメの主人公みたいに鈍感ではないので、ここでハッキリ言わせてもらう――
「絶対に周りの人がおかしい!」
……そう結論づけて、今日はルカと一緒におとなしく帰ることにした。
……明日、学校行ったらどうなってるんだろ。
『――アオイは気づいて無かった、アオイの魅了が押さえつけきれないほどに、暴走している事に__』
――学園生活編、スタート。
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